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「上昇志向、ないんです」――「やわらか戦車」作者の今

» 2008年11月10日 12時52分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 やわらか戦車のFlashアニメは現在「livedoorネットアニメ」で16話まで公開中

 「やわらか戦車 やわらか戦車 他のツイズイを 許さぬ弱さ」

 ネットから火がついたFlashアニメ「やわらか戦車」は2006年、ヒット街道を駆け上った。キャラクターグッズが40以上発売され、コンビニで販売した食玩は20万個売れた。DVD第1弾は数万枚売れ、今年10月に第2弾も発売した。

 作者のラレコさん(36)はクリエイターとして注目され、07年末、NHKの「トップランナー」にも出演。08年秋には東京大学で講義も行った。

 「上昇志向はないんです」――積み上がる実績とは裏腹に、ラレコさんは気負いなく言う。「どこに出ても、申し訳ない気がして」。自分が作った面白いものを、たくさんの人にばらまきたい。やりたいことは、それだけだという。

 住まいは茨城県つくば市。東京での仕事も増えたが“上京”するつもりはない。ネットと電話があれば仕事のやりとりはできる。お金は「家族が食べていけて、作り続けるだけあればいい」。

批判され、へこんだが……「作品が面白くなかったんだと思う」

画像 ラレコさん。当初は顔を出していなかった。作家は作品が顔だと思っていたから。だがサイン会などで顔を見せないのは不自然と考え、最近は顔を出してファンと交流している

 「守銭奴」と批判され、根も葉もないうわさをばらまかれて落ち込んだこともある。やわらか戦車のグッズ発売が決まり、「日本のメディア芸術100選」(文化庁主催、ネット投票で決定)で「スーパーマリオブラザーズ」など名作を押しのけてエンターテイメント部門1位になった06年末。グッズ販売が「もうけ主義」と批判され、受賞は「人気のねつ造」とネットでひどく叩かれた。

 「あることないこと書かれて、それがネット上で事実とし確定していった。毎日何人もから『死ね』と言われて、殺人予告され、才能がないと言われ続けて」

 ひどく落ち込み、モチベーションも下がった。同じように叩かれてつぶれていくクリエイターも見てきたし、自分もそうなるのではという恐怖もあった。だが、そこでつぶれてしまうことはなかった。「批判の内容があまりに事実無根だったから。それに、自分に叩かれるスキがあったんだろうと思ったから」

 「作品が面白くなかったんだと思う。商品化にかまけて作品をきちんと作り切れていないという自覚はあって、実際、痛いところを突かれていた」。そう考えた、それ以降作品が変わったという。「どうせ叩かれるならもっと頑張ってから叩かれようと思って」

“一見さん”に届けたい

 ネットでは内輪ウケや2次創作が爆発力を持つ。「2ちゃんねる」で流行したネタや、特定のアニメに関するネタなど、ネットのコアユーザーに受ける内容をFlashアニメに盛り込んで「ニコニコ動画」で発表すれば、ネット上では大きな反響が得られる。

 その面白さは知っているし、否定もしないが、そういう作品を自分で作りたいと思わない。

 「狭い世界で流行するような内輪ウケではなく、“一見さん”に届けて、面白いと言ってもらえるものを作りたい。ぼくが好きなクリエイターは、そんな人たちだったから。ぼくが作りました、って、胸を張って言いたいんだと思う。手柄を1人占めしたいんです(笑)」

 「のまネコ」騒動を引き合いに出す。「のまネコは面白かったと思う。でもあれは、どこかで見たようなキャラだったのに、作者の人が『自分で作りました』と胸を張っちゃったからつぶれてしまった」

 Flashアニメを個人的に発表するようになった当初はネット受けを意識していた。だが「やわらか戦車」は、ライブドアという大手ポータルから配信するために作った作品。内輪ネタは入れず、できるだけ間口を広く、分かりやすく作った。

 その結果「知人の反応は良くなかったし、ネットでも『つまらなくなった』と言われた」が、ネットの“外”に受け入れられた。テレビの取材や商品化の話が舞い込み、“一見さん”の心に届いた。

画像 発売したばかりのDVD第2弾には「やわらかアトム」も収録した

 Flashアニメを作り始める前の夢は漫画家。諦めていた夢に今、少し近づいている。昨年、手塚プロから声がかかり、「やわらか戦車」と「鉄腕アトム」を掛け合わせた「やわらかアトム」という作品も手がけている。「手塚さんは“ゴッド”。漫画の神様から声がかかった気がしてうれしかった」

 ラレコさんは1人で何でもこなす。Flashアニメの制作、アニメで流す歌の作詞作曲、声の出演、、グッズの監修、携帯電話向けコンテンツ制作――絵本を作ったときは、文字のルビ振りまで自分でしてしまった。「器用貧乏なんですよ」

 これからやりたいことは「目の前の仕事をやりきること」。「グッズ化とか、いろんな騒ぎの中で時間を取られて作り切れなかった、という感覚がある。DVD化とかで忙しいけれど、作品作りにじっくり向き合いたい」

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