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カナダの研究者、単分子トランジスタ実現に向け前進

» 2005年06月02日 19時27分 公開
[ITmedia]

 カナダの大学と国立研究機関の研究者らが、単分子トランジスタの新たなコンセプトを設計し、実験に成功したことを明らかにした。

 この研究に参加したアルバータ大学および学術研究会議の国立ナノテクノロジー研究所の研究チームは、シリコン表面上の帯電した1個の分子が、近くの分子の伝導性を統制できることを初めて証明した。この成果は6月2日発行のNature誌に掲載される。

 現在の技術でマイクロ電子機器を小型化するには限界があるが、新しいコンセプトは従来のトランジスタ技術の限界を超えると研究者らは発表文で述べている。これまでは分子デバイスを作る上で、1個の分子に接続することが超えられない壁となっていたが、彼らのアプローチはこの問題を解決するものだという。

 研究チームは、シリコン上の1個の原子に電荷をかけると同時に、周囲の原子をニュートラルに保つことが可能であることを実証した。電荷をかけた原子の隣に置かれた分子は、「チューニング」され、その分子を通して電極から別の電極へと電流を貫流させることができた。その分子を流れる電流は、隣の原子の荷電状態を変えることでオンまたはオフにできる。

 彼らは1個の原子が発する静電界を利用して分子の伝導性を統制し、分子に電流を通せるようにすることで接続の問題を解決した。この現象は室温で容易に観測できる。これまでの分子実験では、伝導性の変化を測るために絶対零度近くで行わなくてはならなかった。

 もう1つ重要な点は、分子の伝導性をオン・オフするのに必要な電子がわずか1個ということだ。従来のトランジスタでは、こうした切り替えに約100万個の電子が必要だ。

 「このコンセプトは従来のトランジスタ技術の限界を回避し、ナノスケールの小型化を可能にする。われわれのケースでは、強力で環境に優しい技術を作れる可能性がある。最小限の電力と素材しか必要としないし、このデバイスは生物分解可能な性質を持つ」とアルバータ大学のウォルコー博士は述べている。

 この成果は分子デバイスに向けた重要な一歩だが、もう幾つかのステップが必要だと同氏は語り、分子デバイスとシリコンデバイスのハイブリッドの研究を提唱している。「われわれのプロトタイプはシリコン上で動く。古い技術を新しい技術と統合できるということだ」

 「われわれの手法を使って分子電子デバイスを開発できると楽観視している。残るハードルを克服できない理由はないと思う。こうしたデバイスがスピード、小型化、高効率を約束していることを考えると、明らかにこのハードルは取り組む価値があるものだ」(同氏)

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