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新CEO 伊藤穣一氏に聞く、クリエイティブ・コモンズとは(2/3 ページ)

» 2008年04月15日 15時37分 公開
[岡田有花,ITmedia]

国のWebサイトを丸ごとCCに、という試みも

――CCの利用はどの程度進んでいるのか。

 どんどん増えてる。最初はブログテキストから始まったが、音楽、Flickrに代表される写真、MIT(マサチューセッツ工科大学)などが行っている、大学のコースウェア(講義資料)公開などで広がり、最近はビデオも増えてきている。

 WikipediaもいずれはCC互換になると思うが、Wikipediaも伸びている。フリーカルチャーとかクリエイティビティは着々と伸びている。

 科学者間で実験データとか素材を交換する時に互換性を持たせようという「サイエンスコモンズ」も進んできた。日本では、新生銀行が社内のITシステムやビジネスプロセスを、教育向けにCCで公開した。

 教材でも広がってきた。アカデミックのジャーナルの著作権は面倒で、Harvard Business Reviewは普通の人にはものすごい高かったりするから、CCを付けられない雑誌には論文を出さないという教授も増えてきた。

 国単位でも動きがあり、ブルガリアなどでは、Webサイトを全部CCにしようという取り組みもある。

CCがコンテンツビジネスを作る

――ナイン・インチ・ネイルズがCCで新譜を無料配布するなど、プロの利用も始まっている。

 プロはCCは使わないという議論もあったが、最近は「非商用」のライセンスで使うプロが増えてきた。ナイン・インチ・ネイルズは、CCで曲を出してから1週間で1億6000万円の売り上げがあったそうだ。新しい音楽のビジネスモデルを築いている。

 ほかにもフィンランドの学生が「Star Wreck」というパロディ映画をCCで公開したところ800万もダウンロードされ、その後海賊版DVD出たが、最終的には大手パブリッシャーがDVDを発売し、劇場公開の話が出ている。CCからフリーで出して最後にお金がまわってきた例だ。

 ブラジルの文化大臣が、自分のすべての曲をCCで公開しようという試みもある。日本のミュージシャンではコーネリアスや坂本龍一もCCを活用している。コロンビアミュージックも、リミックス可能な曲をCCでリリースしたと聞いている。

CCだけの音楽シーンも

――CCでコンテンツが開放されても、コピーやリミックスが実際に起きないと意味がない。

 CCの場合は、改変OKのライセンスでないとリミックスはできないが、改変OKの楽曲素材を集めた「CC Mixterというサイトがあり、リミックス楽曲に誰の曲が入っているかをトラッキングできる。

 パリにはCCだけの音楽シーンがあり、DJもみんなCC楽曲を使っている。CC中心のレーベルも世界中にある。パフォーマンスを中心にしたクラブシーンなんかでもちょこちょこ出ているし、音楽にはCC素材だけを利用した人気Podcastもある。

 ただ、普通のユーザーがCC素材でリミックスするためには、リミックスのソフトやサービスにCCを入れていかないとだめだろう。ブロガーはまだいいが、ビデオアーティストやミュージシャンなどは、技術や法律には明るくないことも多いので、YouTubeとかMySpaceといった一般のサービスで、CCを使いやすくしないといけない。

ライセンスの細分化は混乱の元

――CCライセンスは「公序良俗に反しない」など細かい制限を付けられない。もっと細かくカスタマイズできるようにしてほしい、という意見もあるが。

 確かに議論はいろいろあるが、適用例があまりないものは意味がない上、ライセンスが増えるほど互換性が低下し、分かりにくくなってユーザーエクスペリエンスが悪くなる。CCは今ですら分かりにくいと言っている人がほとんどなのに、増やすとさらに分かりづらくなる。

 例えば、広告入りブログを商用の一形態と考えて新たなライセンスを入れるべきかどうかについて、パブリックコメントを募集したことがあったが、「CCが複雑になる」と嫌がる人もかなりいた。楽曲サンプリングに関するライセンス「サンプリング・プラス」も2種類あったが、減らしてほしいという要望が多くて1つにした。発展途上国専用の「ディベロッピングネイションライセンス」も出したが、嫌がられた。

ライセンス以外の部分でカスタマイズを

 CCの基本ライセンス以外のメタデータを最近、ちょとずつ増やしている。CCは基本的に著作権に関連したものだけだから、肖像権とかモラルの面でのいろいろな権利、お願いごとを反映できない。

 ただ、コンテンツをシェアしたいアーティスト同士がマッチングできることが重要で、法的・著作権的な部分以外でのお願い事を、メタデータにいれていこうという検討はしている。

 「CCゼロ」というのをローンチ予定だが、これは、パブリックドメインのコンテンツ用。例えば、美術館に著作権が切れた古い絵があり、それをスキャンしてネットで公開するとする。その場合、絵自体の著作権は切れているが、「コピーする際に、できればうちの美術館がスキャンした絵だと書いてくれないか」というお願いごとを、メタデータに入れようという試みだ。

 ライセンスは1個作るたびに、CCの事務局がある40カ国の弁護士が「自分の国の法律だとどうなる」と延々議論する。法的なところが一番難しく、1個作るのにものすごいエネルギーが必要。だが、メタデータなどを技術的なレイヤーで足していくのは、もう少し少ない人数で決められる。

 今後は、例えば、同じページの中のこの写真はこのライセンスだが、ページ全体はこうだ――と、1つのページの中のオブジェクトに別のCCをあてはめていくことができるようにすることも、議論していく。

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