内閣府 知的財産戦略本部は10月30日、検証・評価・企画委員会コンテンツ分野会合の第1回を開き、インターネット上の海賊版サイト対策についてタスクフォースの議論を基に意見交換を行った。しかし、ブロッキング法制化反対の急先鋒である森亮二弁護士の姿はなかった。
タスクフォース「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」の座長である中村伊知哉教授(慶應大学大学院)や村井純教授(同大学院)の他、タスクフォース構成員の中でもブロッキング推進派のカドカワ川上量生社長やコンテンツ海外流通促進機構の後藤健郎代表理事、林いづみ弁護士などが今回の会合に出席した。
ブロッキング法制化に反対する意見書に名を連ねた森弁護士など9人は本会合の構成員ではなく、他に強く反対の立場を取る構成員もいなかったため、タスクフォースの報告は川上社長などブロッキング推進派を中心に、タスクフォースの結果へ不満を述べる形で行われた。
中村教授と村井教授は、「ブロッキングについては意見がまとまらなかった」としつつも、「民間主導で取り組める対策や、リーチサイト規制の法制化など『今取り組めること』については共通の認識が得られた」とする「座長メモ」を公開した(全文は後述)。
タスクフォースのとりまとめではなく「メモ」としたのは、タスクフォース第9回で「両論併記の報告書を出すな」とする森弁護士の意見があったため。村井教授は「中間まとまらない」とする報告書を作成する案を提案していたが、「両論併記の報告書を基に、『こんな議論がありました』としてブロッキング法制化が進んでいくだけ」と森弁護士が反発していた。
座長メモでは、今できることとして(1)海賊版サイトへの広告出稿の自主抑制やフィルタリング強化について民間主導での実施と行政のサポート、(2)違法コンテンツに利用者を誘導する「リーチサイト」規制の法制化および著作権侵害画像のダウンロード違法化の検討や、その他必要な制度設計の検討、(3)タスクフォースの内容から継続・発展的な議論ができる環境の整備、(4)これら対策の効果の検証――の4点を提示し、中村教授、村井教授ともに「民間主導でまずは対策を進め、政府は民間の動きの後押しをしてほしい」とする考えを示した。
川上社長は、タスクフォースの議論について不満を吐露。「ブロッキング反対派の人たちは、『両論併記だと法制化が進む』ということを防ぐ目的から結論をゆがめようとしていた。慎重な議論が要求されるのは当然だが、国民が正しく判断できる資料を事実に基づいて作るのがタスクフォースに求められていることだ」(川上社長)と、反対ありきの主張がタスクフォースで認められたことに不服を示した。
自らはブロッキングについて中立派だという瀬尾太一常務理事(日本写真著作権協会)も、報告書を出さないタスクフォースに対して不満を表明。
「タスクフォースの会議中にも言ったが、報告書を出さないのは国の会議としてありえない。第9回までの人件費がどれだけかかっているかと考えれば、出さない選択肢はないだろう」とした上で、森弁護士のやり方にも異議を唱えた。
「民主主義的な手順を踏まない主張は認められなくなってしまうし、少なくとも私は認めない。しかも、彼らは知財事務局に対する不信も言っていたが、タスクフォースの役所側の出席者は総務省の課長など。管轄する法律の担当役所すら信じられないのなら、議論に出てくるべきではない。大義を守るためにはどんな手段を使ってもいいのであれば、議論は成立しえない」(瀬尾常務理事)
タスクフォース委員で、本会合構成員の福井建策弁護士は、「ブロッキングしか現実的な対策が残されていない場面はありうる」とブロッキング法制化に理解を示す一方、「ブロッキング法制化の強行は反対派との分断を大きくするだけだ」として強行的に法制化を進めることには反対の立場を取った。
「民間同士の連携準備は進んでいる。まずはこの効果を見定めるべき」(福井弁護士)と座長案に賛成した。
福井弁護士の意見を受け、村井教授も「もしブロッキングを行うとなれば、実行するのはISPのエンジニア。強行してISP側と意見が分かれた状態で法制化しても、ISP側が納得できなければブロッキングを継続的に行うのは困難だろう」と、ISPも交えた議論の必要性を訴えた。
また、「(これからの対策効果の検証の他に)これまで会議に提出されたデータや数値の資料が正しいのか、裏付けを取る時間が足りなかった」(村井教授)と、議論の土台をしっかり固められなかったことを反省した。
本会合の目的は、これからの知財政策に関係する各種施策の実施状況の検証・評価を行うというもの。
結論の出ないブロッキング法制化の是非とは別に、これから進められる議題として、福井弁護士からは「海賊版サイト対策にもなる、正規版の流通促進策について次期のテーマとして重視したい」という意見があった他、瀬尾常務理事からは「2020年を見据えた“クールジャパン”の次の戦略を作っていくべき」という提言があった。
川上社長は、「ネット上での法律の国境問題、どこまで適用できるかというのが海賊版サイト問題にも関わる。国内とグローバルのルールでせめぎ合いが起きているといった問題にも取り組んでもらいたい」とした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR