ゲームの良い面に光を当てたい――東京大学大学院情報学環を中心とした研究グループが、歴史の授業にコーエーのオンラインゲーム「大航海時代Online」を取り入れる実験を2月から始めた。「暴力性が高まる」「ネット中毒になる」などマイナス面が強調されがちなオンラインゲームだが、「中立的な立場からゲームの効用を実証したい」と東大情報学館の馬場章教授は実験の狙いを語る。
実験は、詫間電波工業高専(香川県詫間町)の1、2年生を対象に、5年間にわたって行われる。今年2月にパイロットテストをスタート。7月に本格的な実験の第1弾を行った。
7月の実験は1年生2クラス、2年生2クラスでそれぞれ50分×4時限を使って実施した。大航海時代Onlineを自由にプレイしてもらうだけのクラス、大航海時代に関連する授業と、ゲームプレイを組み合わせるクラス、授業とゲーム、ゲーム後のプレゼンを組み合わせるクラスの3つに分けた。
同校で歴史を教える内田由理子助教授は、ゲームの導入を歓迎する。「高専の学生は、理系科目なら100分間の授業でみっちり学習するが、文系科目は50分間持たない。文系科目に興味を持ってもらうのは高専の文系教授の命題」(内田助教授)
内田助教授はこれまで、日本史でモノ作りをテーマにした授業を行ったり、技術をテーマにした調べ学習を行うなど、理系の学生が興味を持てる授業を工夫してきた。高専生の多くがPCゲームに親しんでおり、ゲームを活用した授業は高専生の興味に合っていると考え、実験への協力を決めたという。
実験では、ハード面の課題も多く浮かび上がった。同校のPCは一般の高校よりも高スペックというが、大航海時代Onlineを動かすにはパワー不足。グラフィックスボードの差し替えやメモリ増設を、電子工学科の学生を動員して実施したという。
回線速度はPC教室全体で6Mbps。ゲームのインストールとパッチのアップデート完了までに1台あたり約2時間を要した。大航海時代Onlineの推奨環境として1ユーザーあたり1Mbpsで、授業中に止まってしまうこともあったという。
実験後に行ったアンケートで、8割の学生が「普段の歴史の授業よりも楽しかった」「授業への理解や関心が高まる」と回答。「ゲーム利用が新鮮で楽しかった」という感想も多かった。ゲームだけプレイしたクラスよりも、授業やプレゼンを組み合わせたクラスの方が学習効果が高かったという。
ただ「ゲームの目的がよく分からなかった」と答えた学生が39.4%、「ゲームが難しかった」とした学生が21.2%いたほか、自由記述では「中途半端」「所詮ゲーム」といったマイナスの反応も見られた。
内田助教授は「プレイに目的を持たせたり、プレイ後の授業をゲームと連動させるなど、学習活動とリンクさせた授業デザインが重要」と振り返る。理系中心のカリキュラムの高専で、4時間の授業時間の確保も難しかったという。
実験の詳細な報告は、9月に行われる「エンタテインメントコンピューティング2006」(東京・日本科学未来館)で発表する予定だ。
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