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Intelの法則は家電の法則になるか?2004 International CES(2/2 ページ)

» 2004年01月11日 05時40分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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PC市場と家電市場の相違点、類似点

 Intelが、自ら作り上げてきたPCのビジネスモデルを、他業界に広めようとしたのは、今回が初めてのことではない。近年、特に力を入れていたのは、通信および携帯電話の分野だ。携帯電話に関して、Intelは3G世代をターゲットとして開発しているため、現時点での評価は難しいが、決してうまく行っているわけではない。

 しかし少なくとも通信の分野では、競合相手を圧倒する半導体製造技術により、Intelが市場を席巻するとの意見が多数を占めていた。

 なぜなら通信機器には、性能を表すための指標がハッキリしており、折しもハイテク業界に不景気の並がやってきている時期と重なり、ローコスト化を急速に進められるIntelのモデルは、ユーザーの圧倒的な支持を受けるのでは? と考えられたからだ。

 ところが現時点、Intelは通信業界において重要なプレーヤーのひとつにはなっているが支配的な地位にはなく、低価格化は進んだもののIntelのモデルが市場を支配するには至っていない。

 Intelのビジネスモデルは、シンプルでわかりやすい。その法則を半導体技術が生かせる分野に当てはめてみると、何でもうまく行きそうに感じてしまう。しかし、Intelのビジネスモデルが、ピタリとはまってうまく行った業界は、これまでPC業界しか存在していないのだ。

 ましてや、テレビ業界は通信業界よりも遙かにライバルが多く、競争の激しい市場でもある。これまでAV業界はビジネスモデルの変革によって寡占が進んだことはなく、唯一、クオリティとブランドイメージ、それに簡単さが支配してきた。

 たとえばSamsungはユニークな製品を開発し、デザインを改善し、安い価格で製品を投入しても、なかなか大きなプレーヤーには育つことができなかった。しかし、携帯電話市場で大きな地位を築くと、最先端の携帯電話から来るプラスのブランドイメージや徹底した広告戦略によって、米国ではソニーに次いでパナソニックと並ぶ、もしくはそれを超えるブランド力を持つまでに至っている。

 スペックだけではダメで、価格だけでもダメで、クオリティとブランド力、それに直感的に扱えて信頼性が高い製品としての完成度の高さが無ければ、大きな存在になり得ない。家電業界が歩んできた中で作られた、それらの歴史があるからこそ、日本だけでなく様々なAVベンダーが「家電は数字比較の競争ではなく、消費者の感性に訴えかける競争」と口を揃える所以であろう。

 たとえば今回のInternational CESでテーマになっているリアプロ市場にしても、米国でのシェアはソニーが約30%と圧倒的で、それ以外のブランドはすべて15%を下回る。量販店での価格は、中国製の安いテレビと比較するとソニー製は2倍ものプライスタグが付くが、それでもなおソニーが売れる現象がある。

 またLCOSはデジタルロジック回路でのみ構成されるプロセッサやメモリとは異なり、半導体プロセスの進化がローコスト化に直結するわけではない。プロセッサの進化がチップの小型化と高速化にあるとすれば、映像素子の進化はクオリティにのみ支配される。歩留まりが同じならば、コストは同じと考えられる。ロジック回路であれば、プロセッサ向けに開発したプロセスをそのまま転用することも可能だが、LCOSとなれば話は違う。全く異なる製品なのだから。

 ただしまったく類似点がない、というわけではない。近年のAV機器は半導体への依存度が高まっており、これまで経験やノウハウなどの積み重ねが支配していた“AV機器としてのクオリティ”は、少しづつ“半導体デバイスの優劣”に置き換わってきている。AV機器に見えても、中身はコンピュータ。そんな製品ばかりになってきた。

 Intelには、世界最大規模の半導体製造設備があり、毎年、巨額の投資も行う。AV家電においても、コンピューティングとソフトウェアが重要になってきた、ということは、Intelの得意なフィールドに家電業界が近付いていることを意味している。Intelに足りないのは、AV品質を生み出す経験やノウハウだろう。

 たとえばIntelが、日本の中堅AVベンダーを買収し、その技術的蓄積を得る、あるいは、財務状況の悪いベンダーに対して破格の支援を行う、といった手段に出れば、状況が一変する可能性はあるが、今すぐに何かが変わるということはないと考えられる。

AV業界に色気たっぷりのHPとDell

 Intelが自社製品の主なターゲットとしているベンダーは、既存のAVベンダーではなく、技術力や研究開発で大メーカーに対抗することが難しいベンダーだろう。ならば、価格が安くなったとしても、今までの構図と大きく変わるわけではない。Intelの用意するアプリケーションが持つクオリティ次第では、中国製品が飛躍的に改善される可能性もあるが、日本のベンダーも流通大手とパートナーシップを組み、効率的なサプライチェーンを作り上げてきた。

 しかしHewlett-PackardやDellは、大きなライバルになると見られる。中国製品がIntelモデルによって改善され、それらに米国のナショナルブランドが付けば、あるいは多少のAV機器としてのクオリティや使い勝手に難があったとしても、消費者はHPやDellを選ぶかもしれない。これによって寡占が進むことはなくとも、中堅のAVベンダーがことごとく駆逐される可能性はある。

 HPやDellがAV市場を狙っているのは明らかだ。PCと繋がるAV、というスタンスで業界に参入するだけではなく、本格的なAVベンダーとしての飛躍を狙っているハズだ。先日、両社がBlu-ray Discへの強いコミットメントを表明したのも、AV業界への強い関心があるからに他ならない。AV市場と無関係ならば、この時期に態度をハッキリさせる必要はないからだ。

 このあたりの話は、もう一つ別のテーマとして掲載することにする。

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