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無線LAN IP電話が利用できる携帯電話、Motorolaが発表

» 2004年07月27日 20時40分 公開
[IDG Japan]
IDG

 Motorola、Avaya、Proximは7月27日、携帯電話ネットワークと無線LANを切り替えられる携帯端末「CN620」と企業向けネットワーク機器を発表した。

 3社は企業顧客の電話料金の削減と、モバイルワーカーの生産性向上を約束している。AvayaとMotorolaが開発したCN620は、Session Initiation Protocol(SIP)ベースでWi-Fiと携帯ネットワークに対応。この端末はAvayaのIPベースのPBXあるいはIP対応のPBX、それからAvayaとProximが開発した無線LANスイッチ、シンアクセスポイントと組み合わせて使われる。

 ユーザーは興味を持ちつつも、懐疑的な反応を示している。実際の製品が登場しないうちからベンダーに派手に宣伝されてきたWi-Fi・携帯電話の統合製品は、深刻な技術問題に直面している。

 「当社には、低コストの社内ワイヤレス通信を必要とするスタッフがたくさんいる」とボストンの病院ネットワークCareGroup SystemsのCIO(情報統括責任者)ジョン・ハラムカ氏。同氏は、AvayaのPBXネットワークで、携帯電話を内線電話として利用できる同社の「Extension to Cellular」を検証しているところだという。だが、携帯ネットワークと無線LANの統合はさらに重要だと同氏。スタッフが自分の携帯電話を使って、CareGroupの無線LAN経由で電話をかけられるようになるためだという。またこうした統合により、携帯電話の信号が引き起こす電波の干渉が減ることにもなる。

 別のユーザーは、携帯電話と無線LAN IP電話(VoWLAN)を統合したこの「Enterprise Seamless Mobility」技術の潜在的な欠点を指摘する。「問題はAvayaのアクセスポイントを使わなくてはならないということだ」とメリーランド大学の上級通信ネットワークエンジニア、デビッド・ドノホ氏は語る。「当大学では多数のCiscoの802.11アクセスポイントを導入している。これをすべて引っ張り出して、携帯・VoWLANローミング機能を導入する方法はない」

 同大学では、Avayaの電話ネットワークを導入し、同社のExtension to Cellular機能を使っている。ドノホ氏は、Seamless Mobilityのもう1つの問題として、初めはMotorolaの端末しかこのネットワークに対応しないという点を挙げている。

 多くの社員がオフィス内でも携帯電話を使うため、携帯通話料がかさみがちだという大企業にとって、携帯電話技術と無線LAN技術の組み合わせは魅力的だとアナリストは語る。「無線LANを導入している企業はすぐに、(無線LANに)音声通話機能を加えてもそれほどコストが上がらないことに気付くだろう」とABI Researchの上級アナリスト、フィリップ・ソリス氏は語る。社員に携帯電話と卓上電話を与える代わりに、1台の端末だけを支給すれば、さらなるコスト削減につながる。また社員は音声メールボックスと電話番号を1つずつ持てばいいため、生産性は向上すると同氏は付け加えている。

 Avaya、Motorola、Proximは昨年提携を発表した。3社の共同開発によるSeamless Mobilityの主要コンポーネントの1つが、Windows CEベースのMotorolaの端末だ。これは802.11aと携帯電話の信号に対応し、ユーザーはオフィス内でAvayaのIP PBX・Wi-Fi対応VoIPネットワークから電話をかけることができる。

 モバイルユーザーがオフィスで内線電話をかける場合、社内の無線LANと携帯ネットワークを切り替え、干渉なしで通話ができるとAvayaは説明する。同社によると、Seamless Mobilityの将来版では、ユーザーがどのネットワーク上でどの端末を使っていても、通話が途切れることなくネットワークを切り替えられるという。

 CN620に搭載されているMotorolaとAvayaが開発したソフトを使えば、ユーザーはオフィス内から内線番号で電話をかけ、さらにAvayaのすべてのPBX機能にアクセスできる。この端末のSIPスタックは、SIPベースのデバイスを持つ同僚と接続できるトランシーバ機能をサポートしている。またこのソフトは、無線LANと携帯ネットワークの信号を検知する。通常は内線から発信する方が携帯ネットワークよりも通話料が安いため、無線LAN信号を使った発信が優先されるようになっている。無線LAN信号が利用できないときは、携帯ネットワークを使って電話をかける。

 AvayaがProximと共同開発した新しい802.11aアクセスポイント「W110」と無線LANゲートウェイ「W310」は、通話の暗号化、アクセスポイント間の高速なハンドオフ、社内の無線音声信号のサービス品質(DoS)を提供する。

 この新しい機器では、2つの承認前の標準を採用している。1つは無線でのQoSをサポートするための「Wireless Media Extension」。これは802.11e仕様案の一部だ。もう1つは、アクセスポイント間の音声接続の高速ハンドオフのための802.11rだ。また暗号化とセキュリティには、最近承認された802.11i標準を採用している。

 Seamless Mobilityの無線LANの部分は多くが標準化されていないが、「標準ベースにすることを目指している」とAvayaの上級マーケティングマネジャー、フリッツ・オロム氏。同氏は、この技術は最終的に、どの企業のWi-Fi機器でも導入できるようになり、802.11eと802.11rの正式承認版をサポートするとしている。

 この技術のもう1つのコンポーネントが、Motorolaの「Wireless Services Manager」だ。このソフトはSunの専用サーバで動き、AvayaのPBXと連係して、携帯ネットワークとVoWLANネットワークの間で通話を切り替える。このプロジェクトに詳しい筋によると、AT&T Wireless Servicesがこの技術をサポートするための試験を行っているという。AT&T Wirelessは最終的に、携帯電話利用者が、公共の携帯ネットワークと社内の無線LANインフラを切り替えられるプランを企業に提供するかもしれない。

 東芝、富士通NECは、802.11と携帯ネットワークの両方に対応する携帯端末を発表済みだ。CiscoはVoWLAN端末を開発済みで、それに携帯電話技術を加える計画だ。しかしこれらベンダーは、企業ネットワークインフラを手がけるパートナーと共同で製品を開発し、ネットワーク間の真のローミングをサポートしているわけではないとCurrent Analysisのアナリスト、ブライアン・リグズ氏は語る。

 Avaya、Motorola、Proximにとっても、課題は残るとリグズ氏。「Seamless Mobilityに必要な(ワイヤレス)技術の多くは、まだ標準化されていない」と同氏は指摘し、QoS、セキュリティ、高速ローミングを例に挙げた。同氏は、Avayaの製品を採用するユーザーは、プロプライエタリな技術に囲い込まれることになるとも警告している。

 もう1つ、この技術が十分にキャリアの支持を得られるかという問題がある。ユーザーが携帯ネットワークからVoWLANに切り替えたとき、「何に対して誰に課金するのか? この問題がまだはっきりしていない。このやり方では誰かが得をして、誰かが損をする。キャリアにはどう補償するのか」とリグズ氏は指摘する。ビル内での接続にBluetoothを使うBTのBluephoneプロジェクトは、英国で初めて現実的なビジネスモデルに近づいた例だ。

 Forrester Researchのアナリスト、リサ・ピアース氏は、たとえこのような技術により(キャリアが)課金できる通話時間が減るとしても、企業を契約で囲い込むことがキャリアにとって魅力になる可能性があると考えている。「このような製品が、(キャリアの)解約率を下げる効果しかないとしても、それだけでも価値がある」

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