文部科学省の清水潔・研究振興局長は9月28日、超高速スーパーコンピュータ計画について、都内で開かれたシンポジウムで説明した。ハード、ソフトの両面で要素技術の開発を進め、10P(ペタ)FLOPS=1秒間に1京回の演算が可能な世界最速の「汎用京速計算機」を2010年度に実現するのが目標だ(関連記事参照)。
計画は2006年度から2012年度まで7カ年。ソフト、ハードの研究開発を産官学共同で進め、2010年度、TOP500に使われるLinpackベンチマークで、「地球シミュレータ」(35.9TFLOPS)の250倍以上となる10PFLOPSの達成を目指す。10P=1京にちなんで「汎用京速計算機」と呼んでいる。
総事業費は、地球シミュレータ(約600億円)の2倍近い1154億円を見込む。文科省は来年度予算案の概算要求に40億5100万円を盛り込む予定だ。来年度はまず、京速計算機システム全般の設計や研究開発に着手。計算科学技術を国家の基幹技術として推進する「先端計算科学技術センター」(仮称)の設立準備調査も行う。
ハードウェア開発は、2006〜2007年度に要求性能調査と仕様検討、性能見積もりを行い、2008年度から回路設計・実装をスタート。2009〜2010年度で京速計算機のシステム全体を製作し、10PFLOPSを達成した上でシステム強化を続けるというスケジュールだ。
ハードは各方式を組み合わせた複合型とする案が有力。ベクター型、スカラー型、東京大学の「GRAPE」のような専門計算機型を有機的に組み合わせて使用したり、用途に応じて独立して使うといったアプローチだ。
ソフト開発ではOSや、グリッドミドルウェア、異機種統合ソフトといったベース部分に加え、京速計算機が挑むグランドチャレンジのターゲットとして、ライフサイエンスとナノテクノロジーの2分野を設定する。
ライフサイエンス分野の「次世代生命体統合シミュレーション」では、遺伝子レベルから細胞、器官、骨格、血流など人体を丸ごとシミュレートして解析可能な基盤ソフトの開発を目指す。テーラーメード医療の実現や新規創薬などがねらいだ。
ナノ分野の「次世代ナノ統合シミュレーション」では、電子・原子・分子から分子複合デバイスに至るまで、ナノ材料を丸ごと解析できる環境を実現する。グリッドミドルウェアととナノシミュレーションソフトの開発を進めている「NAREGI」プロジェクトの成果をベースに開発する。
現状の技術でペタスケールのスーパーコンピュータを建造する場合、プロセッサ−メモリ間やノード間の接続速度(インターコネクト)のボトルネック問題、小型発電所が必要になるほどの莫大な消費電力、ビル1棟分に相当する設置面積──などが解決できない。光接続や低消費電力化といったハード面の要素技術開発に加え、欧米に比べ弱いと指摘される優れたソフトの開発など、京速計算機の実現に向けた課題は山積みだ。
国立情報学研究所と文部科学省が共催した「計算科学技術シンポジウム」で講演した清水局長は「ハードルは極めて多いが、国を挙げたオールジャパンでの支援をお願いしたい」と話した。
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