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「日本のコンテンツ、ネットのせいで沈む」とホリプロ社長(2/2 ページ)

» 2008年03月26日 13時03分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 「自分たちが出た番組をネットに流していいかどうか選ぶ権利を奪われるのは、職業選択の自由に反していないか。過去の番組を流せばいいと言うが、今活躍してる壮年の女優さんが水着姿で出ていて『これは孫に見せられない』と言うならどうするか。そんな議論は1つもない」(堀さん)

 「昔は、2次利用という考え方自体がなかった。番組を録画したビデオにも新しい番組を重ねてダビングしていたから、過去の番組でビデオが残っていないものもある。ネット側から見れば、過去のテレビ番組が宝の山に見えるのだろうが、当時は契約書もほとんどないし、当時のチョイ役のほうが今の主役よりも価値が出ていたりする。過去の番組の価値の算定は、誰もできない」(堀さん)

 砂川さんも権利処理の問題を指摘する。「NTTはブロードバンドを引いた後、『流す物がない』とテレビ番組の開放を要求するが、テレビ番組はたくさんの権利者がからみ、ヒットするかどうかが見えないから制作時にすべての権利をクリアできるものでもない」(砂川さん)

 コンテンツの「流通」だけが重視され、創作者が軽視されているというのは、参加したパネリストの共通認識だ。堀さんは「『芸のないやつが金もうけをしていい生活をしている』などと叩かれ、コンテンツを作る人へのリスペクトが薄い」と指摘。岸さんは「文化が一番大事。文化を維持・強化しないと流通も成り立たない。権利者団体が行っている『Culture First』のような運動も重要だ」と話す。

マスメディアとネットは違う

 マスメディア向けコンテンツと、ネットに向いたコンテンツは異なるのに、同じ文脈で話していることに、そもそもの問題があるという指摘もあった。

画像 「ネット法は作る側のことをまるで考えていない。Webサイトフィルタリング推進の動きも、成長産業を殺す」と岸さん

 「日本でコンテンツを議論する人は、マスの延長でネットもいけると勘違いしているが、ネットに向いたコンテンツは、Share、Community、Engagement、Collaborate、Onlineという5つを満たしたもの。マスとネットは違うメディアだ」(岸さん)

 「スポーツ番組や天気予報は、リアルタイム性が高く、ネット上でアーカイブを見るということには向いていない。メディア特性としてどういった番組が向いているか。CSもNHKも民放も一緒くたにすると、何を議論しているか分からなくなる」(砂川さん)

 「マス向けは広くあまねく作る。ネットはバカ当たりはせず、情報は受け手が選択でき、国境もない。コアなグループをいかに作るかが重要で、コアグループの集合体になったときに爆発力を発揮する」(堀さん)

 「ネット上の流通がコンテンツの『2次利用』にとどまる限り、国民にもメリットがないだろう。テレビがネットで見られるだけでなく、新しい利用形態を提案し、『ブロードバンドならあれが面白いよね』と言えるようなサービスを作らないと」(砂川さん)

もうかるビジネスを提案せよ

画像 川上さん

 「ネット単体でもうかるビジネスが提案できていない。欧米でも試行錯誤の段階だ」(岸さん)――テレビコンテンツが本当にネット上に欲しいのであれば、ビジネスモデルをトライした上で、コンテンツホルダーに提案していく必要があるという。ドワンゴ会長の川上さんも、「自分がテレビ局なら番組はネットに出さないだろうし、出す理由がない」と話す。

 「ネットに出せば宣伝になるケースもあるだろうが、それ以外のケースで、ネット側は、コンテンツホルダーに対してもうかる仕組みを提案できていない。それなのに『コンテンツはフリーであるべき』というよく分からないスローガン的なものがまん延している。悪く言えばIT業界(動画配信インフラを持ち、テレビ番組の安価なネット配信などを要求する企業など)は、理由を付けてコンテンツをタダでだまし取ろうという傾向があると思う」(川上さん)

画像 菅原さん

 「権利者がネットに出すべきコンテンツは『昨日のテレビ番組』とは違う物にならないといけない。ネット用の動画も公開されているが、テレビより少ない予算で作られた『テレビの劣化コピー』になってしまっている。ネットというメディアで、ビジネス的に成り立って、かつ面白い、というものは、今はない。それを作っていく作業が重要」(川上さん)

 ネットでの売れ方はマスとは異なり、薄利のビジネスだとJASRACの菅原さんは指摘する。「JASRACのライセンスビジネスはマス向けだろうがネットのコアユーザー向けだろうが同じだが、経済的な規模が圧倒的に違う。着メロが急成長していた時代、1曲当たりの単価は極めて小さかった。iTunesは500万曲あるが、全部が平均的に売れるわけではない。それを踏まえた上でどう権利者と合意していくかが問題」

 堀さんは、具体的なビジネスが見えるならばコンテンツを出す用意があるという。「コンテンツでもうけるなら、飽和した日本市場を出てアジアに行くしかない。日本のコンテンツは世界で一番規制がゆるく、表現が自由で技術が高い。例えばアジア市場に出すために、期間限定で権利制限してほしいと言われれば出す。だが、そこまで考えた提案は、一度も受けたことがない」(堀さん)

 ただ、ネットにコンテンツを出す前提として、著作権意識をもっと徹底すべきと語る。「一般の人の意識が変わらないと、テレビ番組はネットに流れてしまう。『地上デジタル放送をアップすると罰せられる』、という恐怖心がないと、違法アップは永遠に続く。その撲滅にかかる費用を考えると、日本の映像エンターテインメントは沈む。経済の話をちゃんとしてから文化、技術の話をしてほしい」(堀さん)

ニコニコ動画こそインターネット

 堀さんは「ネットを全否定しているわけはない」とも話す。「テレビ番組をそのままアップするのはセンスがないが、YouTubeで『後ろ足とけんかする犬』という動画などは見ていて面白いと思う。消費者は自分で作り始めた。こういったセンスがある人をネットで見過ごすと、もうクリエイターは生まれない」

 堀さんは、NTTやKDDIといった旧来の通信事業者に対して、ドワンゴを「通信業界のインディー」と位置づける。「伝統的事業者は、新しい事業を始める時は役所に届けを出して規制を緩和してもらって――と、今まで通りにビジネスをやろうとする。そういう事業者には『タダで流してる物を安く仕入れて流して、何がいけないの?』とばかり言われる」

 「ニコニコ動画は、そことは戦っても仕方ないと考えていて『みなさんで面白い物を作りましょう』という場を提供している。これこそインターネットだと思う」

テレビが成熟したという証拠

 安念さんは「テレビというあまりに成熟したビジネスモデルから逃れるために、たいへんなエネルギーが必要とされている」と総括する。

 「テレビとネットで客層もコンテンツも異なると想定し、ビジネスモデルを想定できて初めて、コンテンツホルダーはコンテンツを出す気になるのだろう。議論はようやく、成熟し始めた」(安念さん)

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