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作り手を“やる気”にさせる著作権とは――島本和彦氏など語る(2/3 ページ)

» 2008年01月28日 08時02分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 「権利者側代表は『ネット上での著作権侵害や、(著作物をネット上でより自由に利用できるようにする)著作権法の“改悪”はやめてくれと強く言ってくるが、交渉の後で個人的に話すと『おっしゃることはよく分かる』と言い出す。著作物は、マス媒体に載らないと有名にならず、もうけることができないが、有名でない人にはそもそも、発表の場がない」と岩倉正和さん

 「動画共有サイトの創設者とも話したが『サイトは、米国の著作権法上は何の問題もない』と確信していた。米国にはデジタルミレニアム著作権法があり、権利者から警告を受けてすぐに削除する体制が整っていれば合法だ。日本も実務的なやりかたをもっと考えるべき。著作権法を変えるのは難しいが、特別法などで制度を作ればいい」

 著作権法が時代遅れと分かっていても、国際法であるベルヌ条約の規定にがんじがらめになっているため抜本的な改革は難しい――そう主張する法学者は多い。だが「法学者の意見は必ず現状維持にバイアスがかかっているから信用しないほうがいい。できませんは『やりたくない』という意味だ」と自らも法学者である玉井さんは述べ、新しい著作権の枠組みを考えるべきと話す。

「商用著作物を登録制に」――著作権の“新法案”

 新アイデアとして、岩倉さんと、早稲田大学大学院准教授で経済産業省出身の境真良さんが、それぞれ考えを披露した。双方とも「商用流通する著作物は登録制にしよう」という内容。それぞれ数年前に文化審議会や当時の経産省に提出したが、反対が多かったという。

 岩倉さんの案は「現状の著作権法は変えず、デジタルコンテンツの流通にのみ特別法を作る」というもの。この特別法では、商用のデジタルコンテンツはJASRAC(日本音楽著作権協会)のような管理組織に登録して管理してもらい、登録された著作物なら著作者の承諾なしに自由な2次利用を可能にする。対価は、管理組織が一括徴収して適正に配分する。

 著作物の2次利用は一切認めたくないというケースもあるだろう。「ネット上には著作物を絶対出さないという芸能事務所があり、私はそこの顧問をしているが、そういう場合は『利用されたくない』と登録してもらう」(岩倉さん)

 さらに米著作権法の「フェアユース」の考え方も取り入れる。「ネットは次々に新しいものが出てくるから法律が後から追いかけるのは難しい。フェアな使い方なら認めるようにすべき」(岩倉さん)

コミケで自由に2次創作? 契約法による対応

画像 境さん

 境さんの提案も岩倉さんに似ている。商用コンテンツを登録制にし、契約法で処理すべき――というものだ。登録時に利用条件を明記し、対価もあらかじめ定められたルールをベースに支払うことで、安心して2次利用できるようにする。

 13歳で初めてコミケに参加したという境さん。「法律と現状にギャップがあり、これまで“お目こぼし”が埋めてきたが、ギャップが大きくなりすぎ、限界に来ている」とし、このアイデアならギャップを埋められると話す。

 「最近コミケで『電脳コイル』(NHKアニメ)本を出した。NHKの知り合いに『電脳コイルのシーンを一部使うんだがいいかな?』と聞いたところ『僕は担当ではないけどたぶんお目こぼしがあるから』という答えだった」(境さん)

 「だが、どうすれば2次利用できるのかを先に宣言してもらい、それに基づけば使えるなら、こわごわ2次利用せずに済むし、悪意の2次利用も判別できる。例えば『100円払えば2次利用OK』というコンテンツを無料で使おうとする人は明らかに悪意と分かる」(境さん)

島本さん「弱い著作者にもお金が入るなら賛成」

 これらのアイデアについて島本さんは「いろいろ分からないことがあった」と困惑しつつ「(勝手に使うと)怒る人の作品は(2次創作に)使いにくいが、この仕組みなら、怒らない人にもお金が入るのでは。(怒ることができない)弱い立場としては『いくらでも使っていいから金くれよ』と思う」と感想を述べる。

 著作権を自分で管理しないで済む点もありがたいという。「漫画ばかり描いていると、何かやられても(著作権侵害されても)時間がもったいないから戦う気が起きない。かといって権利を管理してくれる人を雇って中間に入れ、その人がもうかるというのも嫌。手間がなくなるのは助かる」(島本さん)

 さらに「2次利用は人気コンテンツに集中するだろう」と指摘する。「制度をうまく利用してバカもうけする、悪どいやつが必ず出てくる。そういうやつにうまく手かせ足かせ付けながら、まともな人がちゃんと育ってくれる制度になれば」

登録制の弱点

 ダイナミック・プロの幸森さんは、岩倉さんの契約法の案を聞いた当時「とんでもない。漫画家協会を通じて抗議すべき」と息巻いていたという。

画像 幸森さん

 「登録制だと違法登録の問題が発生するし、誰が先に登録したかで権利者が変わってしまう。島本先生の漫画がヒットすると考えて、ぼくが登録しちゃういうことも可能になる。登録されたものを公示すればいいといっても、公示を毎日は見ていられない」(幸森さん)

 島本さんも「誰が最初に考えたかを証明するのは難しい」と話す。「例えば私が男性の股間を表現する『もっこし』という言葉を考え、漫画に描いてそこそこ受けたとする。でも、もっと絵がうまくて人気のある人が漫画に『もっこし』を使ったら、一般的にはその人が作ったということになるだろう。で、第三者が『もっこしストラップ』を作ったとすると、どっちにお金を払う?」

 さらに例を重ねる。「例えば、ミッキーマウスにそっくりだけれどちょっと違う絵を僕が描いたとする。それにそっくりな絵を第三者がバスに描いたとして、僕が『おまえ俺のまねしただろう!』と怒るとする。バスの絵を描いた人はミッキーマウスをまねして描いたのに『別の方向からパンチが飛んできたぞ』となるかも」

アイコラはどうなる?

 島本さんは素朴な疑問も口にする。「こんな話をしていいか分からないが、例えば有名なアイドルの写真と、まったく有名でない女の人の裸の写真を組み合わせた写真があったとして、女の人の方にもお金はいくんですかね?」

 岩倉さんは「肖像権も関わってくる問題」とした上で「著作権法上の同一性保持権は、現権利者の意志を著しく損なわないのが前提。何でも自由というのはいけない」などと答えた。

登録制は意味がない?

 「ビッグアーティストにとっては、登録のインセンティブがないのでは」――田中さんはそんな疑問を投げかける。

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