110度CS放送――HD化の意味を取り違えていないだろうか?(2/2 ページ)
現時点で地上波やBSと見比べられる云々の問題ではなく、いずれはCSでも放送する作品自体がHD化されたものばかりになるのである。その段階になってHD用の帯域を確保しようとしても、既に帯域を使っている事業者をどかすわけにはいかない。そうした趣旨もあって、今年になってから総務省が、再度免許の再調整をしたわけである。
例えば、「TBSチャンネル」や「フジテレビ721」のようなドラマの再放送チャンネルの場合、ファーストランから2年経つと、TBSやフジテレビに再放送権がなくなることから、TBSチャンネルやフジテレビ721で放送されることになる。
4年くらい前から、新たに撮っている作品は全部、HDになっているわけだから、110度CSのチャンネルの方が相応の帯域を用意していないと、その時にはダウンコンバートして放送しなければならなくなってしまう。HDの番組をダウンコンバートしてSDで放送するのにコストをかけるのは、あまりにも無駄な話である。つまり、事業者が懸念するコンテンツについての考え方は、そういう文脈で考えるべきであって、いきなりHDの番組をズラリとそろえる必要などないのである。
今の地上波デジタルやBSデジタルですらそうであるように、当面はHDとSDの混在になるのはやむを得ないし、過去に撮った作品の大半はHD化することなどできないことは明らかだ。
せっかくの新型デジタルテレビを用意したのに、SDの番組を流すと両側に黒い部分が出てしまって見辛いという声も耳にする。だが、それならば見ないのかというと、そういう極端なことにもなっていない。
このような極端な話を声高にする人たちが少なからずいるせいか、110度CS放送のHD化が急務だと言うと、今すぐにでも全番組をHD化しなければならないように勘違いされてしまいがちだ。しかし、実際は、まず帯域だけでも確保しておこうという話に過ぎなかったことを、関係者は再確認されるべきだろう。
フィルムで撮ったもの、ないしフィルムが残っているものはHD化が可能だというような話も耳にする。しかし、例えば小津安二郎監督の作品をデジタルハイビジョンにすべきだという映画ファンなどいないのではないだろうか。過去の作品は、過去の枠組みで作られているところに良さを見出せるのであって、可能だからと言って変に細工してしまったら、作品の良さまで消してしまうことになりかねない。
110度CS放送のHD化という課題は、あくまでもまずは帯域の問題として論じられるべきである。HD化と言った途端、コンテンツの何から何までHD化しなければならないと考えてしまうような「錯覚」は、論点をぼかすだけに過ぎないのではなかろうか。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、㈱オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
AIに200万円渡してネットショップを1年運営させてみた──Alibabaの研究者らがシミュレーション 資産14倍の例も
-
2
PHP脆弱性“PoCフライング公開”の経緯、支援財団が公表 混乱広げた企業を名指しで批判
-
3
人に注射を打てる「サイボーグゴキブリ」の群れが、がれき下の被災者を救助? 実験成功率72%
-
4
PHP脆弱性でいち早くサービス停止したコドモン 背景に「被害が出てからでは取り消せない」
-
5
カプコン、1177万件漏えい 不正アクセスで
-
6
高市総理、サイバーセキュリティの本を出していた しかも“PHP”から
-
7
「GitLab」に深刻度“最大”の脆弱性 認証なしで任意のコード実行の恐れ、修正版適用を CVSS「10.0」
-
8
旅行ゲーム「ワールドクエスト」、PHP脆弱性で即日サービス終了 「古い仕組みのため対策とれず」
-
9
「お名前.com」 のFX自動売買VPS、不正アクセスで金銭被害か 「600万円の損失」「55万円なくなった」……報告相次ぐ
-
10
認証局eMudhraの中間証明書、秘密鍵が「数ミリ秒」で復元可能な脆弱性 大手各社が緊急遮断
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR