東京・秋葉原のとある一角にあるインターネット茶屋。この場所を中心に月2回程度、風変わりなメイド喫茶がオープンする。その名は「呑み処 雲雀亭(ひばりてい)」。「一見普通のメイド喫茶で、と書こうかと思ったが足を踏み入れた途端、全然普通じゃなかった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
よくあるメイド喫茶のフレーズで出迎えられた。メイド服に身を包んだ長身の美人たちがこちらに微笑みかける。
が、違いはすぐに分かる。店内に響くのは紛れもなく男性の声ばかり。そう、そこは女装したイケメンたちが働く“女装メイド喫茶”なのである。
女性メイドカフェともオカマバーとも違う、この独特の空気感は何だろうか。そう考えたとき思い当たったのは、このメイドさんたちは基本が「男らしさ」も残しているということだった。
メイドさんたちは丁寧な口調ではあるがオネエ言葉というわけでもないし、むしろ彼らはノリが良くて明るく、やや居酒屋っぽい雰囲気すら感じさせる。それなのに美人。このアンバランスさが独自世界を作っているようだ。
さて、このカフェの肩書きは「女装メイドカフェ」ではなく、「精神的ブラクラ喫茶」となっている。美しいメイドさんばかりではないか?
と思っていると、メイド長の紗厘(さりん)ちゃぁ〜んが登場。「もしやブラクラというのは」「そうです、私がブラクラですね。毎回いますから」
しぶいメガネにイチゴ柄をあしらったピンクのメイド服がまぶしい。これが精神的ブラクラの神髄か。年齢を尋ねると「永遠の17歳」とのこと。
雲雀亭のメイドさんの数は現在12人。彼ら(彼女ら?)の平日の職業はさまざまで、モデルの人からエンジニアまでいるというから驚きだ。女装してこれだけの美人なのだから、普段はイケメン社員として名をはせていることだろう。
このブラクラメイド喫茶は、紗厘ちゃぁ〜んの遊び心から生まれた。
2007年8月、紗厘ちゃぁ〜んが運営する某メイド喫茶で1人欠員が出たため、面白半分で、ある男性をお店に出してみることにした。彼の名はひばりくん。店名「雲雀亭」の由来にもなっている。
ひばりくんは女性ばかりの店員の中に紛れ込んだが、客は誰も、男のメイドが混ざっていることに気づかない。仕方がないから「この中に男性が1人いますが誰でしょう」と客に聞いたところ、客は正真正銘の女性であるメイドを指したという。
しばらくしてまた欠員が出たため、紗厘ちゃぁ〜んは「全員、男でやってみるか」と思い立ち、同年8月に、店員を募集することにした。募集は立ち上げたばかりの雲雀亭Webサイト上のみ。
それでも応募してきた人から選考するわけだが、採用基準は非常に高い。必須条件は3つあった。
(1)ルックスがよい
(2)飲食業経験者
(3)体力がある
(1)と(2)は分かるとして、(3)はどういうことだろうか。紗厘ちゃぁ〜んによると「パフォーマンスを重視した接客をするため、想像以上に体力を使うから」という。女装メイドは非力な男子では勤まらないのだ。
この条件で応募者をふるい落とした結果、残ったのはたったの2人。そしてすべて男性のみとなった「雲雀亭」が開店することになった。
紗厘ちゃぁ〜んが女装をすることになったのもこの時点だ。彼は女装経験はなかったものの「スタッフは全員やれ」と言った手前、引けなくなった。ついでにベースの店の店長にも女装をさせ、ブラクラメイド喫茶がついに生まれることになる。ちなみにブラクラユニットは、「ディアプリンセス」を模して「デスプリンセス」と名乗った。
このころ制服となるメイド服も作った。形は基本的に同じだが、その絵柄で個性を出している。イチゴ柄、他にもパフェ柄、カニ柄などさまざまだ。
「男装の麗人」ならぬ「女装の美青年」が集まる「雲雀亭」は女性の間で口コミで広がり、オープン時から常に満席状態。当初は8割方が女性客だったようだが今では男性客もどんどん増え、男女比は五分五分だという。
紗厘ちゃぁ〜んは女装していることをさすがに周りには言えずにいた。だが、オープンしたてのころ、地元の人々が雲雀亭に来店。紗厘さんは狼狽(ろうばい)したが、「いや最近メイド喫茶経営も大変で……」と言って何とかその場は乗り切ったという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR