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EU独禁法訴訟、MSの「大きな敗北」と「小さな勝利」

» 2007年09月18日 16時32分 公開
[Peter Galli,eWEEK]
eWEEK

 欧州第一審裁判所は9月17日、「米Microsoftは自社製品と競合製品とに相互運用性を持たせず、Windows Media Player(WMP)をWindowsに抱き合わせて販売することで、その独占的地位を乱用した」とする欧州委員会の判断を支持する判決を下した。

 また裁判所は、Microsoftに科せられた6億1300万ドルの制裁金も支持している。

 今回の判決は、欧州連合(EU)の独禁法当局である欧州委員会が2004年3月に下した「MicrosoftはOS市場におけるWindowsの独占的地位を乱用した」とする判断に対するもの。欧州委員会はその際、Microsoftに対し、WMPを搭載しないバージョンのWindowsを競合他社に提供するよう命じるとともに、制裁金も科した。

 「MicrosoftはデスクトップOS市場におけるほぼ独占的な状態を利用し、関連のソフトウェア市場で不正に優位に立とうとした」とするEUの判断は、5年間の調査の末に出されたものだ。

 「MicrosoftはWindowsと自社サーバとの相互運用性を利用することで、競合他社が提供するサーバよりも性能面などで優位に立つことができた」との結論に達した欧州委員会は、Microsoftに対し、競合他社のサーバ製品も同等にMicrosoft製品との相互運用性を備えられるようインタフェース情報を公開することを命じている。

 さらにMicrosoftは、「WMP非搭載バージョンの不利になるような商業上・技術上・契約上の条件を設けること」を禁じられている。「とりわけ、MicrosoftはPCメーカーに対し、Windowsと抱き合わせでWMPを購入することを条件に割引を提供してはならない」と欧州委員会は述べている。

 Microsoftの顧問弁護士ブラッド・スミス氏は9月17日に声明を発表し、次の対応を決める前にまずこの判決の内容を精査する時間が必要だと述べているが、一方ではMicrosoftが欧州の法律を順守する意向であることを明言している。

 「われわれは欧州委員会の決定に従うべく、通信プロトコルの面でも、そのライセンス供与の義務に関しても、かなりの努力を行ってきた。ライセンス供与の義務については、裁判所による本日の判決でも改めて確認されている。当社はその点でも大きな前進を遂げているが、まだ議論の余地の残る問題が幾つかあるということはわれわれも認めなければならない」と同氏は語っている。

 Microsoftは2004年3月の欧州委員会の判決を受け、「この判決は消費者の利益につながらない」として、同年6月に控訴している。

 だが同社は2005年6月には、WMP非搭載バージョンのWindowsとして、Windows XP Nをリリースした。

 欧州第一審裁判所は判決において、「Microsoftの競合他社のワークグループサーバOSが市場で競争力を発揮するためには、Windowsと同じ立場でWindowsドメインアーキテクチャと相互運用できるようでなければならない」とする欧州委員会の判断は正しかった、と指摘している。

 「そうした相互運用性に欠けることで、市場ではMicrosoftの競争力ばかりが強化され、公正な競争が阻害される可能性が生じる」と裁判所は判決文で指摘している。この判決文はPDF形式で公開されている。

 さらに欧州第一審裁判所は、MicrosoftにWMP非搭載バージョンのWindowsを提供させるという欧州委員会の決定も支持している。ただし、Microsoftには引き続きWMP搭載バージョンのWindowsを提供する権利もある、と裁判所は指摘している。

 「われわれはここ数年間、こうした問題の解消に懸命に取り組んでいる。例えば、当社が現在欧州で提供しているWindowsバージョンは、欧州委員会の2004年の判決を順守しているという点には誰も異論はないだろう。わたしは昨年、欧州委員会との間で建設的な話し合いを持てたことにも満足している。この話し合いのおかげで、われわれは2004年の欧州委員会の判決に順守した形でWindows Vistaを市場に投入することができた」とスミス氏は語っている。

 さらに欧州第一審裁判所は次のように指摘している。「この独禁法違反行為の重大性と期間に関する欧州委員会の判断は妥当だ。制裁金の金額についても同様だ。独占的地位の乱用については裁判所も認めるところであり、従って、制裁金の金額に変更はない」

 ただし、今回の判決では、1つだけだがMicrosoftに有利な決定も下された。裁判所は法的根拠がないことを理由に、順守監視委員の任命についてはその必要性を却下している。

 「当裁判所は、順守監視委員に関してMicrosoftに課された義務については賛成しかねる。この義務に従えば、Microsoftは欧州委員会とは別に順守監視委員に対して、自社の情報や文書、社屋、従業員、果ては関連製品のソースコードへのアクセスまで認めなければならなくなってしまう」と裁判所は述べている。

 ここで問題なのは、この順守監視委員による監視について期限が設けられていなかった点と、順守監視委員に関連するコストをすべてMicrosoftが負担することになっていた点だ、と裁判所は説明している。

 「欧州委員会には、同委員会自身が第三者に付与することさえ認められていないような権限を順守監視委員に与えるようMicrosoftに強制する権限はない。また欧州連合法には、是正措置の順守状況の監視に伴うコストの肩代わりを命じる権限を欧州委員会に与えるような条項はない」とさらに裁判所は続けている。

 Microsoftのスミス氏によると、順守監視委員に関する判決は「小さいが嬉しい勝利」だという。

 「順守監視委員の問題や監視方法に関する裁判所の判断には感謝している。この点については、裁判所はわれわれの意見に同意してくれた。もっとも、この訴訟やこの判決において、これが最も重要な要素でないことは誰の目にも明らかだが」と同氏。

 裁判所によると、この判決に対する控訴は期間が限られている。「法律上、控訴は第一審裁判所の判決を受け、通知から2カ月以内に欧州裁判所に行われる必要がある」と裁判所は述べている。欧州裁判所は欧州連合の最高裁判所だ。

 IT業界団体Computing Technology Industry Association(CompTIA)の独禁法担当弁護士ラーズ・リーベラー氏はこの判決について、「欧州の自由企業体制にとって大きな打撃になる」と批判している。

 「欧州委員会の無計画な政策は、世界の技術革新の中心地として欧州諸国をサポートする代わりに、欧州連合を世界の訴訟の中心地へと変えることになりかねない」と同氏は9月17日に発表した声明で語っている。

 「今回の判決は、市場での競合各社の積極的な競争を促すというより、相互の訴訟を奨励するものだ。裁判所は、IT市場の形勢や方向性、および製品のデザインを決める上で今後政府の役人が中心的役割を担うであろうことを明らかにした。消費者の選択と市場経済という基本原則を尊重するのではなく、たとえ、政府のそうした関与が消費者の要望に反するものであってもお構いなしということだ」とさらにリーベラー氏は指摘している。

 スミス氏によると、この訴訟が1998年に始まって以来、世界や業界は大きく様変わりしており、Microsoftもまた変化を遂げたという。

 「当社が1年ほど前にWindows Principlesを発表したのも、その点を強調したかったからだ。Windows Principlesは、Windows Vista以降のWindowsの将来バージョンにおいて、米連邦法だけでなく、ここ欧州の法律をも順守するために、当社が自ら策定したルールだ。われわれは何も隠さずオープンであることを目指してきた。そして、業界のほかのメンバーとの関係強化も図ってきた。実際、当社は先週Sun Microsystemsとの新たな契約を発表し、その前の週にはNovellとも新たな契約を発表したところだが、この2社は約9年前に独禁法訴訟が始まった当初はいずれも相手側にいた企業だ」とスミス氏。

 「たくさんのことが変わった。だが、わたしに言わせれば、これまでずっと変わらずにいること、そして、これからも変わらないであろうことが1つある。それは、欧州に対するMicrosoftのコミットメントだ」とさらに同氏は続けている。

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