動画にコメントが付けられるサイト「ニコニコ動画」の商品販売コーナー「ニコニコ市場(仮)」が人気だ。7月12日にスタートしたばかりだが、7月28、29日の土日だけで3600点が購入され、売り上げは右肩上がりに増えている。
ニコニコ市場は、動画に関連する商品をAmazon.co.jpからユーザーが検索し、動画の直下にアフィリエイトリンクを貼り付けるというもの。商品を選ぶのもユーザーなら買うのもユーザー。商品リンクのクリック数や購入数も表示され、“広告効果”も確認できる。
「何でそんな商品貼り付けるんだよ」「しかも買うのかよ」「売れすぎだよ!」――商品やクリック数、購入数を見たユーザーが、動画にこんなコメントを書き込むことも。コメントを見たユーザーが商品に気付いてネタとして購入したり、買った商品を紹介する動画を公開するなど、市場を起点に新しいネタが生まれ、動画をさらに面白くしている。
購入数ランキングは、Amazonの販売ランキングとはまるで異なる。8月1日現在、動画に関連するCDやDVDが最もよく売れているほか、葉っぱがゆらゆら揺れるおもちゃ「フリップフラップ」は全モデル合計で300台売以上売れた。ごまあえの素やマイクなども人気。Xbox 360は52台とWii(10台)の5倍売れている。高価なものでは、20万円もするミキサーまで売れた。
それぞれに、売れるきっかけとなった人気動画がある。
葉っぱが揺れるおもちゃ「フリップフラップ」は、人気動画「ニコニコキッチン」シリーズがきっかけで売れ続けている。ニコニコキッチンは、1人暮らしの男性とおぼしきユーザーが不器用に淡々と料理し、作ったものをきれいに平らげるというだけの動画なのだが、わびしさやワンパターンな展開、BGMの絶妙さなどが受けて大人気だ。
フリップフラップは、ニコニコキッチンの食事シーンに毎回出てくるおもちゃ。最も人気の機種は8月2日までに224個、他の機種も合わせると300個以上売れており、動画上にも「おまえらフリフラ買いすぎww」などとコメントが入る。
ごまあえの素も、ニコニコ動画で流行しているある楽曲の歌詞の一部「go my way」が「ごまあえ」と聞こえる――という理由だけで、ネタとして購入する人が続出。ニコニコキッチンの作者も購入し、いんげんのごまあえを作る動画を作成して公開。その動画から再び、ごまあえの素が売れることもある。
Xbox 360が売れるのは、Xbox 360用ゲーム「アイドルマスター」がニコニコ動画ユーザーの間で人気だから。ニコニコ動画では、ユーザーがカラオケを歌った音声のアップも流行しており、その動画からマイクが売れている。リコーダーは、削除された動画にアクセスした際に流れるリコーダーの音色がきっかけで売れているようだ。
20万円もするミキサーは、YouTubeで公開されて話題になった、ぬいぐるみやiPhoneなど何でも砕いてしまう米国のミキサー動画がきっかけで売れたもようだ。その動画には「買ったやつ神!」という賞賛コメントや、「○○を砕いてくれ」といったリクエストまで寄せられる。
ユーザーがここまで盛り上がり、1日1000件以上の商品が売れるとは、開発したニワンゴ取締役の木野瀬友人さんもまったくの予想外だったという。木野瀬さんは「売れても1日に数百件だと思っていた」と言い、助言した同社取締役兼管理人の西村博之(ひろゆきさん)は「売れないに1票入れていたんだけど」と笑う。
「衝動買いが増えたのではないか」――ひろゆきさんは分析する。「みんなよく分からないまま買ってるんじゃないかな。マイクなんか、買った翌日に『おれカラオケ歌って動画上げたりしねーだろ』とか後悔していそう」(ひろゆきさん)
「2ちゃんねるで、高速でレスが付いているスレッドに『この速さなら言える』と関係ないことを書き込む文化があるが、ニコニコ市場は『この速さなら買える』という感覚で買っちゃていそう」(木野瀬さん)
ニコニコ市場の仕組みを考えついたのは、ニコニコ動画正式スタートより前だが、急増する負荷の対策などに追われ、実装がこの時期にまでずれ込んでしまった。
「2ちゃんねるまとめサイトなどで、紹介したスレッドに関連するアフィリエイト広告が張られているが、その広告が面白いということがよくある。『Amazon芸』などといわれるもので、ニコニコ動画でもそれができれば面白いと思っていた」(木野瀬さん)――貼り付ける商品の候補は、タグからAmazonを自動検索して表示。意外な商品が表示されることも多く、「Amazon芸」がいかんなく発揮されている。
ただネットユーザーには広告をクリックしたがらない人も多く、ひろゆきさんも「ブログに付いているアフィリエイト広告は絶対押さない」という。ニコニコ市場はユーザーに広告を貼り付けてもらうことで広告のいやらしさを薄れさせ、クリック数や購買数まで表示して、ユーザーに“成果”まで公開。まるごとコンテンツとして楽しめる仕組みになっている。「見て楽しい、買って楽しいというものを作りたかった」(木野瀬さん)という狙いは、見事に当たった。
システムやインタフェースは、木野瀬さんともう1人のスタッフが1カ月ほどかけて開発し、プロトタイプができた段階で社内に公開。「思ったより面白かったから、じゃあ、あさってから始めよう」(ひろゆきさん)と急に公開が決まったという。
動画の下にJavaScriptコードを2行貼り付けるだけで実装完了。動画本体に変更を加える必要がないこともあり、サーバ構築からリリースまで2日でできた。ただ急すぎてサーバが十分に用意できなかったため、当初はプレミアム会員限定で公開して負荷を抑えることに。「お金払ってもらったら広告が見られます、という不思議な機能だった」(ひろゆきさん)が、データ圧縮がうまくいってそれほど負荷がかからないことが分かり、公開から3日後には全ユーザーが閲覧できるようになった。
ただ現在も、商品リンクの貼り付けはプレミアム会員限定だ。無料会員にまで開放すると「すでに相当Amazonに負荷をかけているのに、それがさらに高まってしまう心配がある」(木野瀬さん)ためだ。ニコニコ動画は以前、YouTubeに負荷をかけすぎたためか、YouTubeから接続拒否されてしまい、自前サーバを用意せざるを得なくなった経緯がある。「YouTubeの二の舞は避けたい」(ひろゆきさん)
売れている商品はCDやDVDが中心で、平均単価は2000〜3000円程度。2500円の商品が1日2000件売れ、うち7%がアフィリエイト収入になると仮定すると、1日当たりのアフィリエイト収入は2500×2000×0.07=35万円、1カ月で約1000万円程度の収入になる。
ニコニコ動画は、月額525円を支払うプレミアムユーザーからの会費とバナー広告からも収入を得ている。プレミアムユーザーは7月27日までに5万4000人を突破(関連記事参照)。会費とアフィリエイト収入を合わせると、ニコニコ動画には月間4000万円近い収入があることになる。赤字で親会社の経営まで圧迫していたサービスが、とうとう収益化するのだろうか――「いやいや、ユーザー増に対応するためのサーバ増強が必要で、投資が増えている。出資してくれるところ、まだまだ募集中です」(ひろゆきさん)
ユーザーへのアフィリエイト料金還元は、当面は考えていない。「還元してしまうと、アフィリエイトをひたすら書き換えてDoSのように動かし続ける業者が出てきそうだから」(ひろゆきさん)。ただ、人気動画の投稿者には何らかの形で還元できる仕組みは作りたい考えだ。「電子通貨のようなものをやりとり出来るようにしたほうがいいんじゃないかな、と思っている」(ひろゆきさん)
Amazon以外のECサイトの活用も検討していく。「すでに大手ECサイト数社から『使ってほしい』と打診を受けている」(ひろゆきさん)というが、「複数のECサイトに対応させた場合、サイトの違いを意識せずに利用できるユーザーインタフェース開発が難しそう」なため、すぐに他サイトにも対応、というわけにはいかないようだ。
ネットでレンタルできる「ぽすれん」のようなレンタルDVDや、有料動画配信サイトなどとも相性がよさそうだ。「DVDを借りるのに家を出るのが面倒だから、ニコニコ動画からDVDレンタルもできるようにして“家を出なくていいソリューション”を構築できたらいいなぁと思ってる。あくまで個人的には」(ひろゆきさん)
当面はAmazon一本のままで続ける方針。購入予約だけ行って購買数を水増しし、キャンセルしてしまう「キャンセル荒らし」対策を進めるなど、使い勝手の改良を続けていく。「Amazonさんから切られないよう頑張っていきたいです」(ひろゆきさん)
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