「スクリーンリーダーは膨大な“つじつま合わせ”」――スクリーンリーダーと呼ばれる視覚障害者用ソフトを開発する石川准静岡県立大学教授は、冗談めかしてこう話す。
スクリーンリーダーは、マウス不要でPC操作でき、画面上のテキストを読み上げたり音声でユーザーナビゲーションするソフト。石川教授は、エクストラが7月27日に発売したスクリーンリーダー「JAWS for Windows Version 6.2 日本語版」の日本向けローカライズチーフだ。
JAWSの開発元は米Freedom Scientific。日本語版の発売は、日本アイ・ビー・エムが販売する「4.5」以来、約3年ぶりとなる。
新版では、Internet Explorer関連機能を強化したほか、「Word」「Excel」「PowerPoint」最新版やアクセシブルPDFの読み上げに対応。日本語版は、日本語解析の精度を高めた。
5人のローカライズチームのうち、石川教授を含む4人が全盲。ユーザーの視点でローカライズできたという。
ただ、JAWS新版も、石川教授が考えるWebアクセシビリティの理想にはまだまだ遠いという。「スクリーンリーダーは、ぼう大な間に合わせとつじつま合わせに過ぎない」
スクリーンリーダーは、画面上の表現が何を意味しているのかを「表面的に」読み取る。例えば、太字だったり文字色が変わっていれば重要な内容と判断する――といった具合で、間違いも少なくない。また、それぞれのアプリケーションに合わせたソフト開発が必要。「相手が変わるたびに付いて行かなくてはならない繊細なナマモノ」で、開発に膨大な手間とコストがかかる。
コストの割にはマーケットが小さいため、「スクリーンリーダーを手がける企業は、概して短命」という。今回のローカライズでも、コスト削減のため、ヘルプの日本語化を最低限に抑え、代わりに日本語版開発者自身が使い方をナレーションするCD-ROMを添付するなど工夫した。それでも1本14万9100円(税込み)とかなり高額になっている。
石川教授が理想とするのは、ソフトを次々に開発していかねばならない従来型のスクリーンリーダーではなく、OSやアプリケーションそれぞれが、お互いの表現の“意味”を理解できる仕組みだ。例えば、見た目は似たようなフォームでも、ユーザー認証用フォームなのかコメント書き込み用フォームなのかといった“意味”を、OSやアプリケーション自身が判断し、ユーザーに伝えられるシステムが理想という。
メタデータを活用してコンピュータ同士で情報をやりとりさせる「セマンティックWeb」が一般化すれば、石川教授の理想に近づきそうだが「いつになるか分からない」。JAWSのようなソフトは、理想のアクセシビリティが実現した社会までのつなぎ役としての役割を担う。
「アクセシビリティの追求にゴールはない。たくさんの人が得意な分野を持ち寄り、協力し、次にバトンをつないでいきたい」
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