ドコモ夏モデルとVoLTEの狙い/好発進の「au WALLET」/au回線を活用した「mineo」の新しさ:石野純也のMobile Eye(5月12日〜23日)(1/3 ページ)
この2週間は、ドコモ夏モデルの発表や、ケイ・オプティコムのMVNO参入、au WALLETの開始など、モバイル業界のニュースがにぎわった。今回はこれら3つを取り上げたい。
ドコモの夏モデル発表会、ケイ・オプティコムのMVNO参入、au WALLETのサービス開始、ヤフーのイー・アクセス買収中止と、モバイル関連のニュースが目白押しだった5月12日から23日にかけての2週間。その間、KDDIが発表した夏モデルや、ソフトバンクの「AQUOS Xx 304SH」など、新端末も続々と店頭に並び始めている。
今回は、ドコモの夏モデルの発表内容を取り上げるとともに、一足先にサービスを開始したau WALLETの影響力を考察する。また、KDDI回線を活用したケイ・オプティコムの発表についても、MVNOの新たな動向として注目した。
「オススメは全機種」のドコモ、その狙いは?
ドコモは5月14日に、夏モデルの新商品発表会を開催した。新たに投入されるのは、スマートフォン7機種、タブレット2機種、フィーチャーフォン2機種の計11機種。単体で通信可能な端末としては、ほかにスマートデバイスでのテレビ視聴を行うための「TV BOX」が加わり、計12機種をラインアップする。「GALAXY S5 SC-04F」は、この会見の翌日に発売。本稿執筆時点までに、スマートフォンは「Xperia Z2 SO-03F」「AQUOS ZETA SH-04F」が、フィーチャーフォンは富士通製の「F-07F」が店頭に並んだ。
Xperia Z2に関しては、加藤社長があえて「日本で扱うのはドコモだけ」と述べるなど、“ドコモ色”を出すことに注力している姿勢がうかがえた。「Xperia A2 SO-04F」や「ARROWS NX F-01F」「Disney Mobile on docomo」なども、今シーズンはドコモにだけしかないブランドとなる。過去には「ツートップ」や「おすすめ3機種」というように、一部の機種の割引額を増し、販売を促進してきたが、今年の夏モデルではその方針を改め、「おすすめは全部」(代表取締役社長 加藤薫氏)とうたった。その理由は、「それぞれに特徴があり、その特徴をうまく選んでいただけるようなラインアップにしたつもり」だからだという。過去に比べて、機種数を絞り込めてきたため、特定の機種だけを推す必要性もなくなっているようだ。
また、ドコモ関係者によると、夏モデルは「新規、MNP、機種変更で、それぞれ実質価格を変えている」という。例えば、Xperia Z2はMNPに月々サポートが厚めにつけられている半面、「Disney Mobile on docomo SH-05F」は新規の実施価格がMNPより安い(→ドコモ夏スマホ 一括価格は8万円台、実質価格は1万円台から)。「この機種は新規が取りやすい、この機種はMNPに強いとったふうに、傾斜をつけている」(同)というわけだ。「プレミア10年特割」や「Xiデビュースマホ割」といった既存ユーザー向けのキャンペーンも用意し、これを適用すると機種変更の方が安くなる機種も多い。加藤社長の「おすすめは全機種」という発言からは、MNPだけでなく、既存ユーザーに向けても端末を訴求していきたい狙いが透けて見える。
6月1日に開始される新料金プランと連動した「TV BOX」も、面白い端末だ。TV BOXは、スマートフォン、タブレットのテレビチューナーとして使える端末で、OSにはAndroidを採用する。テレビに出力すると、これ自身をAndroid端末として利用できる。さらに、通信機能も備えているため、Wi-Fiルーターにもなる変わり種のデバイスだ。このTV BOXは、新料金プランの「デバイスプラス」に対応。月500円の追加料金で、メイン回線とパケット通信料をシェアすることが可能となる。
夏モデルは、「らくらくスマートフォン3」と先に挙げたXperia A2、Disney Mobile on docomoを除き、新サービスのVoLTEに対応する。VoLTEとは、LTEの通信網にデータとして音声を乗せる技術のこと。専用の帯域を確保しているため、現状の音声通話と同様、ネットワークが混雑している場所でも安定して通話できるのが、ほかのIP電話アプリとの大きな違いだ。加藤社長が「通信会社ならではの高品質なテレコミュニケーション」と述べていた理由は、ここにある。
やり取りする声の周波数が広がるため、「特に高音域、女性の声が伝わりやすい」(加藤社長)。発着信時に3Gに切り替える「CSフォールバック」の必要がなくなるため、発信も速くなる。このほか、映像つきの「ビデオコール」にも対応する。
VoLTEを導入するメリットは、ドコモにもある。加藤氏によると「VoLTEは周波数効率が3倍になり、リソースを節約することができる。その空いた分をデータ通信に利用でき、データ通信がさらに快適になる」という。具体的には、「今現在4つある道路(5MHz幅×4で合計20MHz幅の帯域のこと)のうちの1つを、LTEに回せると考えている」と、加藤氏は囲み取材で語った。VoLTEの導入によって3Gに接続するユーザーが減れば、LTEを5MHz幅増やせるため、LTEを37.5Mbps分だけ高速化できる。その布石として、VoLTEを導入したともいえるだろう。
音声がきれいで、周波数利用効率も高いというVoLTEだが、現時点では課題も残る。1つは対応端末。先に述べたように、夏モデルの中にも未対応の機種があり、完全な切り替えには時間がかかりそうだ。しかもXperia A2やDisney Mobile on docomoは、グローバルモデルのXperia Z2やGALAXY S5よりも“ドコモ向け”を意識して開発されている。この2機種が、ネットワークサービスと歩調が合っていないのは、筆者が疑問に感じた部分だ。
また、サービス開始後も、高音質の恩恵を受けられるのは、ドコモのVoLTE対応端末同士だけとなる。加藤社長は「まずはVoLTE−VoLTEを中心にする」と述べており、KDDIやソフトバンクといった他社との話し合いもこれからだとした。つまり、しばらくは、限られたユーザー同士の通話でしかVoLTEの効果を体感できないということだ。せめてグループ内で連携して、固定電話との通話は今までより音質が高いなどの付加価値は出してほしかった。
「プッシュトーク」や「Hello Messenger」のように、1社に閉じたネットワークサービスは過去にもあったが、どれもあまり成功していない。これに対して、キャリアやプラットフォームを超えたコミュニケーションサービスの成功事例は、枚挙にいとまがない。これらと異なり、音質は落ちるものの、VoLTEは他社の回線ともつながるため、端末が増えれば自然と普及は進むだろう。ただし、本当の意味で音質のよさがユーザーに評価されるには、ドコモ以外の回線とどれだけ連携できるかが鍵になりそうだ。
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