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速球投手Intelが覚えた変化球(2/3 ページ)

» 2004年09月08日 23時19分 公開
[本田雅一,ITmedia]

変化球投手への転向

 Intel自身は否定するだろうが、HyperThreadingやマルチコアに向かう同社の戦略は、いわば変化球のようなものだ。以前のIntelは、直球勝負でクロック周波数を向上させることにリソースを注ぎ込んできた。

 しかし半導体技術の面でこの戦略には無理が生じている。およそ3年の間に、デスクトップPC向けプロセッサのクロック周波数は3.06GHzから3.6GHzにしか向上していないことがそれを証明している。

 この問題はIntelだけのものではなく、多くの半導体ベンダーが抱えているものだが、クロック周波数への依存度が高すぎたIntelは、その影響をもっとも大きく受けているベンダーであろう。(現行Pentium 4である)「Prescott」の後継プロセッサになるハズだった「Tejas」がキャンセルになるなど、Intelの計画への影響は大きかった。

オッテリーニ氏 サンプルが完成したMontecitoを手にしたオッテリーニ氏

 オッテリーニ氏は「Pentium 4最後のプロセッサとなるハズだったTejasは、その開発が遅れていた事に加え、予想していたよりも早くデュアルコア製品を提供できるようなったことで、存在価値が薄れてしまった」とキャンセルの理由について話しているが、実際には想像以上に跳ね上がりそうな消費電力との兼ね合いで、当初の予定通りに性能向上を果たせなくなったと見る向きが多い。

 クロック周波数の向上ペースが落ち着いてきた近年の半導体トレンドの中で、Intelに限らずほとんどのプロセッサベンダーがマルチコアの方向に舵を取った。全主要セグメントの製品がマルチコア化に向かうという戦略も、業界の流れの中では何ら不思議なところはない。しかし、剛速球投手から変化球投手への転向は、おそらくちょっとした工夫を要するハズである。

 なぜなら、デュアルコア/マルチコアの製品は、シングルコアのトップエンド製品に比べてクロック周波数では下回る可能性が強い(少なくとも上回らない)からだ。Intel CTOのパット・ゲルシンガー氏はプレスとのラウンドテーブルで「クロックが3.2GHzと3.4GHzは、確かにクロック上昇分のソフトウェア速度は変化するが、ユーザー体験にどれほどの違いがあることか。しかし、デュアルコアであれば、3.2GHzに加えてもうひとつの3.2GHzプロセッサが加わる。それを有効に利用することで、ユーザー体験のレベルを引き上げられる」とコメントした。

 とは言え、クロック周波数が上昇しなければ、シングルスレッドアプリケーションの速度は上昇しない。サーバ分野、あるいはグラフィックスやエンジニアリング分野においては、デュアルコアは最適解となり得る。しかし、エンドユーザーのコンピューティング環境を改善する効果に関しては、どこまで受け入れられるものになるのか。そこには大きな疑問符が付く。

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