角川グループホールディングスは1月25日、YouTube上で新事業を展開すると発表した。まず2月上旬に、YouTubeに公式チャンネルを設置。春ごろからは、ユーザーがYouTube上に投稿した動画に自社権利作品が含まれていた場合、権利者の許諾が得られれば「認定マーク」入りで公開し、広告収入を権利者に分配する仕組みを導入する。
子会社の角川デジックスを中心に事業展開する。公式チャンネルは「アニメ」「エンターテインメント」「ムービー」の3種類を想定。アニメチャンネルでは「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」など、YouTubeで人気となったアニメ作品の公開を検討する。
投稿動画の収益化にも取り組む。YouTubeが開発中の動画識別ツールを活用し、角川グループが権利を持つ作品の無断投稿を確認した際は、そのまま公開するか、削除するかを、各権利者と相談して決める。無断投稿でも権利者の許諾が得られれば、認定マークと広告を挿入した上で公認動画として公開する。
識別ツールは、権利者が動画をあらかじめ登録しておけば、YouTube上に投稿された動画から同じ動画を自動抽出する仕組み。今のところ、角川作品なら9割程度の精度で判別できるという。
新規に投稿されようとしている動画が権利を侵害している場合は「この動画は著作権を侵害している可能性があります」と表示して公開をいったん保留し、公開するかどうかを権利者が判断する。
権利者が許諾した場合は「認定マーク」を動画ページに付けて公開する。ページには関連グッズやDVDなどのバナー広告を掲載するほか、動画の下部に半透明の広告を10秒間ほどオーバーレイする「InVideo Ad」も掲載する計画だ。広告収入は権利者に分配し、動画再生数なども伝える。
公式チャンネルや公認投稿動画の広告枠は、他社にも販売する計画。角川グループの雑誌や携帯電話向けサイトと連動した広告企画も展開する。他社がYouTubeを活用したコンテンツビジネスに参入する際のコンサルティングも行う。
YouTube上でクリエイターの発掘企画も展開する計画だ。投稿動画の優秀作の作者を、角川グループ作品の映画監督や脚本家として起用する――といったことを検討する。
角川グループのメディアを使い、YouTubeのプロモーションも展開。「Newtype」など雑誌でYouTube特集を検討するほか、携帯電話用サイトとYouTubeとの連動企画も展開する。
角川グループの「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」は、YouTubeやニコニコ動画に無断投稿されてファンが増え、世界的な認知・人気が高まった。角川は昨年からYouTubeの活用を検討し、YouTubeが開発する著作権保護ツールのテストにも参加していたが、「まだ問題が多い」として公式チャンネル開設には至っていなかった。
YouTubeに対しては、国内の権利者団体などが昨年7月「日本発の動画はいったんすべての動画を削除せよ」と要請していた。角川もYouTubeやGoogleに対して、自社が権利を持つ投稿動画をコントロールできる仕組みと、投稿動画に広告を掲載し、収益を権利者に還元できる仕組みの導入を強く求めてきたという。
Google日本法人の村上憲郎社長は「権利者団体から要請があった自主的削除は、論理的にも物理的にも不可能。より前向きな解決策として、警告文の日本語化などできることから始めた。動画識別ツールも開発し、精度を高めてきた」と、著作権侵害問題への取り組みを強調する。
角川は今回、識別ツールの精度が実用に耐えるレベルに向上した上、ユーザー投稿動画からの収益化のめども立ったとしてYouTube活用を決めた。ただ「まだ始まったばかり」(角川デジックスの福田正社長)という認識。識別ツールの改良やビジネスモデルの模索を続けていく。
角川グループホールディングスの角川歴彦(つぐひこ)会長は「当社は『涼宮ハルヒの憂鬱』や『時をかける少女』、黒澤明監督の『羅生門』など多様なコンテンツを創造する努力をしてきた。YouTubeはもはや、コンテンツの世界共通語。著作権問題をクリアした上で、大きな収益をもたらすことを期待している。国際的なコンテンツプロバイダーへホップ、ステップ、ジャンプを目指していく」などと語った。
Googleのデービッド・ユン コンテント担当副社長は「YouTubeは単なるエンターテインメントサイトではない。日本の自民党やイギリス王室の皇室チャンネルもある。他社と連携したクリエイター発掘企画も好調だ」などと成果をアピールした。
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