これからのAIの話をしよう
「日本人は働きすぎ」 AI失業時代、ベーシックインカムで解決を 井上智洋さんに聞く(3/3 ページ)
日本でBIは導入できる?
―― BIの導入実験が既にフィンランドなどの国で始まっていると聞きます。そうした先行事例を参考にすれば、日本への導入の足掛かりとなるでしょうか。
フィンランドの実験は今年いっぱいで終わります。実験終了後はBIの導入に動くのかと思っていましたが、どうやら政府は後ろ向きのようです。代わりに、イギリスの「ユニバーサル・クレジット」と呼ばれる包括的な社会保障制度に近い仕組みを検討していると聞きます。
この制度の場合、しばらく怠けていると労働の義務が課されてしまう、いわゆる参加所得型になります。BIとは真逆の方向を向いた仕組みです。何もせずともタダでお金をもらうことについて、日本だけでなく世界的にも忌避されているのかもしれません。
BIの第一人者である経済学者の山森亮さんが詳細なレポート(BUSINESS INSIDER JAPANの記事)を書かれていますが、そもそも政府は最初から乗り気ではなく、連立相手から要求されたので嫌々実験したというのが実情のようです。このままだとインドが先行するかもしれません。いくつかの州で、2020年までに実施するという話があります。
―― BIは「(失業者や生活のできない)弱者」にこそ必要な制度だと分かりました。政治や行政にBIを理解してもらうために、どのような取り組みが考えられるのでしょうか。例えばBIに関して、関係者が実現に向けたロビー活動を行うことはあるのでしょうか。
今のところはロビー活動に関する情報を私は持っていません。海外では、やっている人はいるかもしれませんが。アメリカのリチャード・ニクソン政権下でBIに関する法案が通りかけたことがありました。あのときは経済学者が1000人ぐらいサインして提案したという話がありますが、ロビー活動とまでは言えないでしょうね。
もしかしたら、提案止まりになっている場合もあるのかもしれません。BIとは普段お金に困っていない人たちからすれば、不要どころか興味が無い制度のはずなので。政治家や官僚の中には、生活に困るというのが感覚として分からない人もいるのでしょう。
インタビューを終えて
BIと言えば「働きたくないから早く金くれ」「AIとBIが私を解放してくれる」といったソーシャル上の反応が多く目立ちます。どちらかと言えば、地に足の付いていないフワフワした話にしかなりませんでした。
しかし、いよいよBIは政治家や行政を巻き込んでいかなければならない時期に来ているように思います。以前掲載した「『AIが仕事を奪う』への疑問 いま、“本当に怖がるべきこと”は」でも触れたように、AIがどんどん進化すると、デジタル失業が当たり前になる可能性が高まります。
「失業が当たり前になる時代」に、BIは心理的負担を低減させる制度として必要不可欠になるのではないでしょうか。
私たちは「働かない」ことに慣れていません。仕事をしていないことを社会の悪のように捉える人も中にはいます。しかし、デジタル失業からは逃れられず、10年ほどの時間をかけて「失業」と共存する社会にしなければ、仕事に就けない人の憎しみが、AIやそれを作っている人に向けられるでしょう。
AIの時代は、生きて行くために必要な健康で文化的な最低限の生活のためのBIという保障が、誰にとっても必要になるのです。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
編集部より:著者単行本発売のお知らせ
本連載を執筆している、松本健太郎氏の書籍「誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性」が、2018年2月15日に発売されました。
なぜ、各社がこぞってスマートスピーカーの販売に乗り出したのか? 第3次人工知能ブーム終息の可能性と、ディダクション(演繹法)による第4次人工知能ブームの幕開けなど、人工知能における5年、10年、20年の展望を解説しています。本書の詳細はこちらから。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
これからのAIの話をしよう
いま話題のAI(人工知能)には何ができて、私たちの生活に一体どのような影響をもたらすのか。AI研究からビジネス活用まで、さまざまな分野の専門家たちにAIを取り巻く現状を聞いていく。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
2
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
3
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
4
GMO不正アクセス、犯人側は「27日に顧客のPC攻撃」予告 GMOが端末回収、ホワイトハッカーが解析中
-
5
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
6
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
7
「年齢は合ってますが、人間ではありません」 6歳の飼い猫に届いた“進研ゼミの案内” なぜ届いたのかベネッセに聞いた
-
8
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
9
「若手はAI使うな」は“老害”なのか? 新人教育で「AI禁止」した企業の1年後
-
10
GMO、PCのバックアップと電源オフ呼びかけ VPS利用者に きょう正午の攻撃予告受け
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR