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妄想クリエイター集団「宙プロ」に迫る(2/3 ページ)

» 2006年05月12日 17時28分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 当時のコンプレックスの対象は、慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)。「SFCには、『時代の流れに乗ってるぜ』みたいな器用さがあるイメージを勝手に抱いていて、勝手に仮想敵にしてました」(加藤さん)。要はひがんでいただけ、という。

 メールソフト「ポストペット」が流行し、ペットを飼う掲示板サイトや、バーチャルの島に住むコミュニティーサイトが現れていた。それらを見て「日常生活をネットに置き換えただけ。ちまちましてるなぁ」と感じた3人は、発想を一気に宇宙レベルに引き上げた。「1人に1個、宇宙を配ろうぜ!」

画像 掲示板的コトバ宇宙 -宙のサンプルページ「限定公開宙」

 こうして生まれた「掲示板的コトバ宇宙 -宙」は、各掲示板を「宙」と呼び、コネタや迷惑な仕掛けを仕込んでユーザーをコミュニケーションに駆り立てる。掲示板には「防人」という、宇宙とは関係なさ過ぎる名の人工無脳が常駐。「ここの管理人、友達いないから仲良くしてくれよ」などと不愉快な発言をしたり、友人の「宙」に遊びに行っては勝手に発言し、人間関係を乱した。

画像 防人。ネコ風のほか、チューリップ人間風、宇宙人風などいくつかの種類がある。「防人」という名に意味はない。「無駄な日本語を使ってみたかった。受験勉強のあだ花ですね」(加藤さん)

 特定の文字を指定した通りに変換してしまう「俺語」も設定可能。例えば「。」と入力した際に「にょ。」と変換されるよう設定すれば、書き込んだ文章が自動でデジキャラット化する、という具合だ。知らずに書き込んだ人はあ然とすると同時に、会話のきっかけにもなった。

 10日に1度、自分の「宙」の画面が真っ暗になって利用不能になる「食」という迷惑なイベントもあった。他の「宙」にリンクする「ロケット」や「アンテナ」のアイコンも装備したが、ロケットはよく見たらメキシコ帽だったり、アンテナは傘だったりした。

画像 アイコンは2Dなのに背景は3D

 ネーミングも“和物感”を徹底し、カタカナのかっこよさを排除した。「コミュニティーとかペット、カスタマイズじゃなくて、宇宙、防人、俺感、みたいな」(加藤さん)

 掲示板で多くの人が発言すれば、防人が成長して機能が増えたり、画像が近代的に進化していく。ただ「なるべく数値化しない」が原則。進化のパラメータは見えないようにし、アナログなかっこ悪さを残した。

かっこ悪いのに大人気

 「1000人ぐらいが使ってくれればいい」――1999年4月。3人の卒業と同時にサービスを公開したところ、1カ月で5000人もが登録した。その後も1日300人ずつほど増え、サーバはすぐにパンクした。

 知り合いのツテを頼るなどし、サーバを数回移転。そのたびにログが消えたが、ユーザーには「宇宙が引っ越しする」と説明し、「代わりに新しく快適な宇宙を用意します」と言って許してもらった。「今なら考えられないことですが」(加藤さん)

 バナー広告なども貼っておらず、宙からの収入はゼロ。ネットバブル最盛期で、いくつかの会社から協業の誘いもあったが「お金を稼ぐ仕組みがない」と知ると去っていった。運営費用もメンテナンスもメンバーのボランティアだったが、限界に来ていた。

 2000年秋。ユーザーは7〜8万になり、宙プロメンバーも6人に増えていたが、メンバーだけで支えきれず、楽天への売却を決めた。楽天は宙をインフォシークのサービスとして展開。ピーク時のユーザーは17万を数えた。

 2003年、楽天から「-宙」を作り直すアイデアが欲しいと声がかかり、ブログやSNSの機能も備えた新サービスを提案したが、実現せずに終わる。2006年2月、宙に障害が発生。復旧できず、サービス終了が決まった(関連記事参照)

 しかし、宙プロはまだ終わらない。かっこ悪いコミュニティサービスを、再び構築し始めた。

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