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ビジネスと倫理は共存するか?

» 2005年10月03日 18時48分 公開
[IDG Japan]
IDG

 Los Angeles Times紙の9月の報道によると、米Disneyのロバート・アイガー社長(9月30日より同社CEOに就任)は中国のCATV加入世帯に向けてDisney Channelを配信しようと、北京で再び交渉に入った。その対象世帯数は3億4000万。米国の全人口をも上回る、可能性に満ちた市場だ。

 半導体大手の米Intelは、8月のIDFで、中国からのウェブキャストを実施。工場長が誇らしげに中国政府関係者と並んで立ち、最新工場を紹介した。

 InfoWorldの発行元であるIDGも、世界展開する企業のほとんどがそうであるように、中国で事業を展開している。中国熱は、1849年のゴールドラッシュの現代版さながらだ。だが、InfoWorldのサイトに先日掲載された次のような記事についても考えてみよう。IDG News Serviceのダン・ニステット記者執筆のこの記事は、Yahoo!が中国の法律に従って電子メール記録を中国政府に提出したことを明らかにした、と報じている。

 記事によると、Yahoo!は同社の電子メールサービスを使って利用者が送信したプライベートなメッセージを中国政府に渡したという。これにより、中国湖南省のContemporary Business News編集局長、シー・タオ氏の身元が明かされ、同氏は最終的に懲役10年を宣告されることとなった。

 シー氏の罪状は、ニューヨークのWebサイトに送ったメールの中で、天安門事件15周年の反体制運動を警戒するよう担当者に伝えた中国政府の通達に触れていた、というものだ。

 ニステット記者によると、Yahoo!は、広報担当マリー・オサコ氏を通じて談話を出し、次のような理屈を述べたという。「Yahoo!は世界展開するほかのすべての企業と同様、各国のサイトを、確実にその国の法律、規制、慣習に従って運営していかなければならない」

 「その国の法と慣習」については、こんな例もある。9月21日付のNew York Timesのジョセフ・カーン記者執筆の記事から。「3日3晩にわたり、警察はクィン・ヤンホンの腕を後ろ手に高く縛り上げ、ひざをとがった金属製フレームに押し込み、眠ろうとすると腹部をけり上げた。(中略)4日目になり、彼はとうとう根を上げた」

 クィン氏はやってもいない殺人の罪を自供した。「めったにない運命のめぐり合わせで無罪が証明され、当局が彼を釈放せざるを得なく」なってようやく、死刑を免れたのだ。

 記事によると、クィン氏は家族にあてた手紙にこう記している。「警察は、抵抗する者すべてを専横的な手段で抑え付ける。一般人が自分を守るすべはない」

 記者支援団体の「国境なき記者団」は、「その国の法律と慣習に沿ってさえいれば、企業はすべての道徳的配慮から免れるというのか?」と問い掛けている。

 企業に対し、全体主義体制の下での事業展開を拒否せよと言うつもりはない。だがそういう体制下でビジネスを行うときは、特にハイテク企業の場合、次のことも考えなければならない。つまり、例えばシー氏のケースでは、プライベートなメールの送り手の身元を突き止めることができるからといって、さらに一歩踏み出てその人物を強圧的政権に引き渡していいということにはならない。これは、中国でのビジネスにとどまらない問題だ。

 この難しい問題を避けて通るのではなく、ビジネスを進める上で何が正しく何が間違っているかという、一見シンプルに思える問題を、あらゆるハイテクカンファレンスのプログラムに――ブレークアウトセッションに、パネルディスカッションに、基調講演に――盛り込むのが、正しい方向への小さな一歩となろう。それとも、わたしたちは金に目がくらみ、それすらできないのだろうか?

(By Ephraim Schwartz, InfoWorld US)

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