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» 2004年02月16日 19時30分 公開

小型低電圧駆動を可能にしたスイッチ素子をNECが開発

開発期間の短縮と複合機能の実装を実現するプログラマブルロジック。これまではサイズが大きく適用範囲が限られていたが、NECが開発したスイッチ素子は金属原子を利用することで30ナノメートルという微小サイズを可能にする。

[長浜和也,ITmedia]

 NEC、物質材料研究機構、科学技術振興機構は、2月16日に金属原子移動を利用したスイッチ素子「NanoBridge」の開発を発表。あわせて、この素子を組み込んだプログラマブルロジックを試作し、実際にスイッチが動作して回路内の組み替えに成功したことを明らかにした。

 NanoBridgeを利用したプログラマブルロジックの量産と、そのチップを搭載した製品が出荷される時期の目処はいまのところ確定していないが、NECでは、このスイッチング素子の登場によって、回路利用効率は従来の10倍に、電力効率は3倍になると説明、携帯電話などの小型機器で、低価格高性能の製品が登場し、必要な機能をあとから追加することも容易になると期待している。

 「NanoBridge」は、おもにプログラマブルロジックのスイッチ素子として利用するために開発が進めれられている。プログラマブルロジックとは、複数のロジックセルを格子状に接続したもので、格子配線の接点に組み込まれたスイッチ素子で回路の配線を組み替えて、ロジックの機能を切り替えられるようになっている。

 試作段階における試行錯誤や、開発期間の短縮などに効果があり、これまでもFPGA(Field Programmable Gate Array)やDRP(Dynamically Reconfigurable Processor)などが使われてきたが、従来の半導体で構成されたスイッチ素子はサイズが大きく抵抗も高いという問題があった。

 チップ面積に制約がある場合、サイズを抑えるために組み込むスイッチ素子の数を減らさざるを得ず、ある程度機能を組み込んだ少数の大規模ロジックセルで構成されていた。この構成では、スイッチの数が少ないため、ロジックセルの組み合わせの自由度も低く、パフォーマンスが出せない。そのため、プログラマブルロジックが使われる用途が限られてしまってる問題があったという。

 LSIで広く使われているCBIC(Cell-Based Integrated Circuit)はスイッチ素子を使わないため、多数の小規模ロジックセルを自由に組み合わせることで回路の利用効率が高く(すなわちチップ面積が小さくても組み込まれる機能が多い)、パフォーマンスが出せるチップを構成できるが、こちらは製造段階で配線を物理的に結線してしまうため、あとから機能の変更ができない。プログラマブルロジックのような柔軟性は期待できないわけだ。

従来のプログラマブルロジックとCBICが持つ問題を列記。FPGAやDRPは応用範囲が少なく、CBICは適用範囲が広いものの、製造後の回路変更は不可

 そこで、プログラマブルロジックの最大の問題である「大きいスイッチ素子」の小型化が図られることになるわけだが、NECはこの問題の解決方法として選択したのが「原子移動型金属スイッチ」という技術だった。

 従来のスイッチ素子では、対向電極の間に半導体をはさみこみ、電圧をかけて電子を移動させることで回路のオンとオフを制御している。ただし、半導体は「電子密度が小さく」電気を通しにくい「高抵抗」な物質であるため、電流を大量に流さなければならない。この性質がスイッチ素子の大型化の要因となっているわけだが、NanoBridgeでは、対向電極の間に挟み込んだ固定電解質のなかに「金属の橋」を作ってしまうのが特徴。

 金属なら内部の電子密度も大きく抵抗も低いので、低い電圧でも対向電極間のオンとオフが制御できるようになる。この方法には「ギャップ型」と「ギャップレス型」の2種類が知られているが、NanoBridgeで今回採用されたのは素子の生成が容易なギャップレス型。NanoBridgeは、対向電極に銅とチタンを採用し、その間に固定電解質として硫化銅を挟み込んでいる。

従来の半導体スイッチ素子と原子移動型金属スイッチの違い。半導体スイッチでは高い電圧が必要だったが、電子密度が高く抵抗が低い金属スイッチなら低電圧でオンオフが制御可能になる
金属スイッチにはギャップ型とノンギャップ型がある。金属架橋を固定電解質の外側に析出するのがギャップ型で内部に析出するのがノンギャップ型。NanoBridgeでは生成が容易なノンギャップ型を採用した

 チタン側がマイナス極になると、硫化銅の銅イオンが電子と結合して銅に還元される。還元された銅はチタン側から析出され最終的にはプラス極の銅の電極と結合して電気が流れる「オン」状態になる。逆にチタン側がプラス極になると、銅から電子が放出されて銅イオンになる「酸化反応」が発生する。この反応によって金属の銅が硫化銅になり、電気が流れない「オフ」状態になる仕組みだ。

NanoBridgeはチタン極がマイナス時には銅を析出し、プラス時には銅を硫化銅にすることでスイッチのオンとオフをコントロールする

 析出した銅で電極がつながる「金属架橋」のサイズは架橋幅数ナノメートルと微細。抵抗も数10オームというオーダーになる。このおかげで、従来のスイッチ素子が面積にして120平方Fだったのが、NanoBridgeは4平方Fまで小型化された(Fは素子内の配線幅と比較した相対長。2Fなら配線幅の2倍の長さになる)。また、抵抗値も従来2kオームだったのが50オームまで減少している。

 今回、NECは4×4のクロスバースイッチを組み込んだ基本回路を試作し、回路組み替えの実証実験の内容も公開している。動作電圧1.8V、NonaBridgeゲートサイズは約200ナノメートル(NanoBridgeのサイズは将来的に30ナノメートルまで実現可能とされている)の試作回路において、スイッチを切り替えて二通りの動作を行っている。

 このように基本回路の試作は成功しているが、NanoBridgeは現在も「開発中」の段階にある。試作回路でも、オンオフを切り替えるのに必要とされる「均一な低電圧の供給」が難しいため電圧制御回路をスイッチに組み込んだ状態だが、それ以外にも低電圧駆動のため、ロジックの動作時間が2〜8ミリ秒に限定されてしまう。

 この改良のために、固体電解質に不純物を混ぜる方法で内部におけるイオン移動を制御する方法や、電極や固定電解質の材質そのものの変更、ギャップ型やまったく新しい構造への変更も含めて研究を行っている。

NEC支配人兼システムデバイス研究所長の福間雅夫氏。NECは今回NEC、物質材料研究機構、科学技術振興機構の3者で協同開発した金属スイッチ素子にNanoBridgeという商標を登録する。福間氏は「NanoBridgeの事業化などを意識したものでなく、単に名称を決めておくだけ」と述べている。特許などの権利については具体的なことは決まっていないとしているが、科学技術振興機構の石田秋生氏(戦略的創造事業本部研究推進部部長)は「具体的には関係者間で調整するようになるが、研究成果の権利については要素ごとにそれぞれの中で保有するようになるだろう」と語っている
NECが取り組んでいる研究内容を技術リスク(開発が成功する難易度。リスクが高いほど開発は難しい)と市場の不透明性(開発して技術が事業ができる見通し。不透明性が高いほど、市場で求められる見通しが見えてないことになる)でプロットしたもの。NanoBridgeは開発が難しいものの、成功すれば市場に広く求められるとNECでは評価している

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