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「出口がない」「権利者は誰」――初音ミク2次創作の課題

» 2008年03月27日 21時10分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「初音ミク」関連の創作の盛り上がりが続いている。歌声制作ソフト「初音ミク」で作成したオリジナル楽曲や、初音ミクのキャラクターを描いたイラストなどが次々に制作され、投稿サイト「ピアプロ」などに集まっている。

 「ピアプロには5分おきぐらいにコンテンツが投稿されており、創作の熱量はすごいが、せっかく作られた創作物の“出口”がないのが悩み。マッシュアップコンテンツを商用化した際、元の創作者は誰かや、誰にどれだけ利益を配分するかを決めるのも難しい」

 初音ミクの開発元・クリプトン・フューチャー・メディアの西尾公孝さんが3月27日、「東京国際アニメフェア2008」(東京ビッグサイト)のクリエイティブ・コモンズ・ジャパン主催シンポジウムで登壇し、初音ミク関連の創作の現状や課題について語った。

想定外の盛り上がり

画像 西尾さん(左)と、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの松本昂さん

 初音ミクは、昨年8月末に発売された歌声制作ソフト。声優の声を元にした合成音声で、指定したメロディーと歌詞の歌を自由に歌わせることができる。イメージキャラクターに、ツインテールの女の子のイラストを設定。同社サイトから3種類のイラストをダウンロードできる。

 音楽制作ソフトの1タイトル当たりの売り上げは平均200〜300本、ヒット作でも年間1000本という市場で、2週間で3000本、これまでに約3万本売れるという大ヒット。同ソフトで作成された楽曲がニコニコ動画に投稿されて人気となり、初音ミクを描いたイラストやアニメも続々とネット上に投稿されていった。「ここまでの盛り上がりは想像していなかった」と西尾さんは振り返る。

2次創作ガイドライン公開、反発もあった

 「初音ミクは、どこまで利用していいのか」――当初、クリプトンはミクの2次創作を「黙認」していたが、同人作家からはそんな相談が相次いでいたという。

 加えて「目に余る創作物もあった」(西尾さん)。同社はファンによる創作を広く認めたいと考えていたが、初音ミクの裸を描いたグッズが販売されるなど、同社が望まない2次創作物も増えていた。

画像 2次創作ガイドライン

 「反発もあったが、企業の姿勢としても必要と考えて」――同社は昨年12月、2次創作のガイドラインを公開。非営利で、公序良俗に反しない創作ならば自由な利用を認めた。初音ミクを商用利用したい場合は「一度相談して下さい」という立場だ。

 ただ、ゲームなどプログラムの創作物と、立体物と衣装については許諾の範囲外。プログラムは、初音ミクのエンジン部分を構成するヤマハのソフト「VOCALOID 2」の利用許諾との関係で、立体物、衣装は、ネットで共有したりマッシュアップすることができないため、許諾範囲から外した。

 だが「プログラムの2次創作もOKにしてほしい」という声が多かったため、今年2月にゲームの2次創作を解禁。その直後に、初音ミクの3Dモデルを自由に踊らせることができる「MikuMikuDance」など「すばらしいプログラムが公開された」(西尾さん)。

ユーザーがコラボレーションする「ピアプロ」

 ガイドライン公開と同時に、初音ミクで制作した楽曲や、同社が権利を持つキャラクターのイラストなどを投稿できる「ピアプロ」を公開した。

 ピアプロは、2次利用可能なコンテンツ限定の投稿サイト。「ネットに分散しているクリエイターが集まって創作できる場を提供したかった」(西尾さん)といい、例えば、曲作りが好きな人とイラストが得意な人が集まり、イメージイラスト付きの曲を作ったり、あるイラストをベースに、新しいイラストが生まれる――といったコラボレーションやマッシュアップの場となることを期待した。

画像 ピアプロ

 各イラストや楽曲のページには「使わせてもらいました」と報告する欄を設置。「ニコニコ動画などでは、他ユーザーが作ったコンテンツを無断で利用するユーザーもいるが、使ったら『ありがとう』と言えるようにしたかった」

 ユーザーによるコラボレーションも活発に行われているといい、誰と誰がどんなコラボレーションをしているか、誰がどんなコンテンツを必要としているかなど、ユーザー間のコラボレーションを管理するだけの人も現れた。同社はその様子を見て、コラボレーション専用ページ「コラボ」を3月に追加した。

 ピアプロではユーザーが自発的にさまざまな役割を買って出ており、例えば、他人が投稿した作品にタグを付けて回る「タグ職人」もいるという。

 「当社からは『○○をやってほしい』とは一度も言っていないのに、ユーザーさんが使いやすいように場を作っていってくれている。当社はその様子を見ながら、必要な機能を追加したりバグを修正したりする」

ライセンスはCCを意識

画像 ピアプロのライセンス選択画面

 投稿時のライセンスはクリエイティブ・コモンズ(CC)を意識したオリジナル。「作品の改変を許すかどうか」「氏名表示を省いていいかどうか」の2つを選んで投稿する。CCライセンスでは、氏名表示を省けないほか、「公序良俗に反しない」といったルールも定めることができないため、オリジナルを選んだ。

 クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの松本昂さんによると、CCライセンスは米国で誕生した当初、氏名表示を省くかどうかを選べる仕様だった。だが「利用者の95%が氏名表示をオンにしていた」(松本さん)ため、デフォルトで氏名表示する仕様にした。

 一方で、ピアプロでは多くのユーザーが氏名表示オフを選ぶという。日本人の国民性だろうか。

 松本さんは「米国とほかの地域では氏名表示に対する意識が違うためだろう。CCでも、地域ごとのカスタマイズを検討しているほか、東洋的なリアリティーを反映したルールを作ろうという『アジア・コモンズ』という取り組みも始めている」と話す。

出口が限られている

画像 ねんどろいど初音ミクは、初音ミク(左、中)とはちゅねみく(右)の顔を自由に変えられる

 ピアプロにこれまでに投稿されたイラストは2万5000枚(1日当たり200〜300枚)、楽曲は4000曲(同30〜60曲)、歌詞は3300(同50〜80作品)。「5分に1つのペースで増えている」(西尾さん)という。「2次創作の熱量はすごいのだが、“出口がない”のが悩み。発表する場がネットに限られてしまっている。もっと広げていきたいのだが」

 初音ミクの2次創作をネットの外に広げたビジネスの成功例も生まれている。昨年11月に予約受付を開始したフィギュア「ねんどろいど 初音ミク」は、初音ミクの顔と、はちゅねみくの顔を自由に変えられる仕様。2日で1万体の予約が入るなど異例の売れ行きを見せた

 ピアプロでも、ネットの“外”の企業と共同企画を展開。例えば、テレビ局と共同でオリジナル楽曲を募集したり、キャラクターフィギュアのデザインを募集したり、公式のアンソロジーコミックに掲載するイラストを募集したりしてきた。「とはいえ、採用数は限られている。これだけのムーブメントをどうすればいいかが課題」(西尾さん)

CCライセンスとビジネスの相克

 「クリプトンは、初音ミクの成功で、ファンアートをビジネスにまでつなげてくれ、個人作家にビジネス化への夢を与えてくれた。商用利用の場合は、クリプトンが権利を管理してくれる、という安心感もある」――個人のアニメクリエイター支援事業を行っているという男性は、会場からこう指摘した。

 例えばはちゅねみくの場合は、作者による権利管理をクリプトンがサポート。商用化の依頼があるたびに作者と相談しているという。

 ただ、クリプトンのような「個人作品の商用化をサポートする企業」がついていない個人作家には、作品をCCライセンスなどで無償公開するメリットがあまりない。反面、個人で自分の作品の権利を全て自分で管理するのも難しい。「CCライセンスで、コンテンツのビジネス化にも対応できるようにしてもらえれば」とこの男性は要望した。

 商用と非商用の狭間で、CCも悩んでいる。「例えば、アフィリエイトブログにCCライセンスのコンテンツを貼り付けた場合は、営利か非営利か、答えがない」(松本さん)

 CCライセンスをベースにしたライセンス体系を取るピアプロも、商用化が課題だ。「ピアプロからの収入はなく、ビジネス化できていない。ユーザーさんに『もうけに走った』と思われるようなやり方はよくないし、どうコントロールしていくか、さじ加減が難しい」(西尾さん)

権利の問題も

 ユーザーが創作したコンテンツの“出口”として商業化を模索する場合、避けて通れないのが権利の問題だ。

 初音ミクコンテンツは、複数人による改変が繰り返されていることも多い。例えば、Aさんが作ったキャラをBさんが3D化し、それをCさんが3Dアニメにする――といった場合、権利者は誰になるのだろうか。改変が繰り返されると、元の素材を作った人をたどれない可能性もある。関わった全員が分かったとしても、誰にどれだけの利益を配分するか、決めるのが難しい。

 「コンテンツを公に広げていきたい場合、権利をクリアしないと難しい。権利を握らない方法もあるとは思うのだが……日々悩んでいる」(西尾さん)

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