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DSPも“ギガヘルツ時代”へ――日本TIが新DSP出荷

» 2004年01月20日 22時10分 公開
[西坂真人,ITmedia]

 日本テキサス・インスツルメンツは1月20日、昨年5月に開発表明した1GHz動作の新DSP「TMS320C6414T」「同C6415T」「同C6416T」のサンプル出荷を開始したと発表(関連記事)。同日都内で行われた新DSP製品説明会で、世界初の“ギガヘルツDSP”の新たなアプリケーションの可能性やDSPの市場動向などが語られた。

mn_ti1.jpg サンプル出荷が始まった1GHz動作の新DSP「TMS320C6414T」「同C6415T」「同C6416T」

 携帯電話の端末や基地局といった通信関連、デジタルカメラ/MP3プレーヤーなどのデジタル家電、ホームシアターシステムから白モノ家電まで、われわれの生活のあらゆる場所にDSPは欠かせない存在になっており、多様なニーズにあわせて高性能化も著しい。

 だが、コンピュータのプロセッサ(MPU)では、すでに3GHzを超えて今年中には4GHzに到達するとみられているが、DSPの世界では動作速度はほとんどが500MHz以下で、同社でもこれまでは720MHzが最速DSPだった。

 同社ASP事業部DSP製品部マーケティンググループ長の田中竜太郎氏は「1980年代に最初のDSPが登場した時、そのクロックはたった5MHzで、工業製品や計測機器といったニッチな市場で使われていた。1990年代のデジタル携帯電話の台頭でデジタル処理のリアルタイム性が求められ、ハイパフォーマンス・低コストでリアルタイム処理が可能なDSPのニーズが急速に拡大。さらにここ1〜2年は、従来の音声処理から画像処理へといったアプリケーションの変化で、DSPの処理性能の高速化がさらに求められていた」と語り、DSPの1GHz化が市場のニーズによるものであることを指摘する。

 今回の新DSP3製品では90ナノメートルの同社最新製造プロセスルールを採用。実際のトランジスタのゲート幅は約52ナノメートルという超微細加工によって製造される。

mn_ti2.jpg トランジスタのゲート幅は52ナノメートル

 このトランジスタ幅の縮小によってより速い動作速度を可能にしたほか、プロセス微細化によるオンチップメモリ増強によってアプリケーション処理効率を大幅に向上させることで1GHzという性能上のブレークスルーを実現した。従来の130ナノメートルプロセスに比べて生産効率が50%以上アップしており、製造コストも大幅に削減。今回の90ナノメートルプロセスは、既存の720MHz動作DSP「TMS320C64x」シリーズの製造にも採用され、同製品のデバイス価格を約50%以上削減するという。

mn_ti3.jpg 90ナノプロセスによって大幅なコスト削減を実現

 今回の新DSPは、アーキテクチャなど基本設計は従来のTMS320C64xシリーズと変わらない。従来製品とコード互換性やピン互換性を確保しているため、再設計なしで既存DSPの置き換えが可能な点も特徴だ。動作クロックの向上により、ベンチマークテストでは720MHzDSPが6570という数値に対して、1GHz版では9130と約40%の性能向上が見られたという。

 「例えば、フルD1サイズ(720×480ピクセル)のMPEG-2ビデオ・トランスレートのリアルタイム処理が、従来のDSP(約600MHz)では5チャンネル程度だったものが、1GHzなら8チャンネルまで処理できる」(田中氏)

 1GHzに到達したDSPでは、どんなアプリケーションが考えられるのだろうか。

 「高速処理が求められる携帯電話の基地局などに有効。特に、街中の基地局に高い指向性を付加できるアダプティブアレイ技術などは高速なリアルタイム処理が必要なので、1GHzのDSPが重宝されるのではないだろうか。また、TV電話が普及してきた時にニーズが高まるメディアゲートウェイなどでも、高速なDSPが活躍する。その他、ストリーミングのセットトップボックスや監視カメラなどアナログからデジタルへの移行が活発なデジタルビデオ市場にも活用が期待できる」(田中氏)

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