WaterScape以来おなじみになっている日立製作所中央研究所のデザイン本部から、「ちょっと変わったディスプレイを作りました」というメールをもらった(同社からの発表は別記事を参照)
「360度の全ての方向から見ることができるディスプレイ」で「スターウォーズのレイア姫の映像がR2-D2から投影されるやつを作りたいと思って始めました(まだまだその段階ではありませんが)」(*1)なのだそうである。なんだかよくわからないけどすごそうだ。発表会があるというので、2月24日、出かけてきた。
画像はこんな。写真が下手ですみません。ピントをあわせるということが極めて困難だったので、いろいろ条件を変えてみたんだけど、この程度。もともと解像度も低いんだけど、それでももう少しまし。いくつもの新聞社のちゃんとしたカメラマンが気合を入れて写真を撮っていたので、朝刊にはいい写真が載っているんじゃないかな。
原理は、さきに撮影系を見てもらったほうがわかりやすいかもしれない。
中央に被写体がある。そのまわりをには、24枚の平面鏡が斜めにならんでいて、天井側にあるカメラの方に被写体の像を反射させている。このカメラで撮影すると、次のような画像が得られる(この写真は、カメラの位置にわたしのデジカメを置いて撮ったので、被写体がミラーに収まっていないところがある。ほんとは、もっとちゃんとミラーの中にお収まる)
中央は実物。そのまわりに24方向からの像がぐるっと囲む。でも、表示に使われるのは、このぐるっとの部分だけ。実物の写真は使わない。この画像がこのまま表示系に送られるのだ。
表示系は、こんな構造をしている(プレゼン資料より)。さっきのぐるっと画像をプロジェクタが下から上に投影する。画像は天井のミラーに反射して下に落ちる。するとそこには、さっきの撮影系と相似な24枚のミラーがある。もちろん、ぐるっと画像の24枚のそれぞれの絵が、それぞれのミラーの上に乗っかるように位置は調整されている。これで、24方向から撮影した絵が、24方向から投影されるというところまで来た。
最後は、中央にあるスクリーンだ。これは8cm四方くらいの大きさで、秒速約30回転(*2)で回転している(*3)。ここに絵が投影されることで360度どこからでも見えるディスプレイができあがりというわけ。このスクリーンは、新開発の低視野角のものだ。となりの方向からの画像も反射してしまったら画像がぼやけてしまうのだ。
おもわず「力業ですねぇ」って言っちゃった。スクリーンこそ新開発だけど、あとは、いっちゃぁなんだがローテクの塊だ。撮影して伝送して表示するまでの間に、原理的には画像処理もなにもいらない(*4)。同期を取るという要素もない。シンプル。シンプルというのは強いということだ。被写体が動くものだろうがなんにも問題はない。リアルタイムに表示できる。前処理が大変なホログラムにはできない技だ。
ぐるっと画像は、CGで作ったっていい。24方向から見た画像を並べればいいわけだ。あるいは動画の各コマをぐるっとにすれば、まわりを歩くと中のものが動くということもできる。全く違う画像を並べれば、見る方向によって、違う画像が見えるものというのもできる。これを、案内標識として使う例が提案されていた。
逆に、24コマ全部同じ画像というのもありだ。この場合、「どちらから見ても同じ絵が見える」という、それはそれで不思議なものができるわけだ。それで時計を表示させたらおもしろいかもという話もあった。
ディスプレイの直径は40センチ。これは、ディスプレイを至近距離で見たときに、ちょうど隣り合った画像が、人間の左右の目に別々に入るサイズなんだそうだ(*5)。そこで見れば立体視というわけだ。
いま、案内標識と言ったけど、「Transpost」っていうのは、そんなような街角に置かれるポストみたいなもの想定したところからつけられた名前だ。街角に置かれるディスプレイ。円筒形のデザインもそういうイメージだ。
現状の問題点は、まず解像度が低いこと。いま使用しているプロジェクタはXGA(1024×768ピクセル)。でも、表示使われるのは、ぐるっと24コマの部分だけだ。残りは無駄に捨てられている。その結果、実際に表示されている画像はせいぜい100×100ピクセル程度。動画の場合はそれほど気にならないけど、静止画だとさすがに粗さが目立つ。
プロジェクタの解像度を上げればもっと解像度をあげることもできるけど、でも、ぐるっと以外は捨てられているっていうことは変わらない。もったいない。ミラーの角度を1枚おきに変えて、ぐるっとを2重の環にできないかなどは、研究中だそうだ。
もっとダイナミックには、カメラを24台並べてしまうという方法もある。伝送が大変になるけど、できなくはない。この場合、ディスプレイをどうするかが問題だ。24台プロジェクタを並べたらはみ出してしまう。このあたりも期待しよう。
もう一つ気になったのは、アクリル板の存在だ。これがあるために、なんか自分と画像が違う世界にいるように感じるのだ。これさえなかったら、もっと現実感があるのに。とはいうものの、まん中には高速回転スクリーンがいるのだ。指をつつく奴が出てくる。人ごとではない。たぶん、まっさきにつつくのはわたしだ。そういう奴がいる以上、むき出しで置くわけにはいかない。
聞いてみたら、このアクリル板にセンサーをつけるという計画もあるんだそうだ。アクリル板をつつくとそっちを向いたり、手を当てると逃げたり。そうすれば、金魚鉢の中の金魚くらいには、同じ世界にいるような気持ちになれそうだ。
あとは上の部分なしにテーブル状のものの上にいきなり表示されれば、それはもうレイア姫なんだけど。
「でも、レイア姫よりも、こっちがすごいこともあるんですよ。あっちはカラーじゃないんです。」
追記:24枚の平面のミラーではなく、擂鉢状の1枚の曲面ミラーではだめなんだろうか、大量生産するときには角度調整がいらないぶん、その方が楽ではないかと思って聞いてみた。そしたら、(コストの問題以前に)それだとうまく像を結ばなくなってしまうんだそうだ。これ、帰ってきてから頭の中で考えているんだけど、どうしてうまくいかないのかがよくわからない。「教えて、光学系のえらい人」状態。
*1 発表会では「SF映画のような」という表現になっていました。
*2 秒速30回転っていうんで、なんかNTSCのフィールド周波数なのかと思ったら、それは偶然なんだそうだ。商用交流電源の周波数(東日本では50Hz)の整数倍だと照明の影響でちらついて見えてしまうので、それから少しずらしたっていうくらいの値。逆に、たまたまフィールドにあっちゃっている(でも少しずれている)んで、ビデオで撮影しようとすると、「うなり」が見えちゃって大変だった。
*3 平面ディスプレイを高速で回すっていうのも力業ですねって言ったら、にこっと笑って「日立ですから」と答えてくれた。そうだ、日立といったら回転ものだったんだ。日立のあのマーク(通天閣の...っていおうとしたら最近マークないんだね)もモータの形なんだった。
*4 今気がついたけど、撮影時はミラーに1回だけ反射だけど、表示時には2回反射している。どこかで左右反転はしてたようだ。
*5 人間の瞳孔と瞳孔の幅(眼幅)は、個人差もあるがだいたい6cm。電卓を叩いてみると、円周の24分の1の弧の長さがそのくらいになるは直径46センチのときだ(本当は弦の長さで出さなきゃいけないのだけど、概算)。6センチ離れたあたりで見るとちょうどいいということかな。
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