「番竜」「AIBO」「PINO」「ifbot」「パロ」……ずらりそろった国産ロボを、見て触って楽しめる無料施設が福岡市にある。その名も「ロボスクエア」。繁華街の中心からは少し外れた場所にありながら、年間約13万人が訪れる人気施設だ。「これだけ多くのロボットに、実際に触れて遊べる施設は全国でもここだけ」――福岡市経済振興局産業政策部新産業新興室の新川信一ロボスクエア担当主査は胸を張る。
ロボスクエアは、福岡市と韓国釜山で、ロボットによるサッカーの世界大会「RoboCup-2002 Fukuoka/Busan」が開かれた2002年、福岡にロボット文化を根付かせようと設立された。運営するのは、福岡市を中心とした産学官で構成する「ロボスクエア運営委員会」。ロボットの展示に加え、ロボット組み立て教室も実施。早稲田大学や九州大学のロボット研究所も併設している。
「ロボットと遊んだり、組み立てたりしている時の子どもはすごく生き生きしているんです。最近の子どもたちは、夢や目標を持たなくなったと言われているけれど、ロボットなら子どもに夢を与えられる」――新川主査はそう言って眼を輝かせる。
「ロボットには人を元気にする力がある」と新川主査が実感したのは、ロボットの“出張授業”がきっかけだった。
ロボスクエアのロボットは、頻繁に“出張”している。ほぼ無休(1月1日のみ定休)の施設運営の合間を縫い、スタッフがPINOやAIBOを連れ、市内の学校や病院を訪問するのだ。「少しでも多くの子どもたちにロボットに触れてほしい」との思いで、厳しいスケジュールをやりくりする。
昨年はホンダの協力を得、ASIMOが福岡市内の小学校75校を回ったの。「ASIMOを見た子どもたちの最高の笑顔が忘れられません」。
「ある小学校では、校長先生が駆け寄ってきてこう言ったんです。『普段は10人は欠席者がいるのに、今日は全員出席です』って。不登校だった子どもが、ASIMOの訪問をきっかけに登校するようになったという話も聞きました」
PINOやAIBOを連れ、子ども病院も訪問したこともある。「体を少しでも動かすと痛みが走る病気を持つお子さんのそばにAIBOを連れて行ったとき。お母さんが、言うんです。『見てください、この子今、AIBOに触ろうとしてるんですよ』って」――動きはほんのわずかで、新川さんには分からなかったというが、ロボットには、子どもの“生きる力”を引き出す何かがある――それだけは実感できた。
子どもたちとロボットとの触れあいは、少子高齢化時代を日本が生き抜く力になると新川主査は話す。「日本は高齢化が進み、たった3人の若者で1人の高齢者を支えているのが現状。今の子どもたちが大人になるころ、支え手はもっと少なくなります。このまま高齢化が進めば、若者の多くが介護に手を割かれ、モノを作ったり売る人がいなくなってしまいます」
高齢者の支え手の一端を、ロボットに担わせたいと新川主査は考える。「介護ロボはもちろんですが、例えば、筋力を増強できる“パワースーツ”が実用化されれば、これまで介護が必要だった高齢者が1人でも動けるようになるかもしれません」――若者を介護から解放しつつ、お年寄りも自立できる一石二鳥の解決策がロボットというわけだ。
「ロボット技術は日本が一番進んでいます。ロボットを作れば、世界の先駆けになれるんです」。新川主査は、将来の日本が“世界一”を目指せる分野として、ロボットに期待をかける。
そして今日も、未来のロボット技術者の卵を育てるため、ロボスクエアで子どもにロボット工作を教え、ロボットを学校や病院に連れ出し、子どもたちにロボットの魅力を伝えていく。
「20年後や30年後、アトムみたいなお手伝いロボが実用化されれば素敵だと思いませんか? ロボスクエアでロボットに出会ったことをきっかけに、福岡からロボット技術者が生まれてくれたら嬉しい」
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