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「お前らの作品は所詮コピーだ」――富野由悠季さん、プロ論を語る(4/5 ページ)

» 2008年10月31日 19時50分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 それがこういう結果になったということは、あの2人が半分は自分を殺して半分は相手の話を聞いたんです。みなさん方も、お前ら1人ずつじゃろくなもの作れないんだから最低2人、できれば3人か4人。スタジオワークをやる気分になってごらん。そしたらあなたの能力は倍、3倍になるはずだから。オスカー取りに行けるよ、という見本をスタジオジブリがやってくれているんです。

 当事者はそういう言い方しないから脇で僕がこう言うしかない。宮崎さんが公衆の面前で「鈴木がいてくれて助かったんだよね」と本人は絶対言いません。どう考えてもあの人、1人では何もできなかったんです。「ルパン三世」レベルでおしまいだったかもしれない。本人に言ってもいいです、知り合いだから。

 そういう時期から知っているから、そこでの人の関係性も分かってますから。我の強い人間のタチの悪さも知っています。みなさんもそうですよ。隣の人に手を焼いているとか、「あいつがいなけりゃもっと自由にできる」と思ってる人はいっぱいいるだろうが、若気の至りでそう思ってるだけだから。若さ故の過ちというやつですよ(笑)。これ、笑わなかった人は笑った人に理由を聞いて下さい。それは絶対にあるの。

フィールドを手に入れよ

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 一番目指さなくちゃいけないのは、34〜35までに、40になってもいいと思うけど、パートナーを見つけるべきだということです。もっと重要なのは、その人とキャッチボールができるフィールドを手に入れていくこと。

 ビジネスを大きくしたいなら、そこで必要なのはチームワーク。悔しいけど相手の技量を認めるということです。僕は例えば安彦君の技量は全部認めます。あの人の人格は全部認めません。大河原さんの技量は認めません。大河原タッチは大嫌いです。でもそれは絵のタッチのこと、デザインはまた別です。「惚れたら全部正義」と思うのがいけない。何を取り入れて何を捨てるか、ということをしなくてはならないんです。

 僕の場合はサンライズという制作者集団があって、その上にフリーの人間が乗っかって1つの作品を作るという構造があったから良かったと思います。1人の人間の365日の生活費を保障するのはとても大変なことです。ですからそういう関係でない、スタジオワークを完成させていくということはとても大事なことです。

自分が手の届く範囲のことを一生懸命やれ

 まさか僕は70近くになってこんなふうに話ができるような身分になれると思ってなかったんです。40年前、30年……20年前までそうでした。税務署で「アニメの演出」と言うと「何やってるんですか」としょっちゅう言われましたから。そういうことから考えたらめでたいと思っています。

 めでたさを自分のために手に入れるにはどうすればいいか。宮崎駿さんがある講演会で言っていた、同じことを言わせてもらいます。「自分が手の届く範囲のことを一生懸命やることが一番の宝だ」というのは本当だと思います。年寄りの忠告になるんですけど、それを信じてやってほしい。どういうことかというと、男の人に特に言うが、エロサイト見てる暇あったら自分の技量を磨け。

大人の嘘が許せなかった

 原理原則の話をします。自分の立たされている立場や職業、技術が何に則っているのかが分かればいい。僕の場合はテレビアニメの仕事しかできなかった時に、それでも「好きだった映画の仕事ができていい」と思ってた。でも「鉄腕アトムじゃ嫌だな」ということはえんえん思っていました。

 小学校5、6年のとき日本初の怪獣映画「ゴジラ」が許せなかったんです。ゴジラが出ている画質と人物だけの画質が違いすぎるのになぜ同じ作品と見なくてはならないのかというのがあって。

 自衛隊、当時は保安隊と言ったかな、のF86の戦闘機のミニチュアが出てきたんです。でも木製のミニチュアがミサイルを撃っている時に揺れるんだったら、それは絵にしないほうがよかったんじゃないかと思った。ミニチュアを見せるならそれはやめてほしかった。そういう配慮がない。

 配慮がない円谷の特撮が「すごいすごい」と言っている大人がいたりすると嘘だろうと思った。見れば分かるのに、見て分からないふりをする。「大人の嘘つきを信用しない」と思った。

SF好きが作ったSF映画はつまらない

 SF映画は一番好きなジャンルのはずなのにみんなつまらなかったのね。ロケットや宇宙人が出てこない映画の方がなぜか面白いんですよ。

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