「ライブドア――というか、エッヂで学んだことは、伸びている分野でやらないと、たいへんな苦労をする、ということ。ソーシャルネットワークなら、今後3年、食いっぱぐれることはない」
ライブドア元役員が6月に設立した新会社、ゼロスタートコミュニケーションズが、ソーシャルネットワークの仕組みに注目して作った新サービス「posh me!」をオープンした。タレントデビューを目指すユーザーが自分の顔写真などを公開し、他ユーザーからの評価が高ければデビューするチャンスを得る、という仕組みの、ユーザーオーディションサイトだ。
同社の社長、山崎徳之さん(34)は、ライブドア事件後にライブドア代表取締役を務め、6月の臨時株主総会で事件の責任を取って退任した。副社長の羽田寛さん(39)は元ライブドアオート社長。ライブドアが買収した企業の経営建て直しに手腕を発揮したが、山崎さんと同様、6月にライブドア取締役を退任している。
「去りたくなかったが」――羽田さんは言う。「ライブドアの再生のじゃまはできない。誰かが責任を取って去らないといけなかった」
辞めた後、どう出るか。オン・ザ・エッヂ時代にデータセンター「データホテル」を立ち上げ、成功させた経験を持つ山崎さんは、レンタルサーバ事業をやろうと考えていたという。「レンタルサーバならノウハウは分かっているし、利益率も高く、確実にもうかる。でも――面白くない」(山崎さん)
ネットワークやインフラに詳しい山崎さんは、ハードウェア的なインフラだけでなく、人と人とのコミュニケーションが産む社会的ネットワークという、本来の意味での「ソーシャルネットワーク」に目を付けた。「ソーシャルネットワークは今後、インフラになっていくと思う」(山崎さん)
ソーシャルネットワークといっても、posh me!は今のところ、mixiのようなSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)とは見た目も機能も全く異なる。このサイトが目指すのは、自己顕示欲の出し手と受け手のマッチングによる、新ビジネスの構築だ。
まず、タレント志望や歌手志望など、自分をPRして世に出たいユーザーが、顔写真をプロフィールとともに公開。それを別のユーザーが10段階で評価する。高得点を得られれば、雑誌に掲載したり、CDを出したりするなど、タレントとしてメジャーデビューできる。
「『スター誕生』の時代から、デビューしたがっている人は列をなしている。その一方で、デビュー前のタレントを応援したい、というニーズもある」(羽田さん)――この2つの欲求を、インターネットを使って出合わせる。
同社には、東宝やアミューズなど芸能・音楽業界での経験が長いスタッフもいる。だがposh me!には“業界のプロ”の目利きは介入させず、投稿も評価もユーザーに完全に任せる。多くのユーザーに見てもらうことで審査の精度を上げ、ユーザーのニーズに合ったタレントを生み出す狙いだ。応募者も評価者も1ユーザーというフラットな仕組みで、お互いの距離も近くなる。
「オーディションの応募をネットでも受け付けるプロダクションは、すでにある。ただそれは、効率的に募集できるからネットを使う、というだけ。審査できる人数が増えるわけでもない。それではネットでやる意味がない」(羽田さん)
posh me!には、応募者の楽曲をユーザー編曲するなど、応募コンテンツを“マッシュアップ”し、改変できる仕組みも取り入れていく計画。「自動販売機のような仕組みを目指した」と羽田さんが言う通り、応募から選出、ブラッシュアップまですべてユーザーが手がける“自給自足”サイトに仕上げる。
サイトを盛り上げるには、「応援したい」と思わせるような良質な応募者をたくさん集めることが不可欠。本気でプロを目指している応募者を集めたいと意気込む。
応募者にとってのインセンティブは、実際にデビューできることだ。「人気ナンバーワンになれば、この雑誌に掲載される」「CDデビューできる」といった具体的なゴールをその都度見せ、応募を促す。
「posh me!からデビューしたという話ができれば、あとは自然と回っていくだろう」(羽田さん)。ユーザーの自己顕示欲や応援したいという欲望が充足されるほどサービスは活性化していく――そんな青写真を描く。
収益は、posh me!からデビューしたタレントの写真集やグッズを販売したり、アーティストのCDを発売して得る計画。posh me!内に固定ファンがいる状態から出発できるため、確実な売り上げが見込めると考えている。サイトのページビュー(PV)が上がれば、広告も掲載する計画だ。
募集分野は、「楽曲」「文章」「動画」「アニメ」と、順次広げていく。ユーザー数目標は、来年4月までに100万人。同社に専務として参加する、ライブドアポータルの設立者・伊地知晋一さんが、集客のノウハウを駆使する。
音楽スタジオも運営して収益源にする。第1弾は杉並区高円寺にすでにオープン。8月までプロで予約がいっぱいという。「スタジオ運営だけでも、1年で投下資本を回収できるほど」(山崎さん)
同社はソーシャルネットワークを「プロフィールを明らかにした個人の情報発信の場」と定義し、さまざまなサービスのベースとなるインフラと位置づける。その上にどんなサービスをのせるかによって、新たなビジネスを構築できるという。
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