面白いゲームを作る上で一番大切なこととは?――テレビゲームとデジタル科学展記念シンポジウム
2004年9月12日、東京・上野の国立科学博物館で、「テレビゲームの楽しさ-どのように作るのか・どのように遊ぶのか-」と題したシンポジウムが開催された。シンポジストは岩谷徹(ナムコ インキュベーションセンターコンダクター)、中村純子(川崎市立麻生中学校教諭)、稲見昌彦(電気通信大学講師)、坂元章(お茶の水女子大学教授)の4名で、コーディネータは馬場章(東京大学大学院助教授)。
シンポジウムでは「テレビゲームの楽しさの源泉」「テレビゲームを楽しくする技術」「テレビゲームの影響」「テレビゲームの楽しい遊び方」「テレビゲームをめぐる開発・教育・研究の協力」などのトピックについて、それぞれの立場から幅広い議論が行なわれた。
ナムコの岩谷氏は、ゲーム開発者としての立場から、テレビゲームを技術・アート・文学・心理学など多彩なスキルが要求される総合芸術と紹介。中でもインタラクティブ性が特徴だと示した上で、テレビゲームはフードテーマパークやコミュニティサイト、アミューズメントロボットなど、数あるエンタテイメントの一部であると解説。その上でおもしろいゲームを作る上で一番大切なことは、開発者が自分の作りたい物を作るのではなく、ユーザーが楽しむ表情を思い浮かべながら作る、「Fun First」の精神が最も重要だと述べた。
中村氏は中学校の国語教諭としての立場から、教育現場とテレビゲームの過去15年間の変遷について紹介。当初は生活時間の乱れや暴力行為の誘発、金銭関係のトラブルなどの問題も発生し、家庭でのルール作りが求められたが、ここ数年は生徒の中心がテレビゲームから携帯電話に移行していると説明した。また、テレビゲームの教育的効果についても以前より注目し、自らPCベースでの教育ゲーム開発の経験なども披露。
光学迷彩などの研究で世界的に高い評価を受けている稲見氏は、VR・ロボットの研究者としての立場から、テレビゲームと技術の関わりについて紹介。工学とは科学技術を応用して人の幸福を追求する学問と規定した上で、幸福感や「役に立つ」という言葉の意味が、生産性の向上からサービスへの提供へと、ここ数十年で大きく変化していることを述べた。その上で技術とはおもしろいテレビゲームの開発の上で要素にすぎないが、時として新しい技術そのものがエンタテインメント性を持つこともあると解説。自身の光学迷彩や、産業用ロボットの体感ゲームへの応用例などを紹介した。
社会心理学者でCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)の理事でもある坂元氏は、テレビゲームが人間の心理面に与える影響について数々の研究を行っている立場から、最新のテレビゲームに関する世界的な研究活動を紹介。テレビゲームの影響に関する研究は、暴力性への影響については増加しており、1990年代半ばから多くの研究者の間で暴力性との関連を認める方向に進んでいること。一方でその他の分野については数が少なく、とくに知的能力や学力、体力に関する研究はほとんど進んでいないことを紹介した。
その後、各トピックや研究内容などについて各シンポジストの間で質問が交わされた。中でも岩谷氏が紹介した「観察→分析→考察→仮説→創造→実行(開発)→評価」という7つのテレビゲーム開発プロセスについて、中村氏は学校教育についても同じことが言えるとコメント。工学が生産性の向上からサービスへと移りつつあるのと同じく、教育分野でもドリル学習などから情報活用が重視されるようになっており、この7つのプロセスが体感できるようなテレビゲームが、「教育ゲーム」として現場でも求められるのではないか、と述べた。
また稲見氏の「テレビゲーム開発は教育効果を持ちうるか」という質問に対して、コーディネータの馬場氏は「高校生や大学の一般教養課程について効果が高い」とコメント。坂元氏は、テレビゲームが人に楽しみをもたらし、教育やリハビリなど他の分野にも応用可能な優れたテクノロジであると示した上で、優れた技術にはプラスの面だけでなく、マイナスの面もあることを例示。テレビゲームのマイナス面についてもこれから目を向けていかなければならないが、現状では研究例がまだ少なく、わからないことが多いと述べた。
興味深かったのは、中村氏の「ゲームボーイは小学生で卒業。中学生の多くは携帯電話に関心があり、テレビゲームを遊ぶ子は以前に比べて減った」というコメント。これは市場が縮小している一方で、テレビゲームがかつてのサブカルチャーから、メインカルチャーへと徐々に移りつつあることも示している。さまざまな意味でテレビゲームが節目を迎えている今こそ、一定の社会的認知を与えていくことも、また必要ではないだろうか。開発者、教育者、研究者、そしてユーザが一堂に会した本シンポジウムも、その点で意味深い物になったといえる。
このシンポジウムは、10月11日まで東京・上野の国立科学博物館で開催中の「テレビゲームとデジタル科学展」の記念行事として開催された。
(ライター:小野憲史)
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