話はオーマイニュースの創刊前に遡る。同ニュースの編集委員を務める佐々木俊尚氏がオーマイニュースのブログ上で編集姿勢に疑問を呈したのは8月23日のことだ。このエントリーは翌24日にも続いた。創刊前日の27日には佐々木氏からの疑問に応じる形で、編集次長の平野日出木氏が同ブログに「佐々木編集員の問いかけに対して」というエントリーを投稿。創刊前から編集スタッフ同士で議論を交わす異例の展開となった。
8月28日の創刊以降も注目を集めた。というのも2ちゃんねらーと思われる市民記者からの意図的な投稿が、編集部のチェックをすり抜け記事として掲載されてしまったからである。この投稿は政治的に偏った色彩を帯びたもので、その種の記事に対して編集部のチェック機能が有効に働いていないのではないかとの指摘を呼んだ。
こうした問題に対して、冒頭の佐々木氏とブログ「ガ島通信」の藤代裕之氏らブロガーらが、シンポジウム「ブロガー×オーマイニュース『市民メディアの可能性』」を企画。9月2日、鳥越俊太郎編集長も交えて早稲田大学で開催した。
オーマイニュース側は鳥越編集長、平野編集次長、佐々木編集員のほか中台達也記者が出席。ブロガー側は「小鳥ピヨピヨ」のいちる氏(Gizmodo Japanゲスト編集長)、「竹橋発」の磯野彰彦氏(毎日新聞社東京本社編集局)、「H-Yamaguchi.net」の山口浩氏(駒澤大学グローバル・メディアスタディーズ学部助教授)が参加した。司会はガ島通信の藤代氏が務めた。
自身を「ブログリテラシーの低い人間だ」とやや自嘲気味に語る鳥越氏は、「娘に去年『ブログやるんだけど』と聞かれてブログって何だ」と聞き返したほどだという。「ほぼ日刊イトイ新聞」で4年間記事を執筆してはいたが、「メール、検索ぐらいがPC体験。ブログの世界がこんなに広がっていたのかと気付いたのは最近。オーマイニュースを開始するにあたってそういう現実を知った」のだ。
ブログや2ちゃんねるとは異なるメディアを目指す――というのはかねてからの持論だが、あらためて、実名入りの記事による責任ある参加を求めた。「2ちゃんねるなどで私は韓国人であると書かれていた。祖先をたどれば朝鮮半島からの渡来人である可能性もあるが、現在の国籍は日本であるわけだ。それを『韓国人』と平気で書くのが匿名の文化」だという。
ITmediaのインタビュー記事(7月10日の記事参照)にも触れた。「2ちゃんねるをごみ溜めといったように書かれたが、一部の書き込みがと言ったつもり。全部がごみためである言ったことはない。ただし、一部の書きこみはひどい。女子アナ関連の板を見たが本当にひどいものだった。レイプ寸前みたいなことが書かれている。これはごみ溜め以外の何物でもない」
鳥越氏はさらに続ける。「オーマイニュースは韓国が出発点。私を韓国の回し者というのはかまわない。しかし私は竹島について日本の領土だと思っている。それは韓国でオーマイニュースを始めた韓国Ohmynewsの呉連鎬(オー・ヨンホ)さんとも意識が異なる」。ただし、国籍は異なるが「顔を出して物をいう社会の実現に寄与したい」という気持ちにおいては、「オー・ヨンホさんと私、孫正義さんとの間でコンセンサスがあった」
なお、この“鳥越発言”を巡って該当記事を執筆した本誌岡田有花記者は9月4日、「取材の際、鳥越氏の発言に一部というニュアンスはなかった」とコメントした。
平野編集次長によれば、9月2日現在登録済みの市民記者は1500人以上。数万人規模の韓国と比較すればまだまだだが、「創刊時点で100人ぐらいと思っていた。500人いけばいいと思っていた」(鳥越編集長)。1日に寄せられる投稿は50〜60本に達する。
だが、この投稿には2ちゃんねらーによる“釣り”もあった。「左翼言論に甘い編集スタッフの現実が明らかになったが、有意義だった」。つまり今後はそうした“前科”を持つ市民記者からの投稿を厳しくチェックするというのだ。なお、この該当記事は1日で6万PVを稼いだ。
編集スタッフの人員は現在9人。2人が取材に外出し、3〜4人で市民記者からの投稿をチェックしている。事前に想定していた業務フローは、夕方18時以降に編集会議を行い、翌日掲載するネタを決定するというもの。しかし「人的ソースが少なすぎて、忙殺されている。朝出社し、1週間のうちの半分以上は11時過ぎに帰宅している」(中台記者)のが実情。記事ごとに寄せられたコメントにも返答したいところだが、「字面だけでなく気持ちも汲んで」返答するとなると慎重にならざるを得ない。現在は手付かずのままとなっている。
一方、ブロガーからはこんな意見が寄せられた。「記者が市民である価値は書き手にとっての価値はあるが、読み手にとってはどうなのか。韓国でも既存のマスメディアが書かないことを書いたから受け入れられた。読み手にアピールするには、読み手の興味を喚起させるべきだ」(山口氏)
「中台記者は靖国神社の境内に徹夜でいた。こういうことは既存のメディアではまだやらない。新聞の押し紙問題も新聞社では絶対に書けない。ただし、中台さんは元新聞記者のスタッフライターで、市民記者にそういった記事が書けるのか」(磯野氏)
「ネット上のアイデンティティを確保するために実名である必要ない。実名でやると、一般の人は被害が及ぶのではないか。記事の署名はニックネームでもいいのでは。何かについてごちゃごちゃいう記事が多いが、それこそ2ちゃんねるやブログでやればいい。オーマイニュースではファクトを、それも300〜500字程度の短かめの文章で掲載してほしい」(いちる氏)
こうした意見に対して平野編集次長は「ブログが普及する以前にオープンした韓国と、ブログ以後の日本で差が出た」と分析する。「とはいえ、ブログを毎日書き続けるのはハードルが高い。たまに『こう思った』ということをオーマイニュースに投稿してほしい」
そうした考えに山口氏は「市民のオピニオンはひとつひとつでは価値がない。ただし、たくさん集まれば世論となり、価値が出てくる」と指摘。いちる氏も「ブログに毎日面白い記事を書くのは大変だから、時おりオーマイニュースに投稿することはあり得る話。匿名だったら投稿するかもしれない。お小遣い稼ぎの宣伝が必要だが……」と条件付で賛同した。
鳥越編集長は、自身のガン闘病体験をもとに「日本の点滴はどうなっているのかという“点滴問題”を取り上げたい」とコメント。市民記者の体験による記事に活路を見出す。会場からは鳥越編集長に対して「日本にも市民記者が投稿するJANJANなどがあるが、ちゃんと検証したのか」などの質問があった。鳥越編集長が「JANJANは見ていない」と回答すると、「鳥越さんはちょっとネットに弱いと思う。引退した方がいいのではないか」などと過激なやり取りもあった。
スケジュールのためシンポジウムを中座した鳥越編集長は「冷戦が終わってから左翼だの右翼だのといったことはない。今後は、小林よしのりさんや眞鍋かをりさんにインタビューしたいと思っている。王監督にもガンの闘病記を伺うつもりだ」という。「オーマイニュースはオープンしてから1週間。言うなればまだ幼稚園児。批判があれば、コメントではなく市民記者登録をして記事を書いてほしい」と繰り返し訴えた。
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