音声通話SIMを提供するIIJの狙い/「MVNO2.0フォーラム」で見えたMVNOの現状と課題:石野純也のMobile Eye(3月3日〜14日)(3/3 ページ)
3月7日はIIJが音声通話対応のSIMカードを発表したほか、6日には総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会が「MVNO2.0フォーラム」を開催した。今回は、これらMVNOが提供するSIMサービスの現状と課題をまとめた。
契約時の本人確認もMVNOにとっては重荷に
契約時に行う本人確認に求められる厳格さが、現状では日本は諸外国よりはるかに厳しいのも、MVNO普及の妨げになっているきらいがある。例えば、IIJの音声対応SIMは、店頭で買ってすぐに使うことができない仕組みになっている。販売されるのはパッケージのみで、実際にはそこから本人確認書類をアップロードして、SIMカードが送られてくるのを待つ必要がある。
IIJでは音声対応SIMカードで「ライトなユーザー層への拡大が期待できる」(青山氏)というが、買ってすぐに使えないのは少々ハードルが高い。佐々木氏が「非対面販売に対して定められたガイドラインがあるので、そちらに完全に準拠した」と言うように、現状の警察が求める要請が厳しすぎるために、店舗を持たないMVNOではこのような手を打たざるを得ないようだ。
この点について、日本通信の福田氏は「警察には当初インターネットを売るなと言われた」としながら、「犯罪が起きるとエモーショナルにビュッと行く。詐欺のような犯罪はかなり組織化していて、誰かの名義で携帯電話を何十本も契約させることが行われている。きちっとした抑止力があるのかないのかが重要」と語っている。
NECビッグローブ 取締役執行役員常務の内藤氏の見解もこれに近く、「犯罪集団からすると、本人を特定できない形であればなんでもいい。本人確認をするだけで必ずしも防げるものではない。それによって失われるものと得られるのもを国民的に議論する必要がある」という。
ほかにも、MVNOが抱える課題はまだまだ多い。例えば、現状ではネットワークの貸し出し先がドコモに偏っており、KDDIやソフトバンクモバイルのMVNOがほとんど存在しないため、料金プランやサービスの幅には限界が出ている。冒頭で紹介したIIJのプランのように、1Gバイト1000円という相場も、ドコモの出した接続料に沿って料金を算出している以上、こうならざるを得ない面がある。テレコムサービス協会のMVNO委員会では、「MVNOの事業環境の整備に関する政策提言」を取りまとめて、今後の制度改善を働きかけていく方針だ。
MVNO2.0フォーラムでは、海外の最新事情が三菱総合研究所 情報通信政策研究本部の西角直樹氏より紹介された。MVNOは「西欧平均で10%ぐらいのシェアを持っている」という。北米でも、10%近い市場シェアを持ち、「近年ではデータ系のMVNOも増えている」という状況だ。一方、日本では「通常の意味でのMVNOのシェアは4%」程度に留まっている。ネットワークの事情などを日本と比較すると、欧米をはじめとした海外が必ずしも優れているわけではないが、MVNOによって通信サービスに多様性が生まれているのも事実だ。これらの課題が解決に向かうことを期待したい。
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