失敗を恐れず、チャレンジするドコモへ――NTTドコモ 加藤薫社長に聞く(3/3 ページ)
2012年6月に、NTTドコモの代表取締役社長に就任した加藤薫氏。「スピード」と「チャレンジ」というスローガンを掲げ、「7分でよしとせよ」の精神でドコモを変えていきたいと語る加藤氏に、“新しいドコモ”のこれからを聞いた。
―― 今秋からはKDDIとソフトバンクモバイルが、FDD方式のLTEサービスを開始します。こちらはドコモのXiとの直接競合になるわけですけれども、今後、どのように競争優位性を打ち出していきますか?
加藤氏 LTEは1年半前からXiとして提供させていただいていて、我々に一日の長があります。今年度中には人口カバー率も70%超にし、これはお客様に直接見える部分ではありませんが、3Gと協調させるネットワーク制御の部分でもノウハウの蓄積があります。
あと基地局数を見ていただくとお分かりになると思いますが、Xiではエリア内の密度を重視して実質的な使い勝手の向上も重視しています。また、電波を建物内の奥まで届ける(=屋内エリアを充実させる)といった取り組みはこれまで地道に行ってきました。こういった部分は先行優位性と言えます。
―― 一方で、ドコモはWi-Fiを用いたオフロード戦略の部分で、他社より見劣りします。docomo Wi-Fiのスポットエリア自体は急ピッチで増えしているようですが、スマートフォン上でのdocomo Wi-Fiの設定や接続支援アプリのUI、ユーザー宅のWi-Fi化への取り組みはむしろ他社の方が進んでいるのが実情です。
加藤氏 それは我々の反省点で、Wi-Fi活用やオフロードの重要性について、我々の認識が甘かったと言わざるをえません。ソフトバンクさんは早くからスマートフォンでトラフィックが激増し、Wi-Fiの活用とオフロード戦略が重要になると予測されていましたが、ドコモはそれに懐疑的でした。しかし、これは前言撤回しなければなりません。今ではスタンスを変えて、Wi-Fiを積極的に活用するべく、docomo Wi-Fiの見直しと改善を急ピッチで行っています。
―― docomo Wi-Fiのスポットエリアを広げるだけでなく、使いやすさ向上や、ドコモユーザー宅のWi-Fi化サポートなども積極的にやっていく、と。
加藤氏 やっていきます。ドコモとしては、Xiのエリア拡大を愚直に行いつつ、Wi-Fi利用環境の改善や、トラフィック制御の高度化などにもしっかりと投資していく。これからスマートフォンが増えていくことを鑑みますと、インフラについて「これさえやっておけばOK」という簡単な答えはありません。できることはすべてやっていかなければいけません。
総合サービス企業としての強化と、M2Mへの取り組み
―― ここ数年、ドコモは「オークローンマーケティング」や「らでぃっしゅぼーや」「タワーレコード」など異業種企業を買収しています。これらの買収の意図はどのようなものなのでしょうか。
加藤氏 並べてみると脈絡なく買収しているように見えるかもしれませんが(笑)、これはドコモが総合サービス企業を目指すという戦略に基づいて行っています。その走りとなったのがオークローンマーケティングやらでぃっしゅぼーやの買収でした。その後も買収や出資を行っていますが、これは今後も積極的に続けていきます。
では、この取り組みが何に結びつくかというと、先ほどのdマーケットです。ここでは今後、eコマースやヘルスケア、教育といった具合に生活全般のサービスを用意していくわけですが、その基盤作りのために異業種企業の買収や出資を行っていきます。
―― 今はコンテンツの方が目立っていますが、dマーケットが将来的に広がっていくための布石というわけですね。
加藤氏 そのとおりです。特に(dマーケットは)今後、リアルの方向に進んでいきますので、異業種企業との関わりはとても重要になっていきます。
―― もう1つ提携戦略についてですが、7月10日にスペインのTelefonicaはじめ海外オペレーター6社と、国際的なM2Mプラットフォーム構築を行うと発表されました。これは今後、どのようにビジネス展開していくのでしょうか。
加藤氏 これまでもM2Mへの取り組みを行ってきましたが、この分野に国境はありません。例えば、コマツさんは通信モジュールを用いて世界中の建設機械を動態管理しています。同様のことを自動車メーカーがやられるかもしれない。これからドコモがM2Mに本格的に取り組んでいくとすると、それはグローバルで利用できなければなりません。ですから、海外オペレーターと手を組み、各国の回線インフラをM2Mで使えるようにする枠組みを作ることは(今後のM2Mにおいて)必然だと思っています。
―― ということは、国際M2Mプラットフォームの参加キャリアは今後増やしていくのですか。
加藤氏 当然ながら、増えた方がいいですよね。
―― M2Mは2010年代の成長領域として重要なわけですが、今回の国際M2Mにおける提携はそこを本格開拓する一環である、と。
加藤氏 ええ。M2Mのビジネスは通信モジュールを売って通信料収入を得るという部分だけですとARPUが低いですので、今後はBtoBで“ソリューション”を売るという形になっていくでしょう。
ドコモらしさは「スピード」と「チャレンジ」に
―― 加藤新体制におけるドコモは、これからどのような個性や強みを打ち出していくのでしょうか。
加藤氏 これは社長就任時にも申し上げましたが、やはり「スピード」と「チャレンジすること」です。今年ドコモは20周年を迎えたわけですが、我々もベンチャー企業だったことに立ち返らなければなりません。失敗があってもいいので、チャレンジを続ける。リトライしていく。そのような取り組みを続ける中で、お客様によりよいサービスが積み上がっていくのが、理想的な形だと考えています。
―― 2000年代後半くらいから、ドコモの創業期からiモード立ち上げ期にかけてあったベンチャー的な前のめり感が徐々に薄れていき、他社の様子を見ながら堅実に振る舞うようになったように思います。新たな分野には後続のポジションから入って実利を得るというスタンスも目立つようになってきましたが、それはこれから変わりますか?
加藤氏 変えたいと思っています。研究開発分野も含めてドコモの底力の部分を積極的に出していき、市場にうまく受け入れられなかったら、修正したり、形を変えてもういちどチャレンジすればいい。失敗を恐れず、チャレンジとブラッシュアップを繰り返しながら、高みを目指していけばいいと思います。
時代がスマートフォンにシフトしていくことで、今は潮目が変わってきています。ここでじっくりと構えているわけにはいきません。元気なドコモになりますので期待してください。
関連キーワード
NTTドコモ | スマートフォン | 就任・着任 | 番号ポータビリティ | プラットフォーム | dマーケット | Android | M2M | 経営 | Xi(クロッシィ) | 社長交代 | 山田隆持 | ドコモプレミアクラブ | インフラストラクチャ | docomo Wi-Fi | プラチナバンド | 販売奨励金 | LTE(Long Term Evolution) | dメニュー | eコマース | サービスエリア | ARPU | B2B | コンテンツプロバイダ | 顧客満足 | 神尾寿 | Windows Phone
関連記事
ドコモ、「GALAXY S III」の事前予約は6万台以上
NTTドコモは、「GALAXY S III」など2012年夏モデルのXiスマートフォン発売を記念したセレモニーをヨドバシAkibaと有楽町ビックの店頭で開催。女優の堀北真希さんも登場して新モデルの感想を語った。NTTドコモ、新社長に加藤薫氏 副社長は坪内和人氏、岩崎文夫氏に
NTTドコモが、6月19日以降の新経営体制を発表。現社長の山田隆持氏は取締役相談役に退任し、取締役常務執行役員 経営企画部長の加藤薫氏が新社長に就任する。また代表取締役副社長も坪内氏、岩崎氏に交代になる。加藤新社長就任でドコモはどう変わるのか
NTTドコモが5月11日、夏からの新経営体制を発表した。社長、副社長が全員交代となる大規模な人事異動で、山田隆持社長が牽引してきたドコモは、加藤薫新社長の下でどう変わっていくのか。記者会見からひもとく。NTTドコモの新社長に加藤薫氏が就任
NTTドコモの新社長に、取締役常務執行役員 経営企画部長の加藤薫氏が就任。社長を務めていた山田隆持氏は相談役に退く。スローガンは「スピード&チャレンジ」、“七分でよし”のマインドも――ドコモ“加藤体制”がスタート
「お客様に“七分のところ”で問いかけ、そこから磨き上げて100%のサービスにもっていく」――。加藤新体制では、こんなスピード経営でスマートライフの実現に向けたサービス開発を加速させる。ドコモ「安さ」でも勝負 クラウドで差別化も推進
NTTドコモが2011年度決算を発表。スマートフォン事業の好調などで、8期ぶりの増収増益を達成した。2012年度は端末価格も含めた「総合力」で他社に対抗していく。クラウド側に高度な処理機能を設ける「ネットワーククラウド」事業などで、独自の付加価値創出にも取り組む。「泥沼競争」避けたい――Xiで差別化目指すドコモ、契約数の通期目標を上方修正
ドコモが第3四半期決算を発表。スマートフォンが後押しする形でLTEサービス「Xi」の契約が伸び、同社は契約数の通期目標を130万から200万に上方修正した。スマートデバイス時代への備えは万全か――NTTドコモ 山田社長に聞く(前編)
急激に拡大したスマートフォン市場に対して、NTTドコモはどう備え、どのように対応しているのか。山田隆持社長に聞いた。ドコモは携帯電話会社を卒業する――NTTドコモ 山田社長に聞く(後編)
世界に先駆けて、モバイルインターネット市場を構築したNTTドコモは、クラウドとソーシャルがキーワードとなる時代にどのような成長を目指すのか。山田隆持社長に聞いた。“俊敏で活気と結束力のあるドコモ”に変わる――ドコモ、山田新体制がスタート
「新生ドコモのキーワードは変革とチャレンジ」――。初の定例会見に臨んだドコモの山田隆持社長は、今後の事業の方向性をこんな言葉で表現した。顧客満足度の向上に向けた具体策にも触れ、携帯電話へのエージェント機能の搭載やドコモショップの拡充などを挙げた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.