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研究対象としての「mixi」

» 2005年09月14日 16時15分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)に、社会学からアプローチする研究が始まっている。SNSのコミュニティーは、人間同士のつながりを把握できる貴重なサンプル。解析すれば、人脈の広がり方や情報の伝わり方の解明につながりそうだ。

 SNS「mixi」の人脈ネットワークはどんな特性を持つのか――運営者のイー・マーキュリーから公式データを得た3グループが、このほど開かれた「社会情報学フェア2005」(京都大学)のワークショップで研究内容を発表した。

photo 京都大学

 利用したデータは2005年2月時点のもので、ユーザー数は約36万人。個人が特定できないよう加工されている。

 研究は、社会学の「ネットワーク分析」の視点で行われた。ネットワーク分析とは、個人の行動を、その人の意思や属性ではなく、その人を取り巻く環境――ネットワーク――によって説明しようという手法だ。

 実社会の人間関係ネットワークを明らかにするには、個人に対して「Aさんとは友人ですか? Bさんとはどういった関係ですか?」と詳細に質問するなど地道な作業が必要。取れるデータの量も限られる。しかしmixiなら、36万人規模(データ取得当時)の人脈が友人リンク「マイミクシィ」(マイミク)を通じて可視化されており、大量の人間関係をそのまま分析できる。

5割がマイミク4人以下

 mixiユーザーの平均マイミク数は20.95人だが、その分布はかなり偏っている。ATRネットワーク情報学研究所の湯田聴夫研究員らの研究によると、50.9%のユーザーがマイミク数4人以下。マイミクが1人だけのユーザーも23.6%いた。

 マイミク数5人以上の分布は、5〜11人が17.1%、12〜25人が24.3%、26〜40人が15.4%、41〜87人が20.6%、88〜197人が10.1%、198〜1301人が2.9%となっている。

 マイミクの多い少数のユーザー同士は非常に濃くつながっており、彼らがハブとなって全体の人間関係をつないでいるようだ。マイミクが41人以上のユーザーは全体の4.8%に過ぎないが、構成するリンクは全体の33.6%を占める。一方、マイミクが5人以下のユーザー(全体の50.9%)が構成するリンクは、全体のリンクのわずか9.5%に過ぎない。

photo

 マイミクが少ないユーザーが、効率的にマイミクを増やせる仕組みを作ってやれば、mixi内部の人間関係はまだまだ濃くなるだろう――東京大学21世紀COEものづくり経営研究センターの安田雪特任助教授はこう指摘する。

mixiに見えた“世界初”の構造

 高密度にリンクしているユーザーの固まりを解析すると、mixiには珍しい構造が見られるという。一般的に、ある固まりに所属するノード数は、固まりが大きくなるにつれてなだらかに増えていくが、mixiの場合は、固まりの規模がある一定に達すると「スキップ」が起き、一気に大規模な固まりにふくれあがるのだ。中間的な規模のかたまりがほとんど存在せず、「世界で初めて発見されたユニークな構造」(湯田研究員)という。

 湯田研究員は、2つの仮説を立ててスキップの理由を検証した。コミュニティーでオフ会を行った際に一気にリンクが増えるという「コミュニティ効果」モデルと、ユーザー同士が「足あと」をたどったり、検索し合うなどしてランダムに結合する「検索効果モデル」だ。コミュニティー効果モデルで計算するとスキップが弱く発現し、検索効果モデルでは強く発現したといい、この2つがスキップの要因となっている可能性は高いが、スキップを完全に解明するにはさらなる研究が必要という。

 mixiには「ネットワークの地平線」を超える作用があると湯田研究員は言う。リアルの世界では、自分から見えている人間関係は、自分の直接の友人まで。友人の友人がどんな人か知る機会はそう多くない。しかしmixiなら、マイミクシィをたどったり、友人の日記のコメント欄を見ることで、友人の友人の人となりを知る――「人間関係をたぐる」(湯田研究員)ことができる。“たぐり”の作用を理解することが、mixiの人間関係ネットワークの特性を理解するキーのひとつになりそうだ。

コミュニティー同士のつながりも

 mixiのネットワーク分析は、同じ興味を持った人が集まって意見を交わせる場・コミュニティーにも及ぶ。産業総合研究所の情報技術研究部門知的コンテンツグループの松尾豊研究員などのグループは、コミュニティー間のつながりを解析した。

 ユーザー数上位200位までのコミュニティーから2つを取り出し、共通して入っているユーザーの割合が高いほどコミュニティー間の関連性が深いと定義。関連の深いコミュニティー同士をつないでマップ化すると、同じ分野のコミュニティー同士が近くに並んだ。

photo コミュニティーの関連マップ

 ネットワーク内のコミュニティーには2つの特徴が見られたという。(1)分野同士をつなぐハブとなるコミュニティー、(2)分野をどんどん詳細化・マニアック化していくコミュニティー――だ。

 (1)は例えば、ネタ系コミュニティーとアート系コミュニティーを結ぶハブとして存在する「面白ネタで笑おう」というコミュニティー。(2)は、「Macユーザー」→「Mac OS X」→「PowerBook&iBook」というように、どんどんと細分化していくコミュニティーだ。大きなコミュニティーでコミュニケーションを続けるうちに、マニアックなコミュニティーが派生していき、ユーザーが移っていくのだろうと松尾研究員は話す。

mixi研究の今後、mixiの今後

 早稲田大学大学院国際情報通信研究科の森祐治氏は、マーケティングシミュレーションにmixi研究の成果が生かせそうだと期待する。人間関係ネットワークが情報伝達や購買の判断にどう影響するかが、mixi内のネットワーク分析から見えてきそうだ。

 研究を進めるにあたっての課題は多い。mixiのネットワークは大きすぎて分析が難しい上、イー・マーキュリーが提供したデータだけでは、マーケティングシミュレーションに生かすには十分ではないという。しかしこれ以上の情報提供を求めるのも、個人情報の保護などの観点から難しそうだ。安田特任教授は「mixi上の人間関係の所有者は誰なのだろうか。イー・マーキュリーの社長なのか、ユーザー個人なのか」と問題を提起する。

 mixiは今後どう発展するだろうか。国立情報学研究所の大向一輝氏は「個人の“多重人格性”を保持しながら、サービスをどう進めるかが課題」と指摘する。ユーザーは現実社会で複数のコミュニティーに所属しており、コミュニティーごとにさまざまな“顔”を使い分けていることが多い。mixiは、すべてのマイミクに対して同じ顔しか見せられないため、マイミクが増えるにつれ息苦しくなってやめてしまうユーザーも少なくない。

 「SNSとブログとメッセンジャーは、広い意味では同じだ」と湯田研究員は指摘する。ユーザー同士がネットを介して直接つながるという意味では、3者に変わりはない。国内SNS界では競合らしい競合のいないmixiだが、高機能化したブログやメッセンジャーとしのぎを削っていくことになるのかもしれない。

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