不動産とITのナゾ

「ICチップなら安心」は本当か 地面師対策で問われる不動産取引の多重防御(1/2 ページ)

 「なぜインターネットで本は買えるのに不動産は買えないの?」「マンションを借りる時に不動産屋のお兄さんが急いでFAXを送るのはなぜ?」。多くの人にとって「住まい」に当たる不動産は身近なはずなのに、なぜかよくわからないことだらけ。他の業界では常識なのに、不動産業界では非常識。そんな不動産の「ミステリー」を専門家がわかりやすく読み解き、AIをはじめITを活用した不動産の近未来を探る。

 バブル経済の崩壊後、低迷してきた日本の不動産価格が反転上昇し、内外からの投資が盛り上がる中、海外の先進事例なども交えて将来の不動産業界や価格をわかりやすく展望する。第4回は「地面師詐欺をITで防げるのか」を深掘りする。

警察庁など政府は地面師対策を進めるが……

著者プロフィール:加藤勤之

GA technologies

Public Relations 本部長 宅地建物取引士

2002年、東京工業大学理学部数学科卒、博報堂入社、外食、製菓、化粧品メーカーの営業に約10年従事、その後、労働組合委員長を経て、経営企画や新規事業開発、働き方改革部長などを務める。 2018年12月、総合不動産会社オープンハウス入社、マーケティング本部長、広報宣伝部長、社長室長、事業開発部長に従事、兼務で、スキー場を運営する子会社みなかみ宝台樹リゾート代表も務めた。

2023年11月、GA technologiesに入社、Communication Design Center本部長を経て、現在は、Public Relations本部長として、広報と渉外の責任者を務める。

犯罪者はアナログ取引のすきを突く

 「地面師」と「紙の書類」には深い縁がある。積水ハウスが2017年に55億円をだまし取られた事件。地面師グループは登記簿謄本や印鑑証明書、本人確認書類などを精巧に偽造した。13年のアパグループの関連会社の事件では、契約後に印鑑証明書などが偽造されていたことが発覚。26年に公判が始まった大阪市での地面師事件でも、司法書士が立場を悪用し、所有者本人であると保証する書類を偽造し、登記を書き換えたとみられている。

 売買契約書や重要事項説明書、仲介手数料の約定書、登記簿……。不動産取引では、紙の書類を使うことが多く、偽造はそう難しくない。郵送した資料が改ざんされ、差し替えられることもある。高性能なプリンタやスキャナーが続々と登場していることもあり、デジタル庁は「本人確認書類の偽造・改ざん技術は、近年ますます高度化・巧妙化している」と警鐘を鳴らす。

 こうした「アナログ取引のすき」を地面師に突かれないためには、取引書類の電子化が不可欠だ。紙の書類をデジタル化し、電子社印「eシール」、タイムスタンプなど次々に登場する技術を活用できれば、地面師の得意技である改ざんに待ったをかけやすくなる。詐欺のハードルを引き上げ、偽造コストや発覚リスクを大幅に高くすれば、抑止力の一つになるだろう。

改正犯罪収益防止法は「魔法の杖」か?

 「地面師対策の切り札」と期待されるのが、27年4月に改正予定の「犯罪収益移転防止法」だ。この法改正により、不動産業者がマイナンバーカードなどICチップを活用した本人確認を原則として義務化する。これまでは目視や画像の検証という「アナログ方式」から、ICチップによる検証という「デジタル方式」に移行することで、成り済ましを防ごうというわけだ。

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