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日本人のアタマを救え――書籍検索でネットに“知の信頼性”を書籍とネットの微妙な関係(2/2 ページ)

» 2005年12月02日 15時14分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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ネットの住人を古書店へ

 ネットの住人を神保町の古書店に導き出す――10月下旬オープンした「BOOK TOWNじんぼう」は、そんなコンセプトで作られた。NIIのすぐ近くにある古書の街・神田神保町の古書店連盟と協力。古書店の案内サイトをGETAを使って構築した。検索機能は、個別の書籍名だけでなく、店舗を検索できるのがミソだ。

 メインの検索窓に任意の文章を入力すれば、関連する古書店のアイコン入り神保町マップを表示。気になる古書店があれば目印の旗を立てたり、独自取材した解説記事を読んだりでき、自分専用の“神保町古書店マップ”が作れる。

photo BOOK TOWNじんぼうで「浮世絵などの江戸文化に関係のある本」を検索した結果。アイコンをクリックすると書店の簡単な解説が読める

 検索窓に入力した文章と、あらかじめ登録しておいた各書店の解説文との関連性をGETAエンジンで抽出。関連の深い書店を地図上に表示する仕組みだ。

 「実際に書店に行き、書棚を楽しんでほしい」――書籍ではなく、書店を検索するシステムにした理由を高野教授はこう説明する。古書店は書棚が命。価値ある古書をいかにうまく並べるかが勝負どころで、一般のネット書店のような、1冊ごとにバラバラな情報はなじまない。

 とはいえ、書籍検索機能も必要と考え、約10万冊の古書を、書名や筆者から検索できる検索窓を付けた。在庫情報は、1年後には100万冊に増やしたい考え。単なる書籍の羅列ではなく「古書店のオヤジ」の眼鏡にかなった書籍を値段付きで蓄積していくことで、良書のデータベースも築けると期待する。

 ただこの検索も、一般のネット書店の書籍検索とは一線を画す。結果画面には価格を表示しておらず、価格を見るにはさらにワンクリック必要なのだ。

 価格を一覧表示するとどうしても安い店に目がいってしまいがち。しかし古書は、価値が分かる書店ほど自信を持って高値をつけるため、良い古書店ほど高値になる傾向があるという。古書の安易な価格表示は、良い店との出合いを阻害するおそれがあるというわけだ。

イケてる技術で税を社会に還元

 GETAは、文章さえあれば、どんなコンテンツの検索にも使える。全国の博物館や美術館の展示品の画像データを収録する「文化遺産オンライン」にもGETAを搭載。解説文同士のマッチングを見て関連する展示物を自動抽出する。ワンクリックでWebcat Plusに飛ぶ機能も装備。解説文から関連書籍を検索できる。

photo 文化遺産オンラインは、メイン表示中の文化遺産に関連が深いアイテムを解説文同士の類似性から見つけ出し、画面下に表示する

 「GETAの仲間を増やしていくのが夢」――GETAのシステムはオープンソースで公開しており、書籍検索サイトやECサイト、ニュースサイトなどでも採用されている。「GETAは『イケてる』と思っています。だから、できるだけ多くの人にすごさを味わってもらいたい」と高野教授は話し、今後もGETAをさまざまなサイトに応用していく考えだ。

「技術のための技術」は無意味

 高野教授は、税金で運営されている国立研究所の一員として、人々の役に立つ、実用的な研究をしていきたいという。「技術のための技術は無意味」――研究費をかけるだけかけ、税金を吸い上げながら実用化できない例は産学官連携研究によくあるといい、高野教授はこれを嫌う。

 日立製作所出身の高野教授は日立時代、一部の大学教授などが実用性のない研究を「実用的」と喧伝し、税金が湯水のように注がれるのを目の当たりにしてきた。「大学の先生は、なんてお気楽なんだろうと思っていた」

 そんな現状への反発の意味も込め、新書マップやBOOK TOWNじんぼうなど、構築してきたサイトすべてで実用性を重視した。デザインやインタフェースに凝り、誰にでも使いやすく質の高いサイトを目指した。

 サイト運営も“税金の無駄遣い”にならないよう配慮する。例えばBOOK TOWNじんぼうは、新設するNPOで運営する予定。当初はNIIが運営費を拠出するが、サイト内に古書のショッピングモールを作るなどして売り上げを立て、公共性を保ちながら採算を取っていく考えだ。

 NPOの名は「連想出版」。GETAの連想検索の仕組みをネット上に広げていきたいという思いを込めた。「社会的に価値があるものを作って、公共財としての情報を発信していきたい」

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