WiMAXネットワークを共同で構築するという米Sprint NextelとClearwireの計画が白紙に戻されたことが11月9日に明らかになったが、このニュースを受けて、多くは「ClearwireはGoogleとの提携を考えているのでは」と憶測した。
なにしろGoogleは最近、携帯端末向けのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を買収したり、オープンプラットフォーム「Android」を発表したりなど、ワイヤレス分野への本格的な進出に乗り出している。
だがその後週末にかけては、さまざまなうわさが飛び交い、ブログの世界は冷静さを失い、一部の業界観測筋はGoogleが全米第3位の携帯電話会社で時価総額450億ドルのSprintを買収する可能性を指摘するようになった。
アナリストによると、GoogleがSprintを買収すれば、これまで検索事業とオンライン広告事業に熱心に取り組んできたGoogleにとって悲惨な結果を招くことになりかねないという。
「おそらく致命的なダメージとなるだろう」とEnderle Groupのアナリスト、ロブ・エンダール氏は指摘する。両社の企業文化の違いを考えただけでも、かつて大失敗に終わったAT&TとNCRの合併やIBMとROLMの合併のように、果てしない悪夢が引き起こされるであろうことは想像に難くないという。
Googleはユーザーへのインターネットコンテンツ提供を前提に収益を上げている新時代のハイテク企業であり、一方のSprintはワイヤレスネットワークの構築を目指す、伝統ある保守的な通信キャリアだ。
確かに、Googleはワイヤレスサービスを拡充し、携帯ユーザーにも広告を配信したいと考えている。そして確かに、GoogleとSprintは既にWiMAXサービスの提供で提携を結んでいる。こうした要因からすれば、GoogleとSprintとの合併はReese'sの人気スイーツ「ピーナッツバターカップ」のピーナッツとチョコレートのようにぴったりの組み合わせにも見える。
だが、両社は別個の目標に向かっているようだ。Googleは現在安定しており、時価総額2000億ドルの翼で天空を舞っている。一方、SprintはWiMAXをめぐるClearwireとの提携が白紙に戻されたばかりか、10月にはCEOも辞任しており、安定にはほど遠い状態にある。
両社の組み合わせをさらに複雑なものにしているのは、Sprintが新たに結成されたOpen Handset Alliance(OHA)に参加している点だ。OHAは、GoogleのAndroidプラットフォームを中心としたオープンなモバイルエコシステムの構築を目指す取り組みだ。
OHAに参加する30数社の間には、オープン性を推進するグループにおいてGoogleが影響力の拡大を狙っているのではないかとの警戒感がないわけではなく、GoogleがSprintを買収することになれば、脅威を感じるメンバーも出てくるだろう。またGoogleがAT&TやVerizon、Vodafoneなど、OHAに不参加のキャリアの製品にはAndroidを対応させないのではとの懸念も生まれるだろう。
Yankee Groupのアナリスト、ゼウス・ケラバラ氏はeWEEKの取材に応じ、次のように語っている。「GoogleがSprintを買収すれば、Googleにとって大きな混乱が生じることになるだろう。Sprintを買収すれば確かにワイヤレスネットワークは確保できるが、SprintはまだiDENやCDMAのネットワークを有しており、過渡期にあるネットワークだ」
GoogleとSprintの合併を懸念する声がいかに多かろうが、GoogleがSprintを買収し、さらには来年1月に競売に掛けられる700MHz無線周波数帯の一部を確保した場合に得られるであろう影響力の大きさは否定できない。もっとも、「その可能性は正当化するのも実行するのも非常に厄介だ」とエンダール氏は語っている。
米Kelsey Groupの上級副社長兼プログラムディレクターのマット・ブース氏も、GoogleがSprintを買収するという選択肢には否定的だ。そこで同氏は冗談まぎれに、「積極果敢に挑戦したいのなら、GoogleはYahoo!とIntuitをターゲットにするだろう」と考えてみたという。
「Yahoo!が344億ドル、Intuitが101億ドルで、基本的にはSprintを買収する金額でこの両社を買収できる。Yahoo!のポータルとその4億人のユーザー、そして中小規模企業市場で87%のシェアを誇るIntuitを獲得した方がいいのではないだろうか? Sprintを買収するのはやり過ぎだ」と同氏はeWEEKに語っている。
冗談はさておき、ブース氏によると、ソフトウェアを投入し、キャリア各社と契約を交わすか、あるいは独自にネットワークを始動させる方が、Googleにとってはうまくいくはずという。
おそらくGoogleは、Sprint買収をうわさされるような行動を特に何か起こしたわけではない。だが検索と広告だけでなくアプリケーションやワイヤレスサービスにまで事業の幅を広げようとしている同社の様子を見れば、「Googleに限界はあるのだろうか? Googleが全能神として満足を感じられることはあるのだろうか?」と皆が疑問に思うのも無理はない。
「GoogleがSprintを買収するとすれば、その唯一の理由は、有機的にであれ、さらなる企業買収を通じてであれ、ほかのキャリアなど問題にならないほどの支配力を備えられると思うからだろう」とエンダール氏は語り、Googleが全能神を目指して本当にそうした行動に出る可能性もあると指摘している。
ただし同氏は、「おそらくGoogleはリスクがメリットを上回りそうだという点に気付くだろう」とも続けている。
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