マンガ原稿をクラウドに上げただけでGoogleアカウントBAN Gmailも道連れ……日本では合法なのになぜ?(2/2 ページ)

判定するのは外国の民間企業

 同様の事態は海外でも起きている。八田教授が挙げたのは、2021年に米国で幼い息子の患部の写真を小児科医に送った父親の例だ。写真はGoogleフォトに自動でバックアップされ、AIが児童の性的虐待素材(CSAM)と判定した。米New York Timesが2022年に報じたところによると、2日後に父親のGoogleアカウントは停止され、警察に通報された。警察は事件性なしと結論したが、Googleはアカウントを復旧せず、父親は電話番号も失った。

 糸杉氏の漫画も、この父親の写真も、一般に広く公開したものではない。自分のために保管していただけのファイルを、Googleが自社の規約に照らして判定し、令状も裁判所も経ずにアカウント全体を止めた。八田教授は、ドライブだけでなくメールや二段階認証まで一度に失われたこと、何がどう違反したのか本人に説明されないことが両者に共通点と指摘する。

自分でクラウドを持つという選択肢

 では、同様の事態を防ぐために、ユーザーは何ができるのか。八田教授が挙げた選択肢は3つ。(1)既存のクラウドをそのまま使い、いつ消えてもいいものだけを置く、(2)既存のクラウドに、手元で暗号化してから預ける、(3)サーバを自分で用意し、自分のクラウドを動かす──だ。

 例えば(2)なら、サーバを立てる必要はない。暗号化ソフトも、既存のクラウドの中に暗号化された領域を作る「Cryptomator」、ほぼどのクラウドでも暗号化して使える「rclone」、サーバを置かずに機械同士を直接同期する「Syncthing」などがあり、いずれもオープンソースだ。ただし共有リンクの発行やブラウザからの編集は使えなくなる。

 八田教授自身は(3)を採用している。同氏が使っているのはオープンソースのファイル同期・共有ソフトウェア「Nextcloud」だ。自分が用意したサーバに入れると、端末との自動同期や共有リンクの発行、スマートフォンからの写真の自動バックアップまでGoogleドライブとほぼ同じことができるという。サーバの管理者が自分なので、規約違反を判定して停止する第三者がそもそも存在しない。

 置き場所は自宅のNASでも、借りたVPSでもよく、家庭用NAS製品には最初からNextcloudが入っているものもある。借りたサーバに置く場合はサーバ側の暗号化を有効にする。鍵を持つのは自分のサーバなので、レンタル事業者には暗号文しか見えない。八田教授はVPSを年1万円ほどで借りていると明かした。

 ただし手間もかかる。八田教授の場合、初期設定に半日から数日かかり、その後も更新作業が必要になっているという。自宅サーバは停電や回線障害で止まり、インターネットに出すサーバは自分で守る責任を負う。更新を怠れば大手に預けるより危険で、鍵を失えば復旧してくれる相手はいない。漫画家であれば、技術に詳しい人に頼んで設置してもらうのが現実的だと八田教授は述べた。

外付けHDDではだめなのか

 講演に参加した漫画研究者からは、自分でサーバを立てるのは考えられないので、公開するつもりのないものはクラウドに上げず、PCと外付けHDDだけでデータを持つ案も出た。八田教授は、PCと外付けHDDを定期的に同期する道具はrcloneなどいくらでもあると答えた上で、アシスタントと共有するには不便だと私見を述べた。外付けHDDで足りる人はそれで良いとしつつ、共有が必要なときにHDDを家に置き忘れた経験から、現在の手法を採用しているという。

 うぐいすリボンによれば、糸杉氏本人はアカウント停止後、スイスのサービスを使うことで再発防止を試みているという。八田教授は講演の最後、糸杉氏の一件も踏まえつつ、いわゆる「デジタル主権」の議論がデータの置き場所に偏っていると指摘し。鍵を誰が持つかという「暗号的主権」と、誰が違反と判定し誰が救済するかという「モデレーション主権」についても議論が必要と唱えた。

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