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安全・安心なインフラ作りのために――ドコモ関西の取り組み(後編)

災害の多い日本において、キャリアはどのような対策を行っているのか? 東日本大震災をきっかけに基地局の本格的な整備を進めるNTTドコモの災害対策を取材した。

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 NTTドコモをはじめとするキャリアは、災害の多い日本でも安全・安心して使える対策を進めている。前編では通信インフラを構成する“後衛”の西日本ネットワークオペレーションセンター(NOC)や、最前線の“前衛”で通信を支える移動基地局車を紹介した。

 移動基地局車の対応エリアは半径約1キロと狭いが、移動してスポット的に自然災害に対応できる。その他にも、ドコモでは通常の基地局の基盤をより強化した「中ゾーン基地局」や、災害時のみに使われ広域をカバーする「大ゾーン基地局」を備えている。それぞれの特徴と災害時の運用方法について、大阪で取材した。

高所恐怖症にはツラい、大ゾーン基地局の屋上メンテナンス

 ドコモでは東日本大震災をきっかけに、2011年9月以降大ゾーン基地局を本格的に整備してきた。大ゾーン基地局とは、広域災害時に人口密集地の通信を確保するため、通常の基地局とは別に設置した災害時専用の基地局のこと。都道府県ごとにおよそ2カ所ずつ、全国に106カ所設置している。

NTTドコモ 関西支社
ドコモの大ゾーン基地局は大阪某所の建物屋上に設置されている。建物自体も高層なのだが、その上にさらに高い鉄塔が建っているのだ

 大ゾーン基地局のカバー範囲は、半径約7キロ、360度と非常に広域である。例えば大阪では、大ゾーン基地局だけで都市部人口の約35%をカバーする。一般の基地局1つあたりのエリアが半径数百メートルから数キロほどであることを考えると、大ゾーン基地局のエリアがいかに広いか分かるだろう。

 設置当初の通信方式はFOMA(3G)のみだったが、2016年度末までに全てLTEに対応する予定だ。これにより通信容量が約3倍に拡大され、災害時での利用が増えているデータ通信需要に対応する。とはいえ、1つの基地局だけで収容できる通信容量には限界がある。1局で広範囲をカバーする大ゾーン基地局は、平時の膨大な通信需要をさばくには向かない。災害時に、広い地域でまずは通話・通信を確保するための設備なのだ。

 今回訪れたのは、大阪に4局ある大ゾーン基地局のうちの1つ。大阪市某所にあるビルの上にひときわ高い鉄塔がそびえており、そこに大ゾーン基地局の設備が備えられている。大ゾーン基地局はより遠くに電波を飛ばすため、耐震構造の高層ビルや専用の鉄塔を活用していることが多い。

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地上約180メートル付近にある基地局設備。この高さからだと、大阪の都市部が一望できる

 大ゾーン基地局の屋上では、ドコモの技術者たちが定期的に設備のメンテナンスを行うという。まずビルの屋上で落下防止のためのライフジャケットを身に付け、屋上行きのエレベーター乗り場まで階段を上っていく。エレベーターは大人がぎりぎり3人直立できるくらいのサイズだ。エレベーターに乗り込み、10分ほどかけて高さ約180メートルほどの屋上までゆっくりと上っていく。

 屋上に到着すると、まず命綱をライフジャケットに結び付ける。屋上には360度等間隔でアンテナが鉄塔に設置されている。取材当日は穏やかな晴天だったため、大阪の街並みを360度見渡すことができ、日本一の超高層ビル「あべのハルカス」も遠望できた。

 景色はきれいだが、観光タワーと違ってガラス窓など遮るものがないので、作業は吹きさらしのなか行わなければならない。技術者によると夏は暑く、冬は指がかじかみ作業が大変だという。

 そして地上を見下ろせば、高所恐怖症でなくとも足がすくむ高さである。高所恐怖症の技術者もいるが、「最初は怖かったが、怖いなんて言っていられない。しばらくすると慣れる」という。私たちが災害時でも安心して通信できるために、技術者たちは日々危険な場所で地道に整備を続けている。

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災害時にはここから都市部のエリアをカバーするほか、マイクロ波による通信の中継も行う

通常の基地局をより強固にし、電源と中継網を強化した中ゾーン基地局

 大ゾーン基地局は半径約7キロをカバーできるが、主な設置場所は人口密集地の周辺に限られている。そこでドコモ関西では、津波の被害を受けやすい沿岸部を中心に、中ゾーン基地局を設置。大ゾーン基地局と組み合わせることで、災害時でも約96%のユーザーの通信を確保できるようにしている。

 中ゾーン基地局とは、通常基地局の電源設備や伝送路を強化した基地局のこと。平時は通常の基地局として運用するが、災害時に周辺の基地局が機能しなくなった場合、遠隔操作でアンテナ角度を変更してエリアの広さを拡大できるのが特徴だ。通常時のエリア範囲は半径1キロ程度だが、災害時は3〜5キロ程度まで範囲を広げ、周辺の基地局のエリアをカバーする。

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大阪湾岸部の某所にある中ゾーン基地局。通常時でも一般的な基地局として運用している

 また南海トラフ巨大地震の発生時は、津波により基地局への伝送路が切れたり、電気が途絶える恐れもある。そこで中ゾーン基地局では、有線(光回線)と無線(マイクロ回線)と伝送路の二重化を行い、有線の伝送路が切断された場合でも通信可能にした。さらに停電して電源が喪失しても24時間以上の運用ができるバッテリーを備えた。ドコモは2017年度末までに全国で1200局以上の中ゾーン基地局を整備するとしている。

NTTドコモ 関西支社NTTドコモ 関西支社 中ゾーン基地局には有線(左)と無線(右)の伝送装置が用意されている。これにより、有線の伝送路が寸断されても、通信を確保できる

 今回取材した大阪市内某所の中ゾーン基地局は、中層ビルの屋上に設置されていた。備え付けられたバッテリーは燃料電池方式である。この燃料電池では、メタノール溶液が59%、水が41%の割合で配合された混合液が使われている。また燃料は階段を使い、人力で屋上まで持ち運ばなければならない。中ゾーン基地局ではおおよそ3日程度を燃料電池でまかなえるようにしている。その間に電力会社によって電源が回復するか、ドコモの災害復旧員が駆け付けるという想定だ。この3日という日数は、東日本大震災時の経験によるものだという。

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中ゾーン基地局の特長である燃料電池装置。メタノール水溶液を改質して水素を取り出し、化学反応で発電を行う

 一方、伝送路は通常時は有線を使用しているが、非常時はマイクロ波通信の伝送路を活用する。マイクロ波伝送路のバックボーンは沿岸部に対向する山あいにあり、そこまでは津波被害を受けない。これにより津波で光回線が切れてしまっても、中ゾーン基地局はきちんと役割を果たすことができる、というわけだ。

災害大国日本での安全・安心対策

 関西では南海トラフ巨大地震だけでなく、しばしば起こる大型台風などによる水害も想定される。そこで基地局のかさ上げといった対策を31の基地局で実施し、2015年7月に完了した。

 さらに関西全域の震災ハザードマップから基地局設備への被災影響を想定し、水害時でも孤立化しないよう基地局設備を強化。衛星エントランスを設置したり、太陽光発電やリチウム電池を用いた電源対策などを進めたりしている。2017年3月には、内陸部の水害対策が完了する予定だ。

 災害の多い日本では、他国よりもより強固で確実な災害対策が求められる。大手各キャリアは大きな災害を経験する度、基地局の整備や移動基地局車の配置など、災害対策の改善と強化を進めている。他方で、個人でも災害用伝言板の利用方法を事前に調べておくなど、災害に備えて対策を確認しておくことが必要だろう。

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