小寺信良のIT大作戦
結局、「漫画村」は死んでないのではないか(2/3 ページ)
漫画村と著作隣接権
著作隣接権とは、著作物の伝達などに関わる事業者に限定的に与えられる権利で、現時点では、実演した者、録音した者、放送した者に与えられている。これらの事業者は、著作権者と同様に、海賊版などの権利侵害に対して訴えを起こすことができる。
一方、出版社には、著作隣接権が設定されていない。電子書籍が立ち上がってきた12年ごろから、各出版社は著作隣接権を求めて運動してきた。そして漫画村事件をきっかけに、出版社は著作隣接権を持たないから著作者に代わって訴えを起こすことができないとして、主張のトーンがより強くなっていった。
だがこれに「待った」をかけたのが、漫画家たちで結成された日本漫画家協会だった。出版社は、必ずしも電子書籍プラットフォームを自前で持っているわけではない。そうした出版社で掲載された漫画は、電子化に際して著作者の判断で出版社とは関係ないプラットフォームと契約することができる。しかし出版社に隣接権があると、著作者だけの判断で電子書籍への展開ができなくなる。いわゆる「電子化への塩漬け」が起こるとして、反対したわけである。
現時点でもなお出版社は、著作隣接権を持つには至っていない。海賊版サイトを訴えるだけなら、隣接権がなくてもできるようになったからだ。それが、著作権の「非親告罪化」である。
漫画村と非親告罪化
著作権法侵害は、原則として著作権者と著作隣接権者しか訴えを起こすことができない親告罪だが、日本国内においてはこの前提を変えて誰でも訴えるようにすればいいのではないかという議論は、07年ごろからくすぶっていた。
ただ、親告罪でなくなると、侵害しているが訴えないというクッションゾーンがなくなり、二次創作やパロディといったクリエティブ活動ができる余地がなくなる。米国ならフェアユースの法理があって裁判で戦えるが、フェアユースなしの非親告罪化は、クリエイティブ業界としては自殺行為に等しい。
非親告罪化の議論が一気に加速したのは、漫画村の発生以前の11年ごろだ。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への交渉に参加すれば、日本の著作権法の非親告罪化が求められるとして、議論が白熱した。
TPPの紆余曲折はこれもまた長い話なので割愛するが、結果的に日本も批准することになり、海賊版行為に対してのみ非親告罪化するという方向で調整された。TPP11協定は発行日である18年12月30日から施行されたが、「漫画村」の自主的閉鎖が同年4月17日。結果的に非親告罪化は、漫画村事件には間に合わなかった。
今なら非親告罪化で出版社が海賊版サイトに対して訴えを起こすことは可能なはずだが、具体的な動きは見えてこない。海賊版を理由に隣接権が欲しかっただけで、自ら積極的に海賊版対策に乗り出す気はないのだとしたら、隣接権を止めた日本漫画家協会はナイスプレイだったといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
2
Apple、「iPad mini」を大幅刷新 8.5インチOLEDとA20 Pro搭載、防水にも対応 11万9800円から
-
3
「年齢は合ってますが、人間ではありません」 6歳の飼い猫に届いた“進研ゼミの案内” なぜ届いたのかベネッセに聞いた
-
4
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
5
GMO不正アクセス、犯人側は「27日に顧客のPC攻撃」予告 GMOが端末回収、ホワイトハッカーが解析中
-
6
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
7
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
8
ジョーシンへの不正アクセス、最大623万件漏えいか 運転免許証2件・マイナカード1件なども
-
9
グッスマに不正アクセス、公式EC閉鎖 会員の住所や注文履歴など漏えいか 再開目処立たず
-
10
野村総研、サイバー攻撃時の「能動的なシステム停止」を支援する新サービス
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR