ドワンゴが11月14日開いた2007年9月期決算の説明会で、今期(08年9月期)の「ニコニコ動画」の事業見通しを説明した。今期から事業セグメントに「ポータル事業」を新設。営業損益は通期で赤字を見込むが、下期(4〜9月期)の黒字転換を予想。期末に無料会員900万人・プレミアム会員50万人の獲得を目指す。
小林宏社長は「1千万人を目指して突き進む時期。集客図るためにさまざまな新サービスを投入する」と意気込む。ゲームや音楽などの分野でも「ニコニコ」のシリーズ化も掲げる。
同社は10月1日付で「ニコニコ事業部」を新設。これまで「その他事業」に含めていたニコニコ動画を、新設する「ポータル事業」に区分して業績を開示する。
ポータル事業の売上高は、ドワンゴ連結売上高の12%に当たる32億4000万円を予想。主力は月額500円の「プレミアム会員」からの収入で、21億6000万円。「ニコニコ市場」のアフィリエイト収入が3億5000万円、広告収入が5億3000万円。さらに、新規事業からの収入として2億円を見込む。
同事業の営業損益は通期では1500万円の赤字にとどまるとの見通しだが、上期(10〜3月期)の3億8000万円の赤字に対し、下期は3億6500万円の黒字に転換すると予想している。
金額 | 内容など | |
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売上高 | 32億4000万円 | プレミアム会員21億6000万円、ニコニコ市場3億5000万円、広告5億3000万円、新規事業2億円 |
売上原価 | 27億4000万円 | 回線・データセンター・サイト監視15億5000万円、減価償却費3億3000万円など |
売上総利益 | 5億円 | 売上高総利益率15.4% |
販管費 | 5億1500万円 | 決済代行手数料1億3000万円、研究開発費2億円など |
営業利益 | △1500万円 | 上期△3億8000万円・下期3億6500万円 |
ドワンゴ全体の業績予想は、売上高が268億円(20.4%増)、営業利益は4億円(8.6%増)、経常利益は4億円(25.8%増)、純損益はとんとん。
11月13日時点の無料会員は401万3000人(うち常時接続可能なのは270万人)・有料(プレミアム)会員は14万4000人。1日平均ではページビュー(PV)が約6000万に達し、訪問者数が143万人、平均滞在時間は約1時間。「実際に見ればあっという間に1時間経ってしまうのが分かると思う。他のサイトと比べてユーザーは極めてアクティブ」(小林社長)という状況だ。
200万人の直前ごろ、ユーザーにIDの取得し直しを求めたことがあったが、8割が登録し直しに応じており、取り直し以降に使っていないユーザーは「多く見ても30万から20万」にとどまるという。
現在の男女比は男7:女3だが、「ただし自己申告なので、実態はもうちょっと男が多いかも」(小林社長)。これも自己申告による年齢で見ると、20代が49%で最多、10代が24%、30代が19%という順。最初の100万人までは10〜20代が中心で、300〜400万人に拡大するにつれて30〜40代などにも広がっていったという。
PVの約2.5%が海外からのアクセスという。10月には台湾版をスタートし、台湾会員は約2万人。
現在の会員増加ペースは1日当たり1万5000人。100万人獲得までのペースは加速しており、今期末(08年9月末)に無料900万人・有料50万人への拡大を目指す。
「なんと言っても今期はニコニコ中心の展開が非常に重要な戦略になる」──機関投資家・アナリスト向け説明会で、小林社長は時間のほとんどをニコニコ動画の説明に費やした。
主力のモバイルコンテンツ事業は前期は減収・今期見通しは微増にとどまる中、1人の開発者が作ったシステムからスタートし、「動画を見てニコニコしてもらえたらいいなぁと思って」(ニワンゴ取締役の西村博之氏)と名付けられたサービスが、東証1部上場・ドワンゴの新たな収益源に育つかどうか、試される1年になる。
広告売上高は10月で1800万円だった。月間の伸び率は鈍化しているが、「バナー枠がいっぱいに近づいているため」といい、今後四半期ごとに枠を増やしていく方向で検討する。
新規事業の売上高として盛り込んだ2億円は「コンテンツ課金ものなど、見込めるものだけ入れた。相手があるものなので、サービスインの予定が見えないものは入れていない」といい、それぞれ上ぶれ・下ぶれもありうる状況だ。
上ぶれ要因もある一方で、「会員数の見通しが変われば大きく落ち込む」(小林社長)ことも認める。このため「今期はとにかく成長段階」として、目標会員を獲得するために新サービスを相次いで投入していく方針だ。
今後、コンテンツを持つパートナー企業との提携を進め、「ニコニコのオフィシャル化」を推進していく。ニコニコをプラットフォームとして活用してもらい、共同ブランドによる広告展開や関連商品の販売といったECに加え、ニコニコ独自の有料視聴サービスなど、「新しい考え方のサブライセンスビジネス」も検討していく。
既にエイベックス・エンタテインメントが権利を持つアーティストの公式動画配信を始めたほか、吉本興業の芸人の動画を配信する「よしよし動画(仮)」も近く始まる予定だ。
ランティスと提携して「JAM Project」の曲をリミックスしてもらうイベントや、新作映画の一部を2次創作OKで公開するなど、コンテンツ企業と連携しながらユーザー文化を盛り上げていく試みも続ける。11月下旬に導入予定の「ニコスクリプト」など、ニコニコ独自のコミュニティーを支援する新機能も投入していく。
ニコニコ動画を軸にした「ニコニコシリーズ」の展開も図る。音楽やゲームなど「あらゆるジャンルへの可能性を探っていく」。ゲーム展開では、チュンソフトとスパイクを傘下に持つゲーム中間持ち株会社・ゲームズアリーナを活用する。
一方、公式コンテンツの配信の前提として、権利者側が求める違法コンテンツへの対応も強化する。権利者がコンテンツを直接削除できるプログラムには現時点で29社が登録するなど、「具体的な施策を評価された」として、日本音楽著作権協会(JASRAC)と管理楽曲の利用料を支払う協議も始まった。またコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)、日本動画協会、民放連とも協議を進めていることを明らかにした。
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