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誰でも動画の作り手に――DTM企業が「ニコニコムービーメーカー」を開発した理由(1/2 ページ)

» 2008年03月24日 11時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「ニコニコ動画」専用の無料の動画制作ソフト「ニコニコムービーメーカー」が3月5日に公開され、これまでに約6万回ダウンロードされた。同ソフトで作成された動画も増えている。

画像 ニコニコムービーメーカー

 静止画と音楽、テキストを組み合わせ、スライドショー風の動画を作成できるソフトで、ニコニコ動画では「紙芝居メーカー」と呼ばれることも。動画素材を持たない初心者にも使ってもらいやすいよう、静止画素材だけで動画を作れるようにした。

 開発したのは作曲ソフト「Singer Song Writer」で知られるDTM(DeskTop Music)ソフトの老舗・インターネット(大阪市)。動画編集ソフトの開発は初めてだ。

 「音楽も動画も、初心者にはハードルが高い」――同社の村上昇社長はこう指摘。ニコニコムービーメーカーで、動画制作経験のない人にも気軽に使ってもらい、PCによる創作のすそ野を広げたいと話す。

ニコニコの登場で、「動画を作る普通の人」が見えてきた

画像 村上社長

 同社は1988年の創業以来、ほぼ一貫して楽曲制作ソフトを開発・販売してきた。音声処理技術を応用した動画製作ソフトの開発も何度か検討してきたが、「プロの映像制作者以外で誰が使うか分からない。ユーザーが見えない」と考え、実現しなかったという。

 だが「ニコニコ動画」の登場で、風景が変わった。一般の人が日常の風景や特技を撮影し、気軽にアップロードするようになり、動画を作る一般ユーザーの“姿”が見えてきた。

 「ニコニコ動画専用の、初心者向け動画制作ソフトを作ってもらえないか」――ドワンゴから、こんな提案を受けたのは昨年9月ごろ。着うたサイト向けの音声編集ソフトを提供するなど従来から付き合いがあったが、動画ソフトの開発依頼は初めてだ。

 ニコニコ動画は、著作権を侵害したテレビ映像などの違法投稿に悩まされてきた。初心者でもオリジナルの動画作品を投稿しやすい環境を作り、著作権侵害のない動画投稿を増やすことは、ドワンゴにとって緊急の課題でもあった。

Windowsムービーメーカーもあるが……

 初心者が動画を作るための環境は、すでにある程度整っている。Windowsには動画編集ソフト「Windowsムービーメーカー」が無料で付属しているし、「Premier Elements」(Adobe)など初心者向けソフトも販売されている。

 だが「そもそもWindowsムービーメーカーの存在を知らない人も多く、動画制作ソフトはハードルが高い」と村上社長は指摘。ドワンゴニコニコ事業本部の曽原広行さんも「動画をアップしたいが、どうしていいか分からないというユーザーは多い」と話す。

 ニコニコムービーメーカーのターゲットは、動画を作成したことがないユーザー。「ニコニコ公式」という安心感と、手元にある静止画だけで高画質動画を作成できるなど、初心者を意識した設計を訴求していく。

ワンクリックでSMILE VIDEOにアップロード

画像 テキストは、挿入位置をマウスクリックで決められる

 動画制作は、画面のタイムライン上にドラッグアンドドロップで静止画や音楽ファイルを挿入し、必要に応じて字幕テキストを入力すれば終了。「アップロードする」をクリックするだけでSMILE VIDEOに投稿できる。

 ユーザーインタフェースはやや複雑でメニューも多く、動画編集経験がない人が直感的に操作するのは難しい。ただ、flv化するよりも高画質な静止画スライドショーをswfファイルで生成できる点や、ワンクリックでSMILE VIDEOにアップロードできる利便性、動きの軽さはユーザーに好評だ。

 「公開2週間前まで、動画素材も編集できる仕様だった」(村上社長)が、静止画からswfファイルを作る環境と、動画からflvファイルを作る環境を共存させることが難しく、今回は静止画を優先して動画対応をあきらめた。「ほかの動画作成ソフトと同じになっても意味がない」とし、動画への対応は今後、慎重に検討していく。

ユーザーの4割が初心者

画像 「ニコニコムービーメーカーでどんどん動画を作って投稿してほしい」と曽原さん

 公開から1週間で、同ソフトで製作・ニコニコ動画に投稿された動画の数は約5700。投稿者のユニークユーザー数は約2400で、初心者も約990人いたという。

 投稿される動画の種類はさまざまだが、お気に入りのイラストと楽曲を組み合わせた静止画スライドショーや、「ニコスクリプト」と組み合わせたアンケート動画、ゲーム動画も多い。

 ソフトの開発費用やダウンロードサーバはインターネットが負担。3月に発売したサウンド編集ツール「OPUS」と機能を共有することで開発コストを下げた。

 まずは無償ソフトで動画を作る楽しさを感じてもらう狙い。ソフトには音声素材販売ページへのリンクも備え、同社の提供する音声素材の販売につなげるほか、有償版リリースも検討する。

マイコン時代は、初心者DTMユーザーが多かった

 同社は、インターネットという言葉が普及するはるかに前の1988年に創業した。社名のインターネットは「何となく思いついた」と村上社長は言う。

 88年当時、PCがまだマイコンと呼ばれることもあったころ。MS-DOSべースのPCやMacintoshは、ネットワークから切り離された情報処理機だった。

 「当時のPC普及率は今の20分の1ぐらい。PCでできることといえば、ゲームかDTMぐらいで、他にやることがなかった。PCを持ってた人の半分ぐらいはDTMをやっていたのではないか」

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