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“プロセッサパワーにおなかいっぱい”の声に回答するゲルシンガー氏(1/2 ページ)

» 2004年02月20日 17時18分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 プロセッサの高速化が進む一方、PC上で動作するソフトウェアの方は停滞気味。誰もがそう考え、ここ1年以上あまりクロック周波数の上がっていない近年のプロセッサでさえ「もう、おなかいっぱい」と思っているPCユーザーは多いことだろう。

 この停滞期、ユーザーはグラフィックスや周辺機器などに目を向けたり、あるいはデジタル家電などに、投資のベクトルをシフトさせた。以前はプロセッサの高速化が進むたびにユーザーの“新機種買いたい病”を刺激してきたPCだが、今やPCベンダーはプロセッサとは別の部分に新しい付加価値を創造しようと必死になっている。

 そんな声は、もちろん“クロック周波数こそ力なり”を実践してきたIntelにも届いていたに違いない。米国サンフランシスコで開催された「Intel Developers Forum Spring 2004」(IDF)の最終日、Intel CTOのパット・ゲルシンガー氏は「これ以上プロセッサが高速になっても、本当にその上にアプリケーションは載るのだろうか?ニーズは存在するのか?業界は発展するのか?との疑問がある。今回はこのことについて考えてみたい」と語り、マイクロプロセッサのさらなる可能性をアピールした。

photo ゲルシンガー氏

半導体の進化は続いているが、革新は連続したものではない

 ゲルシンガー氏はまず、過去の歴史を振り返った。1981年にIBM PCが登場したが、当時は64Kバイトもあれば、メモリ容量は十分以上に広大なものに感じられた。「32ビットプロセッサなんて、ミニコンやメインフレームでもない限り、必要ないと思われていた時代だ」とゲルシンガー氏。

 ところが90年代にWindows、マウス、カラーディスプレイが実用的なものになってくると、時代は32ビット時代へと動く。チープな動画がカクカクとコマ送りのように動き、原始的なマルチタスクが実現される。とはいえ、当時は10億台のコンピュータがインターネットで繋がるなんて夢だと思われていた。

photo 半導体の進化とは異なり、革新とは非連続なもの

 ところが、1995年のこと。インターネットとマルチメディアが爆発的な普及を始める。PCにジョイスティックやスピーカーが接続できることも当たり前となった。が、この時代でもまた「400MHzのPCは、もう十分なパフォーマンス。これ以上高速でも使い道はない」と評価された。しかし現在、GHzに達していないPCは駆逐されようとしている。中古を除けば、MHz単位で動作しているPCなど、もはや販売されていないのだから。

「こうしたPCの歴史から、我々は何を学んだのか?」とゲルシンガー氏は問いかける。

 「ムーアの法則は半導体製造プロセスが徐々に改善され、性能や生産性が徐々に良くなっていくことを示している。この法則は現在でも生き続けているが、半導体の性能は徐々に向上していくが、業界の革新は常にある時点でステップアップするように次の時代へと移り変わるものだ」(ゲルシンガー氏)。

 つまりパフォーマンスやアーキテクチャが進化し、同一パラダイムでの高性能化が進んでいくと、ある時新しいアプリケーションが実用的なものになる。これがパラダイムシフトを生み、時代は新しい秩序へと移ろうというわけだ。

 ゲルシンガー氏は、有名なコンピュータアーキテクト、アラン・ケイ氏の「未来を予測する最良の方法は、次の技術革新について検討することである」との言葉を引用。次の技術革新、パラダイムシフトが起こる限り、プロセッサパフォーマンスへの要求に終わりがないことを示唆した。

次の革新はテラバイトのデータを処理するRMS技術にあり

 ではゲルシンガー氏が考える、次の技術革新とは何か?膨大な量に達しているデジタル情報の活用に、プロセッサパワーの使い道があると同氏は考えているようだ。

 「膨大なデジタル情報のうち、我々がPCでハンドリングできているのはごく一部でしかない。たとえば、私が過去に講演した内容、様々な人とディスカッションした内容などを集め、デジタルデータに換算して見積もると4エクサバイトにも達する。単純に情報をデジタル化し、消費するだけでなく、コンテンツの中にある情報の中に、もっと深く進入する必要がある」(ゲルシンガー氏)。

photo 情報量の見積もり。PCで扱っているのは氷山の一角でしかない

 その手法としてゲルシンガー氏が示したのが「RMS」というキーワードだ。Rは“recognition”(認識)、Mは“mining”(マイニング・採掘)、Sは“synthesis”(合成)で、これらの手法を膨大なデジタル情報に適用することで、新たな付加価値を見いだせるという。

 認識技術が発展すれば、ヒューマンインターフェイスに応用できるだけでなく、より多くのデジタルデータから分析可能な情報へと変換することが可能となり、コンピュータ自身が学習・成長する技術への応用が可能になる。

 またマイニング技術は、マルチメディアデータのストリーム情報から必要な情報を取り出したり、Webや増える一方のデジカメ写真から、あっと言う間に求める情報を引き出すことが可能になるだろう。分析技術と組み合わせれば、優秀なサマライズ(要約)機能にも発展させることができる。

 さらに合成の分野。いかにもコンピュータで作りました、といった風な画像ではなく、写真のようにリアルな画像を簡単に生成可能になるだろう。実世界をシミュレートしたアニメーションを作り出すことも可能だ。さらに文書を自動的に生成するなどの応用もできるようになる。

 ただし従来のPCアーキテクチャのまま、単に高速化するだけではそれを達成することはできない。「RMSのソフトウェアを開発するには、それに適した新しいアーキテクチャが必要になる」とゲルシンガー氏は話す。

 RMSの世界では、処理対象となる情報のサイズによって、その付加価値や用途が決まってくる。たとえば医療用画像。16ビット/キロバイトの時代は、単にRGB画像のヒストグラムなどを分析する用途にしか使えなかった。しかし32ビット/メガバイト時代には解像度や色深度が向上して映像による診断が可能となる。さらにギガバイト時代では、MRI(磁気共鳴画像)によるデータ分析が可能になった。

 しかしプロセッサの高速化によって、ハンドリング可能な情報は増え、時代は“テラの時代”に移り変わろうとしていると、ゲルシンガー氏は指摘する。「テラの時代になれば、効果的な治療の検討や効果などのシミュレーションなど、より高度なアプリケーションが実現可能になる」(ゲルシンガー氏)。

photo 情報量とプロセッサパワーの増大によりテラの時代が訪れる

PCアーキテクチャはすべてマルチコアベースに

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