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三洋、「総合家電」の看板下ろす 今期は最終赤字2330億円に

» 2005年11月18日 20時13分 公開
[ITmedia]

 三洋電機は2006年3月期通期の連結業績予想(米国会計基準)を修正し、純損益が2330億円の損失(前回予想は1400億円の損失)に拡大する見通しだと発表した。同時に発表した3カ年の中期経営計画では、半導体事業の分社化なども視野に入れ、事業の選択と集中を加速。「総合家電」の看板を下ろし、二次電池やデジタルカメラなどの得意分野に注力する。最大3000億円規模の増資も検討する。

 2期連続で巨額赤字を計上する経営責任を取り、12月から野中ともよ会長と井植敏雅社長ら経営陣が役員報酬を最大50%返上。1月以降は役職者の年俸カット幅を最大27%に拡大、一般従業員の基本給も一律5%カットに踏み切る。

 大阪府内の本社で同日開いた決算説明会で、野中会長は「ステークホルダーには大変な心配をかけて申し訳ない。過去と決別しないと新しいスタートは切れない」などと出血の拡大が構造改革に不可欠だったと強調。井植社長は「構造改革を前倒しし、負の連鎖を断ち切りたい」と話した。

photo 決算説明会=大阪府守口市

井植敏氏は報酬返上も留任へ

 修正後の通期業績予想は、売上高が2兆4400億円(前回予想と変わらず)、営業損益が170億円の損失(同180億円の利益)、税引き前損益は2020億円の損失(同1110億円の損失)。構造改革の一環として棚卸資産の評価減156億円や固定資産の追加減損処理365億円を計上するのに加え、構造改革費用の増加分224億円などを損失計上するため。

 同日発表した2005年9月中間期連結決算は、売上高が前年同期比6.2%減の1兆1874億8300万円にとどまった上、営業損益、税引き前損益、純損益とも赤字となった。デジカメや携帯電話が不振だったコンシューマ部門と、半導体を抱えるコンポーネント部門が営業赤字だったが、大型エアコンが海外で好調だったコマーシャル部門は増収・営業黒字を確保した。

 中間期末の有利子負債は1兆2529億円。最終赤字の計上で、株主資本は前期末から1225億円減の1657億円にまで傷ついた。「集中分野への設備投資がどうしても必要」(井植社長)として2000億〜3000億円規模の増資を検討する。第三者割当増資を大和証券SMBC、Goldman Sachs、三井住友銀行らが中心に引き受ける方向だ。

 金融子会社の三洋電機クレジット株式を三井物産に売却する方向で協議していたが、一部で事実上の破談になったと報じられた。同社は「さまざまな提案がある」などと述べるにとどまったが、同株式売却などで今期は500億円、2年間で726億円のキャッシュインを見込む。さらに不動産の売却・流動化により今期370億円、3年間で553億円を見込むなど、資産売却による財務体質の健全化を進める。

 責任を明確化するとして、社長経験者の近藤定男副会長、桑野幸徳取締役相談役は退任する。創業家出身の井植敏・代表取締役兼取締役会議長は「報酬の100%返上を自ら申し出た」(野中会長)が、役職にはとどまる意向だ。野中会長は「構造改革に対し、力を出せる部分は十分に発揮してもらいたい」と述べた。

国内テレビ事業「赤字が出るようなら撤退だ」

photo 事業再編計画

 事業再編のターゲットは(1)AV、(2)半導体、(3)白物家電。「最も大きなものを改革できないなら再編など起こせない」(井植社長)としてAVではテレビ事業の再編に本格的に着手する。

 テレビ生産は中国に集中して現在の世界650万台規模は維持するが、井植社長は「国内のテレビ市場はパワーゲームの象徴のようになっている。まともにぶつかっていくことはしない」とした上で、「利益の出ないことは一切しない。国内テレビ事業は赤字が出るようなら撤退だ」と強い姿勢で臨む方針を強調した。

 既にDVDレコーダー/プレーヤーからは撤退する方針を明らかにしているが、HD DVDは光ピックアップ開発に資源を集中しつつ、最終製品は他社のOEM方式で販売する。

 半導体はメモリやTFTドライバなど不採算領域の縮小・撤退を進めているが、新潟県中越地震で失った顧客が戻り始めており、得意のアナログテレビ用LSIやデジタルオーディオ用LSIなどに集中する。巨額の設備投資が必要な事業の特性に対応し、分社化も視野に入れる。

 白物家電は冷蔵庫事業を再編し、他社アライアンスを活用した効率化を進める、とした。アライアンス先は白物家電で提携している中国の海爾集団公司(ハイアール)などが念頭にあると見られるが、「調整が済み次第公表する」として明らかにしなかった。

 一方で経営資源を集中するコア事業は(1)二次電池などの「パワーソリューション」、(2)大型エアコンや太陽光、コンプレッサーなどの「冷熱・コマーシャル」、(3)携帯電話、デジカメなどの「パーソナルモバイル」──の3事業。9〜10月はデジタルカメラや太陽電池、二次電池が過去最高出荷となったほか、携帯電話は10月、前年同期比出荷が170%に達したなど、回復の兆しも見えているとした。

計画では来期は黒字化

photo 中期計画の目標

 中期経営計画では、初年度となる今期は巨額の赤字に陥るが、2007年3月期は295億円、2008年3月期には620億円のそれぞれ最終黒字を計上する計画だ。

 ただ、計画では2008年3月期の営業利益率は3.7%にとどまっており、井植社長が7月に「同期に5%必達」としたコミットメントとは反する。井植社長は「中期計画の数値は厳密に審査した。保守的と思われるかもしれないが、数字を信用してもらうことを第一に出した」と話し、計画以上に業績を上げることが前提だとしてコミットメントは変わらないとした。

 決算説明会の質疑で「社員からは『地球より会社を考えてほしい』と不満も漏れてきているようだが」と「Think GAIA」コンセプトについて問われた野中会長は「余裕があるときにCSR(企業の社会的責任)をやるという発想を変えたい。コストや効率という従来の家電の方向を、命が喜ぶ方向に定めたということ。メーカーがこの方向に定めたということに自信を持っている」と反論した。

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