総務省の「ガイドライン」がもたらした混乱――スマホの購入補助はどこまで許されるのか:石野純也のMobile Eye(3月28日〜4月8日)(2/2 ページ)
スマートフォンの価格をめぐる、総務省とキャリアの駆け引きが激化している。総務省は3月25日にスマートフォンの販売を適正化する「ガイドライン」を策定。これを受け、大手キャリア3社がキャンペーンを見直す事態となったが、その基準は曖昧だ。
競争の促進や値下げは、制度設計で解決すべき
一連の総務省やキャリアの動きを見ていると、曖昧なガイドラインが、販売の現場に大きな混乱を招いている印象を受ける。
確かに、総務省としては、民間企業であるキャリアに対し、明確に「いくら以下はNG」と打ち出すのは難しい。逆にキャリアとしてみれば、基準が分からず、価格設定が暗中模索になってしまう。タスクフォースでは「実質0円をめぐる大幅なキャッシュバック」が問題視されていたはずが、いざガイドラインの運用が始まってみたら、想定より厳しい内容になっていたというのも、寝耳に水といったところだろう。
もともと、タスクフォースは、安倍首相の「携帯電話の料金が、家計に占める割合が高すぎる」という鶴の一声で始まったもの。その過程で、国際比較なども交えながら、日本の通信料は、諸外国より極端に高くはないという方向で議論が進んでいった。結果として、タスクフォースは、「不公平」の是正が主な焦点となり、MNP利用時の過度なキャッシュバックや、低容量のプランが用意されていないことなどに論点が絞られていった。4月1日から運用が開始されたガイドラインも、こうした議論に基づいて作成されている。
しかし、今のままでは、単に端末の実質価格が上がっただけだ。家計の負担を軽減するつもりで始めた規制のせいで、ユーザーの負担を増やしているのは本末転倒。当初の趣旨を考えれば、この値上げ分が通信料に反映され、相殺されなければならないはずだ。一方で、通信料は、民間企業であるキャリアが決定すべきこと。官邸や行政が、統制できるものではないため、実現には時間がかかるだろう。その過程で、第2、第3のタスクフォースが開かれる可能性もある。
ただ、本来、規制当局である総務省は、競争を通じて、価格が下がることを推進する機関だ。実際、MNPのような制度や新規事業者への周波数割当、MVNOの推進など、競争を促進して、料金を下げ、サービスを多様化する政策は、これまでも打ち出してきた。本来やるべきだったのは、端末価格の規制ではなく、より料金競争が起きやすい制度や枠組みを作ることではないだろうか。その意味では、当の総務省も、政府の“思いつき”に踊らされている印象を受ける。とはいえ、既にガイドラインは適用が開始されてしまい、すぐに制度を改正するのは現実的ではない。急転直下でキャンペーンが中止になるなどの混乱は、まだまだ続きそうだ。
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