「私的録音録画補償金」制度の見直しを検討するため、文化庁文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」の2007年第12回会合が9月13日に開かれ、中間整理案のまとめ方について話し合われた。
中間整理案提出まで、残る審議は1回のみ。今回は整理案の草稿をもとに、私的使用の範囲などについて、文言の確認や意見の調整が行われた。
中間整理案は26日に最終確認され、10月からパブリックコメントを募集。来年1月に報告書をまとめる。
著作物の複製を「私的使用」として認める範囲を定める著作権法30条については、対立した意見が併記された。焦点は、海賊版からのコピーや違法公開サイトからのダウンロード――つまり不正品からのコピーを、現状のまま私的録音録画として認めるか、私的使用の範囲外として違法とみなすかどうかだ。
整理案には「現行のまま私的使用とし、送信可能化権の侵害を追及すれば足りる」という意見が記載された一方、ユーザーが違法サイトと知っていたなど「情を知って」いた場合は、適用除外とすべき、という意見も併記された。違法サイトからのダウンロードが権利者に経済的不利益を与えている――というのがその理由だ。
委員でIT・音楽ジャーナリストの津田大介さんは、海賊版や違法公開サイトからの私的録音録画が、権利者に経済的不利益を与えているという見方について疑問を投げかける。
「音楽に関して言えば、確かにCDの国内売り上げは1998年の6000億円から現在は3500億円に減っているが、例えば業界最大手のソニー・ミュージックレコーズの国内音楽事業の営業利益は、04年の42億円から06年は324億円で過去最高に増えた。もちろん売り上げが減っているレコード会社もあるが、それは会社ごとのビジネスの上手い・下手が影響している部分もあると思う。中間整理案では『違法な複製物が増えている』と書くにとどめる方がいいのでは」(津田さん)
適用除外しても、ユーザーが違法サイトと知っていたかどうかなどを個別に判断し、「このケースなら私的使用の範囲内」「このケースは適用除外」といちいち取り締まるのは実効性がないのでは――との指摘もこれまで出されてきた。そもそもネット上の情報は、適法・違法の区別が難しい場合も多い。
津田さんは「実効性がない状態で30条の適用範囲を改正すれば、ユーザーの情報収集や表現の自由を過剰に制約する可能性がある。ネットを日常的に使うユーザーがこのことを知ったら、普段違法な著作物をダウンロードしていないユーザーでも反対する人は多いと思う」と主張した。
DRMと契約をうまく組み合わせれば、補償金制度が不要になる可能性がある――という意見も盛り込まれた。DRMと補償金制度の併存も可能性として挙げ、DRMの影響を補償金額に反映させるなど、状況に応じて補償金額を調整していくことなども記載された。
補償金制度を維持する必要性がある場合、課金対象はどうするか――現行制度を維持すべきとの意見のほかに、iPodや、PC・携帯電話など汎用機器、カーナビゲーションシステムなど録音録画機能を付属機能として組み込んだ機器も対象に加えるべき、とする意見が記載された。
ただ現行制度が導入された92年とは状況が異なり、現在は多様な機器が録音録画機能を持っているため、課金対象にすべきかどうかは機器ごとに意見対立が大きい。このため「個別の機器についてさらに詳細な検討をした上で判断すべき」と結論は出していない。
対象機器・記録媒体の決定方法についても見直しが検討され、基本的には現行の政令指定方式を踏襲することを確認。その上で「公的な評価機関」の審議を経て文化庁が定めることも提案する。
「公的な評価機関」は権利者、メーカー、ユーザー、学識経験者などで構成し、「透明性が確保された決定プロセスにより審議を行う」としている。また、この機関で補償金額も審議すべきという意見も記載された。
補償金の支払い義務者については、録音録画機器や記録媒体のメーカーにすべきとの意見と、現状通り、録音録画を実際に行うユーザーにすべきとの意見で対立している。
メーカーにした場合は機器などの販売価格にコストが上乗せされる可能性が高く、ユーザーの負担は変わらない上、補償金の返還制度を利用する権利が奪われるとの意見がこれまでに出ている。
整理案では「さらに議論を進める必要がある」とするのにとどめることでおおむね合意した。補償金返還制度を実効性のあるものと見るかどうかや、対象機器の範囲をどうするかによっても結論が異なるためだ。
補償金は現在、私的録音補償金管理協会(sarah)と私的録画補償金管理協会(SARVH)が別々に管理し、著作権者に分配している。
だが現在は録音と録画ができる機器も広く販売されており、同じ機器に対して2つの団体から補償金を請求する可能性も生じている。このため今後、補償金管理団体を一本化する方向で異論はないとした。
ユーザーに補償金制度を理解してもらうため、管理団体に広報義務を課すこともおおむね了承されたとした。
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