blues walkerの大きさは、演奏時で770×125×65ミリ(幅×奥行き×高さ)。たたんだ時は390×125×75ミリと約半分の長さになる。弦の長さが626ミリなので、たたんだ時は弦長よりも短くなるのだ。
「ハーモニカプレーヤーのポケットに必ずハーモニカが入っているように自分も常にギターを身につけていたい。長い間そんな思いを抱いていました」と島野氏。当時、自動車鈑金工だった彼はドアヒンジ(ちょうつがい)にヒントを得て、「これでとりあえず作ってみよう!」と実行に移した。
コンセプトは、弦長(弦を支えている2点間の距離)を縮小せずに(リアルな演奏をするため)限りなくコンパクトに折りたたんで持ち運べること。まず弦長の半分くらいの長さがバッグに入る長さだったので、その長さまで縮めることを目標にした。
ギターのヘッドにはペグ(糸巻の部品)がついていて出っ張っている。このスペースが問題だった。そんな時ひらめいたのがボディそのものの伸縮機能だ。本体をしまうとき、数センチ収縮するスライド機構を備えることで、たたむ前の本体長さを弦の長さと等しくできた。これを半分に折り曲げると弦長のおよそ半分の長さになりバッグに入る――というわけだ。
当初ペグだけを部分的に見ていて悩んでいたが、製品全体をながめた時に思いついたという。この瞬間、blues walkerは単なる折りたたみギターではなく、折りたためて伸縮するギターになったのだ。さらにこの機構は、一気に弦を緩めたり張ったりできるという一石二鳥の発想だった。ちなみに、この伸縮機構は特許も取得している。
もっとも困難だった点は、全体のバランス取り。ネックは背面に折ることによって、ボディ裏側にもぐりこませ収納時の厚みを押さえた。ボディの伸縮は、オートバイのフロントサスペンション(テレスコピックサスペンション)をヒントに、2本の柱を出入りさせる構造を採用。弦の張りに打ち勝てるような、リンク構造も備えたという。
「しかし、これらのアイデアは“ケンカ”するんですね」(島野氏)。ここがぶつかる、ここにこの部品が入らない、弦の振動が延びない、音が悪い、楽器としての色っぽさがなくなる、コンパクトさを考えると強度が落ちる、強度を考えると大きくなる――といった問題が生じた。結局、「考える、考える、考える!」「やってみる!」「失敗する!」「息抜きをする」と試行錯誤して解消したのだった。
彼のアイデアの原点は非常に素朴だが、それを具現化するにはそれなりの苦労があった。アイデア同士は具現化段階でけんかをする。アイデアと現実的な制約もケンカする。それを乗り越えるのは「やって失敗」を繰り返すこと。誰もが知っている当たり前のことだけれども、それを当り前に実行し続けることは、実はつらいものだ。アイデアマンは、発想力と具現化の努力をセットで持ちたい――今回の取材で改めて強く感じた筆者であった。
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