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コラム
» 2006年07月31日 12時01分 UPDATE

【新連載】Web2.0ルポ:ネットベンチャー3.0 (1/3)

日本で次々誕生するネットベンチャーのなかで、Web2.0がもたらす本質的変化を捉えてビジネスに取り込んでいく動きは、Web2.0という言葉が生まれる以前から始まっていた――多数のIT企業の取材をもとに佐々木俊尚氏が日本のWeb2.0ビジネスを描く。

[佐々木俊尚,ITmedia]

 Web2.0という言葉が、インターネット業界を席巻している。しかし日本の第3世代ネットベンチャーは、Web2.0という言葉がやってくる以前、Web2.0という言葉で括られる以前から、みずからの動物的嗅覚によってWeb2.0的なフィールドを追い求めてきた。それは単なる流行ではなく、ネットベンチャーという企業体の本質的変化にもつながっているように思われる。彼ら若いネットベンチャーがどのようにしてこの本質的変化をつかみ、そしてネットのビジネスをどこへ持って行こうとしているのか。その最先端の動きを追う。


 きっかけは、ささやかなできごとだった。

 渡辺明日香さんと飯島淳代さんという30代の2人の女性が、新宿の街を歩いていた時のことである。

 渡辺さんはもともと、英会話教材の会社のセールスウーマン。グローバル展開しているその企業で、彼女は営業成績世界ナンバーワンになったこともある。飯島さんは渡辺さんの下で働いていて、その後退職し、この時は有名ブランドの法人営業を担当していた。

 2人は起業を目指してともに会社を辞めたのだが、しかしビジネスモデルを考えあぐねていた。2人とも営業は抜群に強かったから、売ろうと思えば何でも売れる。しかし2人は営業だけの会社をやるつもりは毛頭なく、「もっと面白くて、ワクワクできるようなビジネスを」と考えていたのだ。

 そうやってあれこれ考え、2人で話に夢中になりながら新宿西口の雑踏を歩いていると、突然目の前に差し出されたものがあった。

 コンタクトレンズのサンプル引換券だった。

 しかし2人とも視力は良好だ。コンタクトレンズは必要ない。

 「どうして私たちに配るんだろう……あ、そうか! 配る側は通行人の目がいいかどうかなんて、見た目だけではわからないからね」

 しかしコンタクトレンズメーカーから見れば、顧客ターゲット層ではない人にサンプルを渡しても、無駄でしかない。2人がもらったのは引換券だったからコストはほとんど発生していないが、しかしそれにしても、もう少しうまくサンプルを配る方法はあるのではないか――。

 その思いつきから、商品サンプルをめぐる新たなビジネスの種が生まれた。2人は間もなく、「サンプル百貨店」というサイトをオープンさせたのである。2人が設立した運営会社はルーク19という。

 ビジネスモデルは、実に明解だ。

 サンプル百貨店のサイトでは、最初に会員登録をする必要がある。

「サンプル百貨店」 「サンプル百貨店」会員登録は無料だ

 住所、氏名、メールアドレスなどの基本情報のほかに、血液型▽興味のある分野▽▽タバコや酒の好みの有無▽お肌の悩み▽髪質の悩み▽1か月にサプリにかける金額▽新幹線や飛行機ではどのクラスの座席に座るか▽よく行く外食店▽持っているノートパソコンの台数▽ペットの有無――など、事細かなアンケートへの回答が求められる。

 回答していけばすぐに予想できるが、これらは商品サンプルを、企業側が求める的確なターゲットに送り込むためのものだ。サンプル百貨店ではこのアンケート結果を、「カルテ」と呼んでいる。

 企業はサンプル百貨店に自社のサンプル百貨店を提供し、同時に年間100万円の出店料を支払う。サンプル百貨店の側は、この出店料で収益を上げる仕組みになっている。

 従来、企業の作る商品サンプルと、それを使ってみたいと考える消費者のマッチングは、うまくいっていないケースが多かった。コンタクトレンズの引換券が視力の良い人に渡ってしまうようなケースはごく当たり前で、逆にきちんとターゲットされた顧客層にサンプルが渡っているケースの方が少ないと思われる。

 また仮に求めるターゲット層にサンプルが渡っていたとしても、消費者からのフィードバックは通常、ほとんど期待できない。企業としてはせっかく商品サンプルをつくったのだから、消費者から使い勝手や使用感、使用結果などについて感想を聞きたいのだ。だがそうした感想を企業側にフィードバックさせる仕組みは現実にはほとんど存在しない。

 ルーク19は、インターネットの登録会員制度を取り入れることで、消費者と企業のサンプルをうまくマッチできるのではないかと考えた。そしてサンプル百貨店経由で商品サンプルを配る際、ひとつの仕掛けを盛り込んだ。

 「サンプラー」という仮想通貨を作ったのである。これはポイントシステムのようなもので、最初に会員登録した段階で1500〜1600サンプラーがもらえる。その後商品サンプルを実際に受け取って、企業からのアンケートに回答すると、1回ごとに500サンプラーがもらえる仕組みになっている。サンプルを受け取るためにはサンプラーが必要だから、会員は新しいサンプルをもらうために一生懸命アンケートに答えるという仕掛けになっている。

 この仕組みが当たり、サンプル百貨店は急成長した。グランドオープンは2005年夏だったが、わずか1年で会員数は12万人を突破するまでになっている。

 さらにこのサンプル百貨店が興味深いのは、Web2.0の考え方を随所に取り入れ、サンプルにまつわる顧客データベースを核にした新たなコミュニティビジネスへと進化し始めていることだ。

 この部分については、本連載の後の方でもう少し詳しく説明したい。ここではいったん、サンプル百貨店のビジネスモデルから離れよう。

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