小寺信良のIT大作戦
結局、「漫画村」は死んでないのではないか(1/3 ページ)
2018年ごろ、世間を大いに騒がし、その後の法改正に大きな影響を与えた「漫画村」事件。まだ3年前の話なので記憶も新しいところだが、21年6月2日、福岡地裁にて元運営者に対する判決が出た。著作権法違反と組織犯罪処罰法違反の罪で、執行猶予なしの懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6257万円だという。
被告が逮捕・起訴されたのが19年だったので、地裁の判決まで2年間かかったことになる。被告らが期日までに抗告しなかったため、刑が確定した。
ただしこれは刑事訴訟である。損害賠償などに関しては、これからまた別に民事で争っていくことになる。当時の試算では被害総額が3000億円相当とされていたので、損害賠償額も到底個人では払えない額に膨れ上がるかもしれない。懲役こそ3年に過ぎないが、塀から出た後に本当の地獄が待っている。
これだけ重い刑罰が課せられれば、模倣犯に対する抑止効果もあるように思える。しかし今年8月に入って「ポスト漫画村」に関する記事を数多くネットで目にするようになった。まだまだ類似サイトは健在どころか、漫画村が稼働していた時よりもアクセス数は増えているという。
これら類似サイトのアクセス増の要因には、コロナ禍による巣ごもり需要があったかもしれない。だが第2の漫画村の出現を無くすために、世論を押し切って法改正したのではなかったか。ここでは漫画村にまつわる法改正とその結果を追ってみよう。
「漫画村」とブロッキング
漫画村の開設は16年だが、世間的に問題視され始めたのは17年のことである。18年に入って衆議院予算委員会で取り上げられてからの動きは早かった。同年4月には知的財産戦略本部が、緊急対策としてブロッキングを行う案を検討している。当時の資料がまだ残っているが、漫画村をはじめとする3サイトが名指しで表示されており、問題意識の大きさを物語っている。
当時インターネットサイトを遮断するブロッキングは、児童ポルノ提供サイトに対してすでに実施されていた。ブロッキングは憲法に規定された「通信の秘密」や「検閲の禁止」を侵害する恐れのある手法だが、刑法に定められた「緊急避難の要件を満たす場合には、違法性が阻却される」という条文の解釈に基づき、違法性が阻却されるとして導入された経緯がある。ここで言う「緊急避難」とは、放置すれば子どもの人権はもちろん、生命の危機があるということである。
しかしながら、このような緊急避難の要件を満たしたとしても、その行為は著作権侵害に適応できるかどうかという問題がある。それがあるから、プロバイダーが自主的にブロッキングせよ、という案である。
この「自主的に」というのが曲者だ。憲法は、国の暴走を防止するための法律なので、憲法が縛るのは国の行為であり、民間企業や個人の行為を直接縛らない。つまり、政府が「やれ」というと憲法に引っかかるので、民間が自主的にやるという格好にして憲法問題をクリアしようとしたわけである。
この手法についての法的、技術的問題点については、筆者が代表理事を務めるインターネットユーザー協会でも主婦連合会と連盟で緊急声明という形でまとめている。これがいかにヤバいものだったか、文面の緊迫感から感じ取っていただけるのではないだろうか。
もちろんプロバイダとて進んでそんな危ない橋を渡るはずもなく、日本インターネットプロバイダー協会は即、ブロッキング反対の姿勢を表明した。しかしNTTグループだけは、ブロッキングの要請に応じると発表したものだから、大騒ぎとなった。発表された18年4月23日は、まさに日本のインターネットが2つに割れた日である。
これ以降相次いで反対声明が発表され、NTTコミュニケーションズを相手取っての訴訟などが起こった。とはいえ、それに先立つ4月17日には漫画村自体が閉鎖されており、結果的にブロッキングが実行されることはなかった。その後の法整備も調整が難航したため見送られており、今後、海賊版対策としてブロッキングが行われる可能性は低い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「年齢は合ってますが、人間ではありません」 6歳の飼い猫に届いた“進研ゼミの案内” なぜ届いたのかベネッセに聞いた
-
2
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
3
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
4
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
5
ジョーシンへの不正アクセス、最大623万件漏えいか 運転免許証2件・マイナカード1件なども
-
6
グッスマに不正アクセス、公式EC閉鎖 会員の住所や注文履歴など漏えいか 再開目処立たず
-
7
野村総研、サイバー攻撃時の「能動的なシステム停止」を支援する新サービス
-
8
Microsoft、約6万人対象の希望退職制度を発表 巨額のAI投資で経費抑制か
-
9
タイムズカー流出で顧客らが損害賠償求め運営会社提訴へ サイト開設の弁護士が記者会見
-
10
Anthropic、IPOを正式申請 上半期売上高は約14倍、純損失807億ドル
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR