不動産とITのナゾ
「ICチップなら安心」は本当か 地面師対策で問われる不動産取引の多重防御(2/2 ページ)
ICカードは多層配線など構造が複雑な上、公開鍵と秘密鍵という2つの鍵のペアを使うなどして、偽造が極めて難しいとされる。チップを削るなど物理的な衝撃があった際にデータを消去したり、壊れたりする構造にすることもできる。GAテクノロジーズでコンプライアンス(法令順守)を担当する野口莉子氏は「不動産会社の担当者や司法書士など人間は、付き合いのある顧客を信じたくなる性質がある。地面師グループの攻撃を防ぐには、人間の判断に過度に依存せず、絶対に騙されない法的、機械的なシステムを作り上げる必要がある」と話す。
しかし、この改正法にも「抜け道」がないわけではない。顧客がマイナンバーを持っていなかったり、ICチップの読み取り機器が故障したりするケースなどが考えられるからだ。その場合は、住民票の写しなど一定の資料を本人確認書類として提示し、書類を転送不要郵便で送付するなどの「補完措置」を使うことができる。地面師グループはこれを「付け入るすき」だと考えるかもしれない。
「伝家の宝刀」のICカードも、秘密鍵を盗み取るなどすれば、「絶対に偽造できないとまでは言えない」との指摘もある。来年の法改正も、地面師詐欺を立ちどころに消し去る「魔法の杖」とまでは言えないようだ。
AIは「警報装置」、何重もの防御策が身を守る
それではAI(人工知能)など最新のデジタル技術はどうか。生成AIサービスを手掛けるFIXERの松岡清一社長は「積水ハウスの事件当時にAIが活用できたと仮定すれば、不正を見破れた可能性が高い」と指摘する。
画像認識AIは、人のまばたきや顔の不自然な動き、フォントの乱れ、改ざんの痕跡、ICチップとの不整合などを人間とは比べ物にならないほど素早く、精緻に検知してくれる。登記情報や住民票など多くのデータとの自動照合を何度も重ねれば「本物そっくりだが、実在する情報と正確に合致しない」という異常も早期に発見できる。土地の所有者に成り済ました人に経歴などを長時間話してもらえば、AIが話した内容を分析して矛盾点を突くことも可能だ。
もっとも、AIは犯罪者側が活用できる道具でもある。AI犯罪の象徴ともいえるのが、24年の英エンジニアリング大手、アラップの詐欺被害だ。同社の財務担当者は詐欺グループが仕組んだ偽のテレビ会議で指示され、2億香港ドル(約40億円)を送金した。しかし、その会議に出席していたCFO(最高財務責任者)などの同僚は、AIによるディープフェイク(偽動画)だった。地面師グループが、こうした手法を使う可能性は小さくない。
「AIは優秀な警報装置にはなるが、最後の砦にはならない」(松岡社長)。地面師グループは、これからも最新の技術を使い、集団でターゲットに襲い掛かってくるだろう。法整備やITによる偽造防止システム、AIによる監視……。国、不動産会社、司法書士、土地の所有者など関係者が、1つの防御策に依存せず、三重、四重の強力な防御網をつくりあげ、犯罪のコストやハードルを引き上げることこそが、詐欺を防ぎ、身を守るカギになる。
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不動産とITのナゾ
多くの人にとって「住まい」に当たる不動産は身近なはずなのに、なぜかよく分からないことだらけ。他の業界では常識なのに、不動産業界では非常識。そんな不動産の「ミステリー」を専門家がわかりやすく読み解き、AIをはじめITを活用した不動産の近未来を探る。
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