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妄想クリエイター集団「宙プロ」に迫る(3/3 ページ)

» 2006年05月12日 17時28分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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無駄なもので何かしたい

 「無駄なものを拾って何かしたい」――ブログやmixiなど便利なツールの流行を横目で見つつ、宙プロは、独自の視点でサービスの企画を練る。

 新サービスの名は「空言」(そらごと)。相変わらず“和物”なネーミングで“アンチかっこいい”を体現した。

 コンセプトは「コトバのプラネタリウム」。今日食べたものや今の脳内BGMなど、ふと気になったキーワードを自分の「空」にポンポン打ち上げ、夜空を埋めていく。ブログよりも気軽に、思いつきで発言できるサービスを目指した。

画像 空言ユーザーの「空」。キーワードをクリックすると、掲示板に飛べ、書き込みができる

 キーワードを打ち上げるたびに掲示板ができ、それについて他のユーザーと話し合える。他ユーザーのキーワード掲示板で発言すれば、自分の空にもそのキーワードが降ってくる。キーワードの文字は、掲示板の発言者が増えるほど大きくなり、誰も発言しないと小さくなる。人が中心になるブログやmixi日記と異なり、話題がコミュニケーションの中心になる。

 掲示板に書き込むと、ときどき「コトダマ」と呼ばれるアイテムが手に入る。いくつか種類があり、好みのキーワードを一時的に巨大化させたり、他ユーザーのキーワードの語尾に「命★」と追加してしまったりできる機能を持つ。

 友人マップ機能「系」も装備。同じ掲示板でよく発言する人が近くに表示される。mixiのように、一度の承認で誰とでも均等に結ばれるのではなく、コミュニケーションの濃淡を視覚的に確認できる。

ユーザーの「系」

 数日に1回「昼」になり、画面が真っ白になって自分の空を見られなくなるという迷惑な機能も装備した。

 今は試作版を限定メンバーで利用し、改善を進めている。近く一般公開する計画だが、「1000人ぐらい使ってくればいいかなぁ」(内山さん)と控えめだ。

「どうでもいいこと」をやりとりしたい

 「人がやりとりしてる情報の9割9分は、本人とその身の回りだけでしか通用しないし、通用させる必要のないようなもの」――内山さんはそんな風に言い、「多くの人から広く、使える情報を集める」という、CGM(コンシューマージェネレイティッドメディア)と呼ばれる最近の流行を疑問視する。

 「空言は、日々のどうでもいいことを友達と楽しくやりとりしながら、バカバカしく遊べるサイトを目指している」(内山さん)

 人間関係を宇宙の星という壮大なメタファーで表現したのも、「コミュニケーションに対する照れ」(内山さん)。人と人との距離感を、星と星の距離の遠さで表した。

 内山さんは「Six Degrees of Separation」の理論に違和感があるという。Six Degrees of Separationは「6人を介せば世界中の人とつながる」という考え方で、「GREE」の名前の由来でもある。SNSで広がる人間関係をイメージさせる言葉だ。

 「でもみんな、『自分が飲み会を主催しても6人も来てくれないだろうな』っていう世界で生きてるのが本質だと思う。ブログのトラックバックだって、『相手のブログに載ってしまうから』と、気が引けて打てない人が多い」(内山さん)

 ネット人脈やネットコミュニケーションは、理論上は無限に広げられる。しかしリアルな人間――特に、コミュニケーションが苦手と自覚している人は、人脈の海にこぎ出し切れずにコンプレックスを強めているのかもしれない。

 宙プロは、そんなコンプレックスに独自のサービスで向き合う。「空言」では、言葉を打ち上げて気軽なコミュニケーションを誘い、「宙」では防人が媒介となってコミュニケーションを助ける。かっこ悪くておせっかいなサービスが、人と人とをほんの少しだけ近づける。

「独自の戦い」を展開

 「独自の戦い」――加藤さんは宙プロの方向性をこう表現する。独自の戦いとは、選挙で勝ち目のない候補者に対して、マスメディアがよく使う言葉。例えば「空言」は、mixiのようなサービスに勝てるはずもなく、マスに訴求できるとも思わないが、世界のすみっこで面白おかしくやっていきたい、という。

 サービスをビジネス化するつもりも当面はない。「お金をもらってしまうと、楽しいおしゃべりやプログラミングも“作業”になってしまう」(加藤さん)から。「宙」の時に苦労したサーバだけは、メンバーの協力で確保してある。

 「何か他と違うことをやって、みんなの暮らしが愉快でヘンテコになれればいいな」(加藤さん)――宙プロはコンプレックスを全開にしながら、独自の戦いに突き進む。

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